表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1701/1785

1688 頑張っていた人はここにもいるということを忘れるな

 今のままだと解呪しきる前にオセアンは魔力を使い果たして力尽きるだろう。


 これをなんとかするのが俺の仕事である。

 法王の呪いを解呪すべくオセアンが必死になって頑張っているのだ。

 無駄に失敗させる訳にはいかない。


 リトライできる類いのものなら、手出しをしないことも考えたかもしれない。

 それも勉強にはなるからな。


 成功の体験は何よりの糧となるが、失敗からも得るものはある。

 あまり失敗が続くと負け癖がついてしまうので注意が必要だが。


 なんにせよ、今はオセアンを失敗させる訳にはいかない。

 法王へかかる負担が再度の解呪ということで倍になってしまうからな。


 床に伏せる者へ鞭打つような真似をするほど鬼ではないつもりだ。

 それができるなら本物の鬼畜であろう。

 故にオセアンには頑張ってもらわねばならない。


 しかしながら如何に頑張ったところでガス欠だけはどうにもならない。

 今から内包型の魔法に切り替えろと言ってもできるものではないからな。

 自力で魔力の消費効率を上げるにはそれしか手がないのは事実であるが。


 高速走行中の車から飛んでいる飛行機に乗り移ろうとするようなものだ。

 しかも飛行機の操縦方法を知らないときている。


 これでは、どうにもならないだろう。

 現状のままでは必要とされる魔力の総量が大きく不足することは分かっていてもね。


 オセアンは当初、ギリギリだと見積もっていたようだが。

 そうでなかったのはオセアンが思っていた以上に呪いが強固だったせいであろう。


 見極めを損なったのは仕方のないことだとは思う。

 明らかに格上の相手がかけた呪いだからな。


 そんな訳で妖精組によって回収されているロス分の魔力に干渉することにした。

 俺の魔力を注ぎ込んで同調させて馴染ませるだけなんだけどね。


 今まで消費されたのと同等の量を放り込む。

 これでオセアンは問題なく解呪できるだけの魔力を確保できるようになった。


 ただし、本当の意味で魔力をゲットするにはもう一手間が必要だ。

 今のまま俺の魔力をオセアンのものとかき混ぜてしまうと変質してしまうからな。


 おそらくオセアンでは使えなくなってしまうだろう。

 己の魔力ではないということで拒絶反応を起こす恐れがあるせいだ。


 異なる血液型で輸血するようなものと言えば、どれほど危険なものか分かるだろう。

 魔力の扱いに習熟していれば、それでも己の中に取り込んで使えるんだけどね。


 それが証拠に妖精組は俺が魔力を放り込んでも驚きも慌てもしない。

 俺が何がしたいのかも分かっているだろう。


 ただ、現状でそんな働きをオセアンに要求するのは酷すぎるというもの。

 そんな訳で集められたオセアンの魔力を読み取って俺の魔力をシンクロさせていく。


 同調してしまえば、かき混ぜるまでもない。

 魔力は自然とひとまとまりとなっていった。


 このあたりは輸血ではちょっと考えられないことだな。

 あとは妖精組がオセアンに戻していくだけだ。


 これで解呪が終わってもオセアンは倒れたりしないだろう。

 その後はポーションを飲めば、もう一仕事できるって訳だ。


 え? 精神的な疲労はしてるはずだから無理じゃないかって?

 大丈夫、大丈夫。

 疲労回復ポーションがあるからね。

 何の問題もないさ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結論から言うとオセアンは解呪に成功した。

 終わった後は滝のような汗を流してその場にへたり込んでしまったけどな。


「鬼だな」


 呆れ顔でビルが呟く。


「そうなのですか?」


 よく分からないと言った具合にカエデが聞いていた。


「おいおい、あれを見て何とも思わないのか?」


「解呪は成功しましたね」


 ビルの言葉に若干の訝しむ表情を見せながら答えるカエデ。


「……………」


 ウソだろと言わんばかりの顔で言葉を失い唖然とするビル。


「それにオセアンの魔力は枯渇しませんでしたし」


「当たり前だ。

 賢者様が補給していたんだからな」


「そうだったんですか?」


 可視化されていない魔力を見る術をまだ持たないカエデが首をかしげながら聞いている。

 それを思い出したのであろうビルは諦観を感じさせる溜め息をついた。


「でなきゃ、とっくに魔力切れを起こしてるっての」


「なるほど」


 ビルの指摘を受けてカエデが、言われてみればという顔をする。

 うんうんと頷きながらしばし考え込むと──


「これは、とても効率的な鍛錬でしたね」


 などと感心しながら感想を述べた。


「適度な負荷で高い集中力をずっと維持させる。

 こんな方法があるとは夢にも思いませんでしたが。

 ある意味、理想的な鍛錬だったのではないでしょうか」


「ウソだろ、おい……」


 ビルが呆然としながら呟く。


「賢者様の同類がここにもいた」


 随分と失礼なことを言ってくれるじゃないか。

 まあ、目くじらを立てるほどのことでもないとは思うけど。


 それでもカエデのことをなんだと思っているのかとは言いたくなったさ。

 察するに特訓マニアとかそれに近しい印象を持たれてしまった気がする。


 当のカエデは特に抗議するでもなく無反応ではあるが。

 本人がそれでいいなら俺は口出しすべきではないだろう。


 その間に俺はオセアンに疲労回復ポーションを渡していた。

 のろのろとした動作で受け取り包み紙を解いていくオセアン。


 ただ、グミポーションが中から出てくると躊躇わずに口へと放り込んだがね。

 顔をしわくちゃにさせながらも咀嚼して飲み込んだ直後には復活していた。

 そして、すぐに立ち上がる。


 まだ終わりではないという自覚がちゃんとあるようだ。


「続いて浄化ですね」


 引き締まった表情で詠唱準備に入るオセアンだ。

 ビルがそれを見て目を丸くさせている。


「こっちにも同類が……」


 脳筋を見るかのように言わなくてもいいじゃないか。

 本人がやる気を見せているんだからさ。


 ただ、そのやる気は空回りしたものだと言わざるを得ないのだが。


「何を言ってるのかな?」


 俺は指摘すべくオセアンに問いかける。


「え?」


 一瞬、驚いたような表情を見せたオセアンが怪訝な面持ちで振り返って来た。


「ですから、法王陛下の浄化ですが……」


 困惑しながら言ってくる。

 俺が何を問いたいのか分からないと、その表情が物語っていた。

 この調子では、浄化をしても何の意味もないことに気づいていないのは明白だ。


「法王の状態をよく見てみるんだな」


 故に俺は確かめるように促した。


「えっ?」


 促されたオセアンは驚きの声を漏らす。

 一瞬、何を言われたのか分からなかったようだ。

 ワンテンポ遅れて頭に言葉が届いたらしく──


「法王陛下を……」


 呟きながら横たわる法王を見直した。


「あっ」


 困惑の表情が瞬時に驚きのそれへと転じた。

 ようやく気づいたみたいだな。

 法王が既に浄化を必要としない状態であることに。


 それだけオセアンは解呪に集中しきっていたって訳だ。

 そして、解呪の完了後は疲労で確認する余裕がなかった。

 回復してから俺に指摘されるまで気づかなかったのは思い込みがあったからだろう。


 このあたりは修正が必要だな。

 まあ、今日はこれで良しとしておこう。


 どうせ日を改めて内包型の魔法を教えることになるんだし。

 その際、修正についても一緒にすればいいだろう。


「どうして?」


 思わずといった感じで疑問が口から漏れ出るオセアン。

 自分は解呪にかかりきりで同時に浄化までする余裕がなかった。

 そう思っているからだろう。


 他の誰かが魔法を使ったとは夢にも思っていないようだ。

 まだまだ修行が足りんよ。


「そりゃあ法王も戦っていたからに決まっているさ」


「え?」


 オセアンは俺の言った言葉の意味が分からなかったらしい。

 戦っていたとはどういうことなのかと困惑の表情を浮かべていた。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ