表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/1785

164 ガンフォールも苦労する

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

「誰じゃ、その女子は」


 ガンフォールの執務室に入るなり妙な顔をされて問われた。

 おなごなんて言い方を耳にしたのは学校の授業で習って以来だよ。

 こっちの世界の共通語を喋っているはずなんだけど感覚は日本語だ。

 国元ではミズホ語と称して日本語も使ってるけどさ。

 まあ、年食ってる相手から聞くと違和感は少ない。


「俺が呼び寄せたシヅカだ」


 こう言っておけば国元から呼び寄せたと受け取ってくれるだろう。

 龍を召喚したなんて知られたら、蜂の巣をつついたような騒ぎになりかねないからな。


「主の護衛役を仰せつかったシヅカじゃ。ジェダイト王よ、これからよろしゅうにな」


 ここに来るまでに念話で多少の説明はしておいたのでシヅカも状況は把握できている。

 念話だと言葉で喋るより意思の疎通が高速でできるのが便利だ。

 そんな風に念話の中で話したらツバキに呆れられた。


『主よ、高速の念話をされると追いつけぬ』


 実際に確かめてみたら3倍速あたりでギブアップされた。

 シヅカは普通に会話できていたけど。


「ガンフォールじゃ。こちらこそよろしく」


 妙に堅苦しいなと思ったものの諦めたような目をしているガンフォールを見てなんとなく理解できた。


「いったい何をどうしたら、ホイホイと強者を連れて来られるのか」


 理解不能だとばかりに頭を振っている。


「俺は自由に生きる男だからな」


 答えになっていないが押し通す。

 ガンフォールは深く溜め息をついた。


「そもそもお主は何処から来ておるのじゃ」


 呆れた面持ちのまま問いかけてくるガンフォール。

 問わずにはいられなかったのだろうが、そこに覚悟があるとは思えない。


「いいのか」


「なに?」


「今のガンフォールになら教えてもいいが、知れば後戻りできなくなるぞ」


 ある意味、最終確認である。


「大袈裟じゃな」


「大袈裟なものかよ。興味本位で聞けば後悔することもありえるからな」


「……冗談、ではないのじゃな」


「こんなこと真顔で言うと思うか」


 切り返すとガンフォールは重苦しい雰囲気から逃れるように天井を見上げてしまった。


「ボルトはどうする」


「えっ、自分ですか!?」


 まさか覚悟の問いが自分に向けられるとは思わなかったのだろう。

 ギョッとした表情のまま固まってしまっている。


「おいおい、秘密を話すかどうかってときに例外を認めるわけないだろ」


「それはそうですが……」


「ここに残るなら覚悟ありと見なすぞ。自分は何も聞いていませんとか通用しないからな」


 俺の言葉に真顔に戻ったボルトの顔色が悪くなっている。

 薄紅色の髪や髭は血色の悪さが際立ってしまうから隠しようがない。

 覚悟が甘ければ後悔することになると感じ取ったようだ。


 この調子ではガンフォールもボルトも即決は無理だろう。


「先にそちらの用件を聞くとしようか」


 そう提案すると、2人してホッと安堵の溜め息をついた。

 思った以上に重圧があったらしい。

 そりゃ悪いことをしたな。


「で?」


「うむ、いくつかある」


 ひとつじゃないってのは少々予想外だ。


「まずは前にハルトが言っておった技術交流についてじゃ」


「ああ、飢饉対策で有耶無耶になっていたな」


 お姫様が来る前に少しでも進めておこうってことか。


「正直、あのような魔道具を見せられると交流にもならんと思うのじゃが」


 試作自動車のことを言ってるんだろうな。

 まあ、あれはうちの最先端技術の結晶みたいな部分はあるけど。


「うちは技術力はあるが芸術センスがなぁ」


「そういうものは学ぼうと思って学べるものでもなかろう」


 ガンフォールは苦い顔で返事をする。


「一品ものの独創性について言ってるんじゃないさ」


 ではどういうことかと目で問われる。


「どの工房でも量産する低価格帯のものがあるだろう」


 ドワーフの基準で言えば手が込んでいないものというだけで市場では高級品として扱われるのだが。


「シンプルなものでも品位を感じさせるものは多々あるし量産品ならではの均質的な造形も見逃せない」


 伝統的な技法を大事にしているからこそだ。

 日本でもあったことだが、そういうのを無視して乱造すると粗製なものしかできなくなり客離れが起きる。

 結果として工房が廃れてしまうということをドワーフたちも分かっているのだろう。


「そういう手本があるだけでもセンスは磨かれると思うがね」


「むう」


 ガンフォールが唸っている。


「いま無理に結論出さなくていいぞ」


「いや、できれば決めておきたい」


「性急だな。何かあるのか?」


「ワシらの交流が濃密であることを示せればゲールウエザーに対する牽制に使えるかと思うてな」


 ガンフォールのお墨付きも補強しておくに越したことはないということか。


「一筋縄じゃいかないと?」


「うむ。横槍は何処から入るか分からんからのう」


 思いつきで行動しているような俺と違って色々と考えてるね。


「ガンフォールには悪いが、向こうの出方次第で相応に動くだけだ」


 ブリーズの街では色々な相手の世話にもなったが帳消しにするようなことがあるなら手を引くだけだ。


「分かっておる」


 苦笑いが返された。


「ワシらも山ほど貸しがある奴らが義理を欠くなら縁を切るつもりじゃ」


 ガンフォールの方が俺よりドライかもしれん。


「その様子だと障害になりそうな馬鹿がいるのか」


「馬鹿はいないな。前はどうしようもないのがいたが」


「へえ」


 何となく想像がつく。


「前の宰相補佐官なんだが、こいつは失脚したそうじゃ」


 ビンゴ!

 というより奴と同等のクズが何人もいたら、まともな国という評判は嘘ってことになる。


「火のない所に煙は立たない」


「何じゃそれは」


「遠い国の古い諺だよ。事実もなく噂になるはずがないという意味だ」


「深い言葉じゃな」


 ガンフォールは感じ入ったように頷いている。


「で、他に要注意なのはいるのか?」


「鬱陶しいのが何人かいるくらいじゃな」


「やれやれ、こじれる恐れはある訳だ」


 しょうがない。

 少しばかりシノビマスターに出張ってもらおうか。

 俺が王女と会っているときに自動人形でアリバイ工作をしておくとしよう。


「焦って話を進めると相手に足元を見られそうだな」


「無理に話を推し進めぬ方が良かろう」


 まったくもって面倒だ。


「なら、俺らの商談がほぼ決まりという話をするだけにしておくか」


「なんじゃと?」


「一応、義理を果たすためにそちらの意向も聞いておくってスタンスにするのさ」


「仲間はずれを演出する訳じゃな」


「ああ、お前らいなくても俺らは困らんと言われたら焦りはしなくても気にはなるだろ」


 それで乗ってこないなら仕方ない。

 そこまで義理立てする必要はないから帰ればいいだけの話だし。


「最悪、国がダメでも商人ギルドを介した支援活動くらいはするさ」


 ガンフォールが軽く溜め息をついた。


「成人して間もないヒヨッコの考えではないな」


 俺の中のちぐはぐな部分を無意識に指摘されているようで思わず苦笑してしまった。


「何にせよ技術交流に関しては、この一件が落ち着いてから煮詰めるとしようぜ」


「む、それでは──」


「決定でいいんだろ?」


 ゲールウェザー王国には事細かに説明する義理はないのだ。


「そういうことか」


「そういうことだ」


 俺たちは互いにニヤリと笑った。


「で、次の話は?」


「うむ。紙とペンが欲しいのじゃ」


 ガンフォールによるとドワーフはヒューマンより紙を使う頻度が高いらしい。

 それ専門の職人がいるというだけあって見せてもらったサンプルはこの世界の紙にしては高品質だった。


「ハマーから報告を受けてな」


「将棋の教本か」


 サンプルと同等なら声を掛けてくるのも道理というもの。

 まあ、教本の質はあえて落としたものだけど。


「そうじゃ」


「あとはガラスペンの話も聞いたか」


「うむ」


 業務の効率化をするなら確かに紙とペンの品質向上は重要だ。


「実はハマーが将棋を普及させようとしておってな」


 そこまで言われればだいたい見当がつく。


「将棋盤や駒はレプリカも簡単に作れるが教本は思うようにいかない、か」


 仕事で使う貴重な紙を娯楽のためにホイホイ使うわけにはいかないよなぁ。


「うむ。そこでハルトから紙を仕入れるのはどうかという話になってな」


「そういうことならお安い御用だ」


 サンプルをいくつか用意する。


「これがミズホ紙と筆ペン」


「なんと滑らかな紙じゃ。しかも白い」


「裏写りするから専用の下敷きが必要だ」


 フェルトの下敷きの上にミズホ紙を置いて筆ペンを適当に走らせる。


「ほう、インクが軸の中にあるのか」


 魔道具でないことを瞬時に看破したのはさすがだ。


「このインクはミズホ紙専用の墨汁というものだ」


 筆の穂先は鬼面狼の毛を使っているのだが、ここに行き着くのに時間がかかった。

 単なる筆と筆ペンでは違うということだ。


「こっちが材料費を抑えたザラ紙とガラスペン」


 ハマーが報告したのと同じ品だ。


「ガラスペンはコストがかかるが継続使用できる。ガラスは衝撃に弱いから気を付けろ」


 インクも用意して使ってみせると、滑らかな書き味に目を丸くさせていた。


「最後は普通紙とサインペンだ」


「これも白いのじゃな」


「こっちは両面に書ける」


 サインペンを使ってみせる。


「これもインクが軸に入っておるか」


「ああ、使い捨てだけどな」


「安価ということじゃな」


「もちろん」


「呆れたわい」


 そう口にした割には、それぞれの使用感を確かめている。

 なんだかんだ言って俺のノリに慣れてきたよな。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ