表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/1785

156 元王女の事情

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

「ハルトはそれで良いのか?」


 ハマーが心配そうな声で聞いてくる。

 元王女なエリスより、こちらの方が隠している手札が多いからなぁ。

 情報は外部に流れていくものだと言いたいのだろう。

 騒がれることを嫌う俺のことを心配してくれるのは有り難いことだが問題ない。


「騒ぎ立てる輩が出てくるなら黙らせるまでだ」


「……心臓に悪そうな話だな」


「同感じゃ」


 ドワーフの両名が頷き合っている。


「先のことより帰りの心配をしないのか?」


 水を向ける感じで話してみたらガンフォールもハマーも青い顔をして口を閉ざしてしまった。


「おいおい、下りじゃないんだからさぁ」


 返事なし。


「慣れておかないと南部地域を回るときに大変だぞ」


 やはり返事はない。

 追撃になったのか2人の顔には絶望したと書かれていた。


「王族として受付のお姉さんにみっともないところは見せられないよな」


「ぐっ! 痛いところを突いてくるではないか」


 ハマーが呻きながら愚痴る。


「エリスは強敵だぞ。少々のことではオタつかないからな」


 それは昨年末に証明済みだ。

 俺が王だと知っても驚かないんじゃないかな。


 ハマーは表情を引き締めガンフォールは嘆息した。


「やれやれ、若い者には負けてられんからのう」


 口振りからすると落ち着きを取り戻したようだ。

 そのタイミングで小走りでこちらに向かってくるエリスの姿が見えた。


「来たようじゃな」


「魔法は解除するぞ」


 予告したのは解除前と後では何の変化もないからだ。

 少し思いついて解除直前に幻2人にだけ見えるよう幻影魔法でそれっぽいエフェクトを入れてみた。

 これで無駄な確認をしなくてすむ。


「お待たせしました」


 俺たちの目の前まで来たエリスは特に息を弾ませたりはしていない。

 ベテラン冒険者でも一部しか到達できないレベルに達しているだけはあるな。


「荷物は後ろに積んでもらえるか」


「はい」


 返事はしたものの俺が後ろのハッチを開けると戸惑った風に動きが止まってしまう。


「どうした?」


「このドアは落ちてこないんですか」


 誰も支えていないから気になったようだ。


「大丈夫だ。雨の中でも荷物の出し入れがしやすいように作ってあるんだよ」


「もしかして魔道具を使っているのでしょうか」


「いいや。魔力切れになったら落ちてくる代物なんて安心して使えないだろ」


「それは確かに」


 エリスが荷物を置いたのでゴムロープで固定する。


「伸び縮みのするロープですか?」


 目を丸くさせながら聞いてくる。


「この程度で驚いていたら、そのうち目玉が飛び出してしまうぞ」


「それは怖いですね」


 冗談だと思っているのかエリスはクスクスと笑った。

 隠喩的な言い方はしたが冗談のつもりはない。


「ハルトよ、無駄口を叩いている暇はないぞ」


 先に後部座席に着いたガンフォールが出発を急かしてきた。


「はいはい」


 思わず苦笑が漏れる。

 帰りのドライブでやせ我慢が続けられるといいけどな。


「じゃあ、そっちの席に」


「はい」


 エリスが助手席に乗り込む。


「あら」


 驚きの声を発したエリスを見てドワーフ組が鼻高々だ。

 ツッコミどころだとは思うが、それこそ時間の無駄なのでスルーした。


「それで、これを下ろす」


 エアバッグパッドが下がってくるのを見て──


「これは……」


 言葉を失うほど驚いていた。

 またしてもドワーフ組がドヤ顔になる。

 スルーだスルー。


「あんっ」


 パッド部分で胸が少し押し潰される格好になってエリスが色っぽい声を発した。

 一瞬で落ち着けたから取り乱しはしなかったけど、ちょっと動揺させられましたよ?


「それじゃあ出発するぞ」


 俺も乗り込んで準備完了というところで……


「あ、あの?」


 エリスが戸惑っていた。

 車の外から見ていたものと車内で見えるものに食い違いがあるから無理もない。


「馬が消えてしまったのですが……」


「この方が操作しやすいんでね」


 そう言いながら車を動かす。

 馬車に合わせる必要があるので街の外に出るまでは徐行運転だ。


「あら、馬なし馬車なんですね」


 これには驚かなかったか。

 元々の性格なのか経験によるものなのか、慣れてきたかな。


「矛盾したネーミングだな」


「そうですね」


 エリスが苦笑する。


「こいつは自動車という乗り物だ。単に車とも言ったりするがね」


「はあ、自動車ですか」


 などとやり取りを続けて街を出た。

 しばらくは馬車のペースで走らせ続け、街から離れた所で休憩と称して車を降りることにした。

 幻影魔法で召喚魔法の送還っぽく偽装しつつゴーレム馬を収納。


「先生は召喚魔法も使えるのですか」


 確認作業のように聞いてくるエリス。

 こういうのでは驚かないんだな。


「まあ、これくらいはね」


「すぐに出発ですか?」


 急いでいることを知っているから、そう聞いてくるのも当然か。

 だが、答えはイエスではない。

 ガンフォールが目配せしてきたからな。

 人目のないここで腹を割った話をしようというのだろう。


「その前にガンフォールが話をしたいってさ」


「あら、なんでしょうか」


 特に緊張した様子もなくガンフォールの方へ向き直るエリス。

 さすがは元王女。他国の王様相手でも動じないね。


「お主、本名はエリスティーヌ・ゲールウエザーであろう」


 間怠っこしいのは嫌いだからって単刀直入すぎないか?

 対するエリスは表情を変えず黙っている。

 相手の出方をうかがうような雰囲気はなく観念した感じだ。


「どうして分かりましたか」


「ワシは【鑑定】スキルを持っておる」


「鑑定の魔道具でさえエリス・フェアとして通せていたのですが」


 劣化コピーなレプリカ魔道具の品質がショボいとはいえ偽装系のスキルもなしに大したものだと思う。

 本人としては生まれ変わったつもりで自分の名前や肩書きを強く否定したのかもな。


「なにっ!?」


 ハマーが目を丸くして驚いた。


「いや、鑑定の魔道具も不完全だと聞いたことがある」


 ガンフォールはすぐ原因に思い至ったようだが。

 出所を伏せてくれたけど、その情報は俺からだろう。


「先生は驚かれないのですね」


「己の存在を拒絶し新たな自分を強く念じることができるならあり得るだろ」


 エリスの目がわずかに大きくなった。


「過去の自分を否定できる精神力は驚きに値するがね」


「先生にはすべてを見通されているように感じます」


「私はずっと違和感を感じ続けていました」


 俺が何も問わずにいるとエリスが語り始めた。


「王女であることに不満はないつもりでしたが、何か違うとずっと感じていたのです」


 そう語るエリスの表情が苦々しいものになっていた。

 当人にしてみれば黒歴史なのだろう。


「結局、それが何であるか分からないままに成人を迎えることになりましたが」


 自嘲気味の笑みがこぼれる。


「親しくしていた友人の死によってそれを理解しました」


 王女の友人ということは上位貴族の息女だよな。

 死ぬなんて余程のことだと思うが。

 親が大貴族なら、あらゆることから守ろうとするだろうし。

 病気とかもあるから完璧に守り通すのは無理だとしても何の力もない一般人よりは死より遠い位置にいるはずだ。


「彼女は病死したことになっていますが自ら死を選んだのです」


 黒歴史どころか鬱歴史だったか。


「彼女は死をもって政略結婚の道具になることを拒絶しました」


 貴族なら当たり前の政略結婚を拒否するとは、よほど嫌な相手だったか。

 他に好きな相手がいたという可能性もゼロではないが。


「そのことは厳重に伏せられていましたが、私宛に届けられた手紙で事実を知りました」


 彼女は政略結婚自体は受け入れていたという。

 相手が嫌悪する相手であることを知らされるまでは。


 仕事はできるが黒い噂の絶えない人物。

 現に若い侍女が何人も行方不明となり病死したことになっていたそうだ。

 彼女はその件について決定的な事実を知っていた。

 そのことを訴えても決定は覆らなかったことで絶望した友人は抗議の遺書を残し死を選んだという。


 歪んでるよな。

 輿入れした貴族の娘が侍女と同じ扱いをされるとは思わないけど。

 それでも、まともな神経をしているならノイローゼになってもおかしくない環境だ。


「彼女は誇りと信念を失わぬために決められた道を拒みました」


 それで死を選ぶのは極端だが、他に方法がなかったのだろう。


「私が感じていた違和感はこれだったのだと初めて気付かされたのです」


 元々、矛盾を理解しつつも己の立場がそれをさせなかったってことか。


「彼女が悩んでいるのは知っていました」


 激しい後悔があるらしくエリスは歯噛みする。

 いつもの飄々とした感じからは想像もつかない激しい反応だ。


「でも、私は彼女であれば離縁の道を選ぶだろうと思っていました」


 ところが、もっと苛烈な道を選んだと。


「それで後悔し、せめてもの罪滅ぼしにと仇討ちをした訳か」


「わかりますか?」


「一国の王女が肩書きを失うくらいだからな」


 仇討ちが認められたなら違った結果になっていたかもしれないが。

 男は友人を死には追いやったが直接手を下していない。

 故に追放処分を受けたというところだろう。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ