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163 残念なままだけど自宅警備員ではなくなる

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 シヅカが両頬を濡らしたかと思うと止めどなく涙が溢れてきた。

 やがて抑えきれなくなった感情を発露するようにわあわあと声を出し子供のように泣き始める。


 察するにあまりある徒労感、孤独、不安、自由への渇望……

 上位の竜種といえども恐怖を感じずにはいられなかったはず。

 だから目覚めたときに悠久の牢獄が朽ち果てていることを願って眠ったのだろう。

 目が覚めては絶望し再び眠りにつくことを繰り返し、千を越える歳月を徒労しか残らぬ逃避に費やしてきた訳だ。


 ようやく解放された彼女に無粋な真似はできない。

 故に待った。

 何も語らず身じろぎもせずシヅカが泣き止むのをひたすら待ち続けた。

 これが俺たちにできる精一杯。


 どれほどの時間が過ぎただろうか。

 やがて号泣がすすり泣きになる。

 そこからはそう長く待たずして終わりの時を迎えた。


「すまぬ。みっともない姿を見せてしもうた」


「いいや、泣きたいときは泣けばいい。俺の相棒もそう言っている」


「くうーく」


 うんうん、と頷くローズ。


「なんと、こちらでは物の怪が当たり前のようにおるのか!?」


 いつの間にか実体化していたローズを見たシヅカが目を丸くさせている。


「くうっくーくぅー」


 そんな訳あるかー、とローズさんは憤慨して地団駄を踏んでいますよ。


「こいつは俺と契約している精霊獣のローズだ」


「それはすまぬ」


 割とあっさり謝るとは予想外だったけど協調性がありそうなのは有り難い。


「俺はハルト・ヒガ。遙か東の果ての国ミズホの王だ」


「妾は日の本の国にて古き龍の一族に名を連ねるシヅカじゃ」


 古き龍の一族か。

 本来であれば神様として祭られていたかもしれないな。


「大恩ある主のために生涯をかけて誠心誠意働かせてもらう所存。よろしく頼む」


「ああ、こっちこそ頼む」


 ここでシヅカが引き締まったままだった表情をようやく緩めた。

 それからツバキとハリーを紹介しミズホ国の現状を話す。


「今のところ国民は50人ほどしかいない」


「ふむ、建国したばかりならばそういうものなのだろう」


「俺以外の人間種は8人だけだ」


「なんと!?」


 絵に描いたようなポカーン顔で固まるシヅカ。

 アラックネであるツバキの本来の姿やハリーの着ぐるみの中身を紹介の際に見せたばかりなんだがなぁ。


「では残りは半妖精ばかりということか」


「そうだな。後はハリーのようなパピシーか猫妖精のケットシーだ」


「くーくぅくくっ」


 ローズもいるよ、だそうです。


「うむ、そうであったな」


 どうにか返事をしていたがシヅカにはあまり余裕が感じられない。

 ひょっとすると人間の少ない世界だと思われたかもしれないな。


「言っておくが俺の国が特殊なだけだぞ」


「うむ、それは心得たのじゃが」


「他に気になることがあるのか?」


「うむ。知らぬはずの言葉で会話ができておるのが不思議でならぬ」


「ああ、それな。この世界のことも分かるだろう?」


「おおっ! そうじゃ。分かるぞ」


「それは召喚時にシヅカにこの世界の情報を渡してあるからだ」


 言語はもちろん地図や常識なんかの情報もね。


「なんと!?」


 愕然を絵に描いたような顔を見せるシヅカ。

 召喚の術式にちょっと上乗せしただけだから、そんなに驚くことじゃないよ?


「ならば好都合。妾もすぐに主の役に立てるというものじゃ」


 さっそく仕事はないのかと言わんばかりの目でこちらを見てくるシヅカさんですよ。

 龍というよりは忠犬である。


「当面は俺の護衛な」


 長らく引きこもり同然だったんだから解き放つと何をしでかすか分かったものではない。


「おお、護衛か。守るのは得意じゃぞ」


 上位の龍に言われると過剰なことをしでかしそうで逆に不安になる。


「指示しない限りは離れるなよ」


 念のために釘を刺しておく。


「任せよ! 主たちは妾が守ってくれようぞ」


 大丈夫かな……


「とにかく俺の許可なく本来の姿にならないこと」


「どういうことじゃ?」


「それのせいで封印されてしまったんだからな」


「なんと!? 主は妾が封印された理由を知っておるのか」


「ああ。シヅカのことを向こうの神様エリザエルス様に頼まれたときに教えてもらった」


 安心させるためにも理由を話しておいた方がいいだろう。

 脳内でなされた電話の内容を話す。


「──という訳だ」


「なんと!? 気付かなんだわ」


 そりゃあ熟睡してちゃ気付けないだろう。

 尻尾でバンバン地面叩いて遠くで地震が発生しても夢の中なんだから。

 あ、やってらんないの四つん這いポーズになった。

 だらしない格好だから際どい部分が見えそうになってるよ。

 これも注意しないといかんなぁ。


「だから元の姿で寝るのは厳禁だ」


 理由を知ったお陰かブンブンと凄い勢いで首肯している。

 肝に銘じてくれりゃ何だっていいんだが確認は必要か。


「人化したままだと窮屈だったりしないか?」


「それは大丈夫なのじゃ。むしろ狭い場所に長らくおったゆえ人化した姿にも馴染んだし愛着もある」


 スペース確保のために人化を続けていたのか。

 これなら寝ている間に人化が解けたりなんてこともなさそうだ。

 ただしジョブが自宅警備員になるくらいだったから弊害も習慣化している。

 今のジョブはローズと同じ[守護者]になっているんだけど、習慣なんてすぐには変えられないものだからなぁ。


「あと、そのだらしない格好も禁止だ」


「おおうっ!」


 シュバッ


 一瞬で服装がきっちりと整った。

 気付いていないだけだったか。

 さすがは[残念美女]の称号を持つだけはある。


 ところで、ツバキの様子が変なんだが。

 瞠目した状態で彫像のように固まっているけど何があった?


「なあ、ツバキはどうしたんだ?」


 間近にいたハリーに聞いてみれば分かるだろうか。


「たぶん今の動きが見切れなかったせいではないかと」


 シヅカが着付け直したアレならば仕方のないことだ。


「ツバキ、落ち込むことはないぞ。シヅカはレベル的にローズとほぼタメだ」


 呼びかけてみたけど反応が薄い。


「我々の倍以上ですか。道理で……」


 ハリーも軽く驚いているところを見ると余計にショックだったか。


「随分と具体的なところまで相手の実力を見切れるのじゃな」


 あ、シヅカも驚いてる。


「そういうスキルや魔法があるんだよ」


「なるほど。便利なものじゃ」


 知識情報としてスキルやレベルのことを渡しているので、ちょっとした会話で情報のすり合わせが完了するのは助かるね。


「して、主のレベルは如何ほどじゃ?」


「俺はシヅカの3倍以上のレベルだ」


「……言葉が見つからぬ」


 本気になったら災害級の被害をもたらすシヅカにも呆れられるほどか。

 つくづく自分が途方もない無茶をしたことを思い知らされてしまう。

 どうやって4桁レベルになったのかは黙っておこう。


「ところで聞きたいことがあったんだ」


「なんなりと聞くが良かろう。妾に分かることであれば、すべて答えようぞ」


 ふんすと鼻息が聞こえてきそうなくらい気合いが入っている。

 大したことじゃないんだけどなぁ。


「召喚直後に高笑いしてたのが本来の性格によるものかどうかが知りたいんだ」


 これがアニメなら効果音や湯気の視覚効果が入りそうなほどシヅカが真っ赤になった。


「わわわ忘れてたもれ」


 赤いだけじゃなくてどもってます。


「恥ずかしすぎるのじゃあ」


 二十代中盤に見える容姿なのにワタワタと両手を振って慌てている様は女子高生のようである。

 最初は厨二病を患っているのかと思ったが黒歴史級で恥ずかしいのだろう。


「窮屈な結界から出られて嬉しかっただけなのじゃ」


 すべて答えるという言葉を守っているあたり律儀なものだと感心させられる。

 そのせいで悶えてクネクネしっぱなしになるのは想定外であり勘弁してほしかったが。


「とにかく外に出よう」


 特別仕様の亜空間から出てきたタイミングで部屋に近づいてくる気配を感じた。


「誰か来るようだな」


 ピタッとシヅカの動きが止まる。

 クネクネを他人に見られるのは黒歴史だろうからな。


「失礼します」


 部屋に来たのはボルトだった。


「………………」


 入ってくるなり無言で立ち尽くされてしまう。

 面子が増えたせいだな。


「どうかしたか?」


 俺の問いかけにボルトが我に返り直立不動の姿勢を取った。


「王がお呼びです」


「ということは王女が来たのか?」


「いいえ、まだのようです」


 そうなると予想がつかないな。

 どんな話が待ち受けているのやら。


読んでくれてありがとう。

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