155 派遣の人選に問題はない
改訂版です。
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「だ、誰が来るんだ?」
身を乗り出しながら声を震わせてゴードンが聞いてきた。
そんなにダンジョンの状況が厳しいのかね。
階下ではそういう緊迫した空気はなかったはずなんだが。
ただ、昨年末に今回のことを予感していたゴードンの勘は侮れない。
気を引き締めてかかるべきだろう。
「月影の8名だ」
「月影と言われてもな。俺が知ってる者が含まれているのか?」
「月狼の友ほか2名だ」
ゴードンが肩を落とした。
ローズ扮するドルフィンたちが来ることを期待したのだろう。
あの3人が見せた程度の実力ならうちの国民は楽々発揮できるっての。
ちなみに新パーティ名は8人で相談して決めたみたいだ。
ミズホの地で月の光に照らされた自分たちの姿をイメージしたそうだ。
リーシャは狼を入れたかったみたいだけど即却下されてたな。
「この間の護衛の3名は……」
「来ないよ」
霊体化したローズならここにいるけど。
「なんてことだ」
ゴードンは落胆を隠そうともしない。
ドルフィンにツバキと着ぐるみのハリー、この3人に対する期待感は並々ならぬものがあったようだ。
「心配しなくても俺が鍛え上げた」
「本当か?」
疑わしげな目をして聞いてくる。
「1名だけ未登録者がいるけどな」
「おい、新人じゃ話にならんぞ」
「俺が鍛えたと言っただろ。その者が月影の中では最強だ」
「なに!? どういった奴なんだ、そいつは」
「ほら、月狼の友に連れがいただろう」
昨年末のことだから覚えているだろうと思って聞いてみた。
「知らんぞ」
即答かよ。
「少しは考えろ」
「もしかして、あの桃色の髪のお嬢さんのことですか」
エリスは覚えていたようだ。
最強と聞いたせいか自信なさげではあるが。
「ああ、そうだ」
「子供かよっ!?」
全力でツッコミを入れてくるゴードン。
唾を飛ばすのは勘弁してほしい。
理力魔法でのブロックも定番になりつつあるが、こんなのは定番化して欲しくない。
「言っておくが、あのルーリアより上だからな」
「なっ……」
今度は口が開きっぱなしで何も言えなくなってしまったか。
ルーリアの戦いぶりを目の当たりにしたことがあるから無理もない。
この程度で動揺しているようじゃ更に強くなっているとは言えないな。
後ね、責任者が人の話を鵜呑みにしすぎだろう。
「本当ですか、それは」
エリスのように少しは疑ったらどうなのよ。
「登録すれば嫌でも分かるだろ」
「それはそうですが……」
エリスは子供を戦わせることに抵抗があるようだ。
「心配しなくても実力は俺が保証する」
「そういうことではないのです」
戸惑いの表情を見せながらも口調はきっぱりとしている。
[この人は子供好き]
と、メモメモ。
「実力があって精神面が成熟しているなら子供かどうかは関係ない」
本当に10歳児かよと言いたくなるくらいノエルはメンタルが強靱だ。
生い立ちを考えると涙を禁じ得ないような側面はあるだろうが本人は前を向いて生きている。
それ故か強さを求める貪欲さは求道者のそれに近しいものを感じる時があるほどだ。
ぶっ倒れるとか怪我をするかというラインをギリギリで見極めているんだよな。
走り込みの時に膝に負担をかけないような方法で負荷をかけたりとか工夫もするし。
まあ、子供らしく振る舞うこともあるので単純に大人扱いはしないが。
「本人たっての希望だ。逃げるだけの弱者のままでいるのは嫌なんだとよ」
弱肉強食の世界だからな。
子供とはいえ、そういう考えを否定されたりはしないのがこっちの世界。
「そう、ですか……」
エリスも渋々ではあるが納得した。
「彼女くらいの年齢でそこまで考える子供は珍しいです」
珍しいのか……
こっちに来てからノエルくらいの子供なんて数えるほどしか接していないからな。
子供組は精神的にはノエルよりも幼いが最初から普通に戦闘要員だったし。
あとは赤髪赤目で褐色の肌をしたガンフォールの孫、野生児幼女アネットくらいか。
あれも大概だったけどな。
出会ってすぐにケンカを売られて決闘したくらいだし。
レベル以上の底力を見せた瞬間はボルトより上だったと言える。
事前にピコピコハンマーを用意したのは正解だったさ。
ん? あれ?
いかん、俺やらかしてるわ。
ドワーフたちの前で普通に倉庫を使ってた。
召喚儀式風に車を引っ張り出したのって無駄骨?
……車は大物だから小物と違うってことにしておこう。
ゲールウエザー王国で物資とか運ぶ際にも必要になるだろうし。
ドワーフ相手はともかくヒューマン相手にするなら用心に用心を重ねておかないと。
とにかく月影の派遣は決まった訳だ。
ここのダンジョンは何とかなるだろう。
「じゃあ俺たちは商人ギルドの車庫で待ってる」
予言の証人も予定とは異なるが確保できた。
「はい、至急用意して参ります」
連泊の出張ともなれば最低でも着替えの類いは必要になるので念のために聞いておくとしよう。
「ひとつ、いいか?」
「はい」
「荷物の大きさはどのくらいになる?」
準備してきたけど車に積めませんでしたじゃ話にならんし。
まあ、貨物スペースに余裕のあるハッチバック車だから大丈夫だとは思うけど。
「このくらいの鞄ひとつですが」
手振りで示されたサイズはやや大きめのデイパックひとつぶんくらいか。
想像していたよりも小さい。
「分かった。それなら問題なく車に積める」
エリスが一礼して部屋を出て行った。
俺たちもそのまま解散。
ついでと言ってはなんだが屋台が並ぶ通りを少しだけ覗いた。
ダンジョン焼きの店は飯時でもないのに人が並んでおり店のオバちゃんの恰幅度が下がっていた。
店の繁盛が続けば適正体重までダイエットできそうだ。
前に土産で買ったドライフルーツの店も出ている。
旨い味を提供する店が継続しているようで何よりだ。
次に来たときはちゃんと買うことにしよう。
そして商人ギルド前に戻ってきたところでシャーリーやアーキンとも別れる。
「すまない。手間を取らせた」
その前に無理に引っ張ってきたことを詫びた。
「いえっ、そんなことは決して!」
「左様でございます。我々も本腰を入れて動かねばならないことが、よく分かりましたし」
2人には恐縮されたが俺としては仕事の邪魔をしてしまったことに対して筋を通しただけだ。
「ボーン兄弟によろしくな」
「「はい」」
顔を見せると長話をしそうなので2人に頼んでおく。
エリスを待たせることになっては意味がない。
荷物のサイズから考えても、そう時間がかかるとは思えないしな。
車庫まで来たところでガンフォールが周囲を見回した。
近くに人はいない。
風魔法と幻影魔法を使っておこう。
「ハルトも見たじゃろう」
エリスのことだな。
「ああ。身元の確認は重要だ」
ガンフォールの言葉に眉根を寄せたハマーだったが、俺の返事で察したようだ。
「いいのか、このような場所で」
周囲を油断なく見回している。
それはもうガンフォールがやってるだろうが。
「魔法を使ってるから俺らの会話を聞かれる恐れはない」
「相変わらず無茶な奴だな。それで、あのエリスなる受付嬢は何者だ?」
【鑑定】スキルを持たないハマーが聞いてくる。
「現在は冒険者ギルドのゲールウエザー本部長だな」
「それはまた……」
軽い驚きがあったのか少しばかり遠い目をしている。
「それからゲールウエザー王国の元第1王女だ」
「なっ!?」
顎がカクーンと落ちている。
外れてはいないようだが、大丈夫かね。
読んでくれてありがとう。




