161 斥候要員が欲しいので召喚してみた
改訂版です。
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「いやぁ~、あっという間の1週間だったねえ」
ジェダイト王国に帰り着いて車から降りるとガブローは大きく伸びをした。
先に降車したボルトなどは疲れ切った表情でへたり込んでいたのだけど。
「私にはやっと帰ってきたとしか思えません」
「そうかい? でも車には慣れたんだろう?」
「最後の方でようやくですよ。殿下のようにはいきません」
何度も失神しては車の挙動に激しく頭を揺さぶられて目覚めるのを繰り返していたボルトは最終日にようやく失神しなくなったのだ。
本当の意味で慣れたとはまだまだ言えないがマシにはなっているな。
「若いのに情けないのう。気合いじゃ気合い」
余裕の表情で降り立つガンフォール。
爺さんと孫のコンビは南部の山岳地域を巡る間に荒っぽいラリードライブを楽しむ余裕ができていた。
「無茶を言ってやるな。耐えきっただけでも充分だ」
ジェットコースターより酷いドライブになったからなぁ。
それもこれもゲールウエザー王国の第2王女クリスティーナ・ゲールウエザーの来訪に間に合わせるためだ。
期日がないという時点で破格の扱いである招待状なんかも貰ってしまったし。
「よほどの強行軍だったのですね。お疲れ様でした」
「──────────っ!?」
不意の声掛けにボルトが飛び上がらんばかりに驚く。
声の主であるエリスはねぎらいの言葉をかけたつもりなんだろう。
が、背後から音もなく近寄るのはどうかと思う。
「あら?」
自分が驚かせたなどとは夢にも思わなかったらしいエリスは不思議そうに小首をかしげている。
「こんな所で何してるんだよ」
「王女様御一行をお待ちしていました」
「は!? 連日のように門前に来てたのか?」
「そういうことになりますね」
「暇なのは分かるんだけどさ」
証人として滞在しているだけだからな。
将棋セットと詰め将棋の問題集を渡しておけば良かったか。
「門番さんと楽しくお話ししていましたよ」
「なにやってんだよ」
「てへっ」
言いながらペロリと舌を出す。
リアルでテヘペロとは思いもしなかったがエリスってこんなことするタイプだったか?
過去の境遇を聞いてから日が浅いことを思えば精神の均衡が少し崩れているのかも知れない。
ちょっと注意が必要かもな。
「それでガンフォール」
「何じゃな?」
「来客に備えたりはしないのか。そろそろなんだろう?」
「せぬぞ。日取りが決まっておる訳ではないからな」
特別扱いや気を遣ったりはしないってことか。
「ハルトの方こそ大丈夫なんじゃろうな」
「食糧の確保か?」
「それ以外に何がある」
「あー、ずっと一緒だったから遅れているんじゃないかってことか?」
「うむ」
「任せろ。うちの国民は優秀なんだぞ」
ということにしておく。
事実を知ったら腰を抜かすほど驚かれそうだからな。
実際の増産分は俺が1人で開発した飛び地で賄うつもりだし。
しかも、この1週間で夜中に抜け出して作業を完遂したなんて夢にも思わないだろう。
「末恐ろしいわい」
ガンフォールが頭を振りながら言った。
「そうか?」
実は割とギリギリだったことは内緒にしておこう。
島の開発自体は余裕があったものの管理を任せる自動人形の製造が予定に組み込まれていないことに途中で気がついたのだ。
【多重思考】と【万象の匠】の神級スキルをフル回転で使うことになったさ。
想定外の大量生産にもかかわらず熟練度が嫌になるほど上がらなかった。
未だ熟練度はどちらも半分に至っていない。
代わりにレベルが3上がって1031になった。
色々と思うところはあるけど[女神の息子]の称号がなかったら、とっくに亜神としてスカウトされてそうだ。
考えただけでゾッとする。
俺はまだまだ自由に生きたいんだ。
車だって非現実的なアニメのマシンを再現したり変形する飛行機を作ったりしたい。
他にもロマンを追及したいあれこれがある。
まあ、それにかまけてばかりもいられないけどさ。
今回の一件もそうだし国民も集めないといけない。
ミズホシティの都市計画だって完成にはほど遠いのだから。
役所の正職員の人が都市計画は百年計画って言ってたのを思いだした。
引き継ぎを繰り返して少しずつ進めていくんだって。
予算の都合もあるけど、人は急激な変化を望まないから自然とそうなるという話だった。
うちはそういう心配はしなくていいけど人口は頭打ちだからなぁ。
百年後も人口が3桁に達していなかったりが普通にありそうで怖い。
ラミーナの住民を集めてみるか。
確か集団で行方不明状態なんだよな。
襲撃を受けた様子がないと言うし、失踪とか移住って感じでもなさそうだけど。
大森林地帯全域で捜索すれば案外見つかるかもしれん。
問題は今の状況だとちょっと動けそうにないってことだ。
監視なしで自動人形に任せっぱなしにするのは性能的に不安があるし、フルタイムの監視なんてやってられない。
それなら妖精組に任せた方がまだマシだけど、大規模捜索に投入できるほど人手が余っている訳でもない。
いっそのこと役に立ちそうな何かを召喚してみるか。
そこそこ強くて理性的で知能が高いのが理想だ。
捜索任務を忘れて狩りに没頭するようなのは論外。
魔物と遭遇してすぐにやられましたじゃ話にならないし。
会話が成立する者ならスムーズに事を運べるだろう。
問題は能力の高さに応じてプライドも高そうってことだな。
本格的な召喚ってしたことがないから契約の不成立が続いたりということも考えられる。
あるいは俺の言うことしか聞かなくて周囲と協調しないとか。
考えれば考えるほど不安材料が積み増しそうだ。
「主よ、先程から何を唸っているのだ」
「え?」
ツバキに指摘されて我に返った。
すでにミズホ組しかいないような状況である。
「とりあえず中に入ろう」
門番たちには苦笑いされてしまいましたよ。
恥ずかしいったら。
ガンフォールたちを相手に更に恥をかいたのは言うまでもない。
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ミズホ組だけで集まって話をする。
「──という訳で調査に使えるのを召喚魔法で呼び出したい」
俺が事情を説明するとツバキは溜め息をついた。
「それはまた大胆なことを考えたものだな」
「自分も同感です」
ツバキの意見にハリーが同意する。
猫の手も借りたいなんて状況でもないから焦る必要はないと言いたいのかもな。
「ちょっと気になるんだよな」
「どういうことだ?」
「確信はないが何か予感めいたものがある」
嫌な予感とは異なるが、やっておかないと後悔しそうな気がするのだ。
「くーくぅくくう」
面白くなりそう、とか言ってるけどバトルジャンキーを呼ぶつもりはないんだよ?
「主が本気で召喚するということが怖いのだが」
ツバキがローズに抗議したくなる気持ちもわからんではない。
「だから慎重になっているんだけどな」
「なるほど」
俺が唸っていた理由に辿り着いたらしい。
ツバキの目がようやく納得がいったと語っていた。
「で、どういうのがいいと思う?」
「わからぬ」
「すみません、自分もわかりません」
2人とも即答かい。
懸念していたんなら、もうちょっと考えてくれてもいいだろうに。
「くくっくぅくーくうー」
案ずるより産むが易し、だって?
それって行き当たりばったりと同じだと思うんだが。
「くーくーくくぅくっくっくうっくくぅくーくぅくーくくっくーくー」
呼び出す相手を指定するんじゃなく来て欲しい理想を思い描くべし、か。
「定員1名で早い者勝ちの求人を行うようなものだな」
「ふむ、それなら妙な輩は来ぬか」
「だと思います」
ツバキやハリーも安心できるようだ。
「早速やってみるか」
「なに!? 今すぐか、主よ」
「そうだよ、場所は確保するけど」
俺たちに割り当てられた部屋は広いけど、そのまま召喚したりはしない。
下手すりゃ大きいのが来て部屋が壊れるなんてこともないとは言えないし。
だから空間魔法で召喚用の亜空間を展開し結界を張り巡らせる。
俺たちの周囲に半球状の白い空間が形成される。
ドラゴンのような大物が来ても余裕があるであろう広さを確保した。
「外で待つか?」
ツバキたちを深く考えもせず亜空間内に引き入れてしまったので本人の意思を確認する。
「いや、主が本気で召喚するのであれば特等席で見届けねばな」
「同じく」
君らより強いのが来るかもしれんというのに肝が据わってるね。
「ならば期待に応えるとしましょうか」
まずは光魔法で召喚魔方陣を展開する。
光魔法を使ったのは見栄えを良くするためなどではなく瞬時に書き換えて送還できるようにするためだ。
保護すべき対象がいるから慎重にやらないとね。
続いて召喚する相手の条件を思い描く。
大森林の中で生き残れる強さと捜索対象を発見した際に諍いを起こさない理性と知性があれば理想的だ。
よし、召喚する!
気合いを入れて魔方陣へ魔力を流し込んだのだが。
「ん?」
魔方陣から光が溢れ出してきた。
「主よ、演出が過ぎるのではないか」
手をかざして光を遮りながらクレームをつけてくるツバキ。
「俺じゃないよ」
「なに?」
「向こうが魔法で光らせてるんだ」
「なんじゃ、つまらんのう」
魔方陣の中心から声が聞こえてきた。
間違いなく召喚に応じた相手だが若い女の声である。
「せっかく派手に登場してやろうと思うたのに」
知らんがな。
光が徐々に弱まり声の主の姿があらわになっていく。
「人間のようですが……」
ハリーが自信なさげに聞いてくる。
確かに見た目は黒髪を長く垂らした黒目で色白の美人さんだ。
和服っぽいドレスを着崩している上に出るとこ出てるせいで色気が半端ない。
お色気要員を呼んだつもりはないんだが。
「ハッハッハ! 妾の人化の術も捨てたものではあるまい」
両手を腰に当て仁王立ちで大笑い。
外見に反して性格は豪快そうだ。
読んでくれてありがとう。




