167 問い合わせてみた
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
皆が寝静まった頃合いで脳内スマホのアドレス帳を開く。
登録されている者が寂しい状態なのは俺がぼっちだからではないと思いたい。
ローズ以外だと神様と亜神だけしか所持していないし。
脳内スマホは極めて高度な霊的能力が必要とされるらしく複製できないんだよなぁ。
通話やメールがあるだけでも便利なんだけど……
互換性はないけど、実体のある通信機器を作るのもありか。
とりあえず今は厄介そうな問題を相談するために連絡だ。
できれば丸投げしたいと思っている。
『RRRRR』
コール音が頭の中で響いている。
『RRRRRRRRRR』
前回なら既に出ている頃合いなんだが、遅いな。
大事な用なのに。
『RRRRRRRRRRRRRRR』
何回もコールしているのに出ない。
普通なら留守電に切り替わりそうなものだが、その気配すらない。
頼むから出て欲しい。
『RRRRRRRRRRRRRRRRRRRR』
こんだけコールされて気付かない? そんな訳あるかっ。
『RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR』
脳内スマホで居留守を使うとか、いい度胸だ。
真面目な話をしようとしているのにこの仕打ち。
良かろう。ならば戦争だ。
いや、戦争にもならないな。
この電話を切って統括神様に苦情を入れればジ・エンド。
連絡先は登録されていないが、そんなものは知っている相手に聞けばいいだけのこと。
ルディア様と言いたいところだけど色々手を尽くしてダメならってことで時間がかかりそうなんだよな。
その点、ラソル様なら面白そうってだけでストレートに手を貸してくれるはず。
『いやー、待ってくれないかなあ』
回線を切ろうとしたら向こうとつながった。
『凄く嫌な予感がしたんだけどぉ』
面倒な話と上司の叱責だと後者の方がより嫌だったらしい。
『大変お忙しそうで申し訳ございません、エリザエルス様』
とりあえず慇懃に挨拶だけして回線の切断操作をする。
切れない。
『嫌だなあ、そんな他人行儀な呼び方』
『お手を煩わせるのは本当にご迷惑になるでしょうから回線をお切りください』
何度、切ろうとしても通話状態が維持されている。
『エリーゼと呼んでくれていいんだよ。なんだったら、おば様でも構わないから』
最後のは何の冗談かと思ったんだがマジらしい。
そういやベリルママは従姉だけど姉のような存在と言っていたな。
性格は似ても似つかないけど。
『いえ、畏れ多いです』
欠片もそうとは思われないような冷徹な感じで返事をする。
『どうもお忙しいようですし、依頼は統括神様に出させていただきます』
電話の向こうで声なき悲鳴が上がったような気がした。
『いやいやいや、待とう。是非とも待とうじゃないか』
本格的に焦ってるな。
もしかして神様でもお仕置きとかあるのかね。
『済まない。電話に出なかったのは本当に申し訳なかった』
声が震えているのは気のせいじゃないよな。
本気で怖がってるよ。
どうやらお仕置きはあるらしい。
が、そんなことを気にしている場合ではない。
俺はさっそく寝る前に行ってきた大森林地帯での出来事を話した。
俺の説明が終わると沈黙が訪れた。
エリーゼ様は何も語らないが現地の様子を確認しているのだろう。
『済まない』
沈黙を破った最初の言葉は謝罪であった。
『これは本格的にマズい』
『え?』
『少し時間をくれないか。ハルトが統括神様に連絡を入れると言ったのも頷ける』
そこまでヤバいのか。
『あのー、うちの国民の身内が行方不明になっているんですが』
これがあるから電話したようなものだ。
『どうにか安否確認したいのですが、それもできない状態なんでしょうか』
『結論から言えば死んではいないとしか言えないかな』
ずいぶんと歯切れの悪い返事だった。
『死ねば必ず魂がリストアップされるんだけど、それがないのでね』
神様をして存在を感じさせない?
なんかそれ覚えがあるぞ。
神様が用いるシステムさえ欺くことができる代物。
暴走した神のなれの果て、もしくは神の残骸と言うべき存在。
『神の欠片だ!』
『あー、気付いちゃったかぁ』
気付かないはずがない。
アレのせいで昔馴染みにサヨナラもできなかったんだから。
『じゃあ、その森林地帯に行くの禁止ね』
どうしてとは聞かない。
神様でさえ注意深く観察してようやく気付けるものを俺がどうにかできるはずもないのだから。
『まさか、これのせいで世界の歪みが発生してるんじゃないでしょうね?』
『うん。そうだね』
そりゃあルディア様たちが躍起になっても取りこぼしが発生する訳だ。
『下手すると西方人の手に負えなくなるような事態に発展しかねないのでは?』
『それは大丈夫』
『どういうことです?』
『すでに統括神様に報告して処理班が動き始めているから』
『処理はエリーゼ様がするんじゃないんですか』
『神の中にも得手不得手があってね。餅は餅屋という諺があるだろう?』
言いたいことは分かるんだけど、もやっとする。
面倒事は丸投げするサボりたがりの匂いがプンプンするのだ。
得手不得手があるとは言ったけど自分がそうだとは言ってないし。
変な所で勘が鋭い割に全力で仕事したくありませんな態度を今回見せられたもんな。
『早々に解決してもらえるなら何だっていいです』
『あ、それなんだが──』
この瞬間、俺はヤバいと思った。
絶対に面倒な仕事を押しつけられるとね。
『いつとは言えないんだけど後で仕事してもらうことになるからよろしくねっ』
最後の『よろしくねっ』が別人のように可愛らしい声になっていたよ。
これが漫画とかの台詞ならハートマークまで付けられてたかもね。
エリーゼ様のことを何も知らない相手ならときめいたかもしれないが俺はゲンナリさせられたさ。
『詳しいことはメールで、じゃっ』
短く言い残して電話終了である。
やられたとしか言い様がない。
できれば熨斗を付けてお返ししたいところだが、そうも言ってられない。
ベリルママが帰ってきたときに世界が滅茶苦茶になってましたなんて報告はできないもんなぁ。
それはさておき、さっそくメールが来たようだ。
[エリーゼからのO・NE・GA・I]
タイトルからして脱力ものなんですが?
[いやー、ごめんねえ。仕事押しつけちゃって]
本文の出だしがこれか。
[今回の神の欠片って処理するのが極めて大変でねー]
とても大変そうには思えない。
[極めて]と[大変]の間に二重線で消した[面倒くさい]があるせいだ。
[砂粒みたいに細かくて沢山あるんだわ]
この一文で納得はしたけど。
[処理班は優秀だけど処理に時間かかるから行方不明者の捜索はしばらく待ってね]
いつ終わるかは問い合わせても無駄だろう。
これ、シリアスな文面で読まされたら何処まで落ち込むことになるやら。
エリーゼ様は俺をあえてムカつかせてダウナー状態に陥らないようにしてくれたのかもな。
[でもって欠片に影響を受けた変なのがいるのよ]
変なのって何だ? 魔物か? ゴーレムか?
[そいつらぶっ飛ばすのが今回の君の仕事なんだな、これが]
仕事は理解した。
[以上]
どこが『詳しいことはメールで』なんだよっ!?
もうやだ、この神様。
読んでくれてありがとう。




