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143 波のように押し寄せる

改訂版です。

 地下11階層は骨やら腐乱死体やらの低レベルアンデッドの巣窟と化していた。


「なんでこんな湧いてるみたいに出てくるんだよぉっ!」


 レイナがそう愚痴るほど次から次へと現れる。

 最初はパニックになりかけたりもしたが、今はライトサーキュラーソーの魔法で迫り来るアンデッドどもの首を次々に切り落としている。


「おまけにしぶといやんかっ」


 アニスも愚痴っているな。

 アンデッドが首を失ってもしばらく動くのがお気に召さないようだ。

 仕方あるまい。

 負の波動に怨念などが絡みついて活動しているのでコアさえ無事なら動けるのだ。

 ただし、頭部を失うと負の波動は著しく漏出してしまうため、いずれ停止する。


「コアを破壊すれば簡単に止まる」


 ノエルがボソッと言った。


「無茶言わないでよぉ」


「こんなに押し寄せてくるのに小っさいコアなんて狙ぉてられへん」


 レイナもアニスも泣き言を漏らす。

 まあ、首を切り落とす方が楽ではあるな。


「じゃあ浄化して一発で消し飛ばすってのはどうよ?」


「それこそ無茶やん」


「そうよそうよ」


 いつもは口ゲンカの多いアニスとレイナがタッグを組んでいる。


「端から決めつけるのは感心しないな」


「どういう意味よ?」


「そのまんまだぞ。皆、その片鱗は見せているんだからな」


「「へっ?」」


 間の抜けた声を発したのは両名だけだったが、月狼の友の残りの面子もポカンとした顔をしている。


「どういうことですかー?」


 真っ先に聞いてきたのはダニエラだった。

 やはり光魔法に浄化作用があると気付いてなかったか。


「逆に問うが、どうして光魔法を使わせているんだと思う?」


 問い返したことでダニエラやリーシャはハッとした表情を見せた。

 少し考え込んでいたアニスも──


「なんや、そういうことかいな」


 すぐに理解したようで苦笑いしている。


「「あーっ、そういうことなんだぁ」」


 それに続く双子のメリーとリリー。

 残されたのはレイナのみだが、ぐぬぬ顔のまま変化なしだ。


「少しは考えろ」


「せやで。まあ、よう観察するんでもええかもしれへんな」


 リーシャとアニスに言われて更に渋面を深めるレイナ。

 このままだと癇癪を起こしかねないか。


「アンデッドは光魔法に弱いんだよ。だから食らっただけで多少なりと浄化される」


「ええっ!?」


「切断されれば尚更だ。そこから徐々に浄化されていく」


 答えを聞かされて驚いたレイナは、さらなる情報に言葉を失っていた。


「せやけど頭を落とした時は極端に動きが悪ぅなるやん。あれはどういうことやの?」


「怨念も常識に囚われているってところか」


「意味が分からへん」


「考える頭を失うことで何もできなくなると思い込んでるんだろ」


「……アホやな」


「最下級のアンデッドに高度な知能はないさ」


「納得や」


「なるほどー。それで首チョンパなんですねー」


 あっけらかんとした様子で頷いているダニエラ。

 それに対し、どんよりした空気を漂わせるレイナとアニス。

 ダニエラの「首チョンパ」発言が受け付けなかったようだ。

 まあ、最初にゾンビのそれを見て「ギャー!」とか悲鳴を上げて抱き合っていたくらいだからな。

 うるさくも女の子なところがあるよなと感心したのは内緒である。


「ちなみに湧いているみたいじゃなくて本当に湧いている」


 追加情報に恨みがましい視線を向けてくる約2名。

 他の面子も軽い驚きがあったのか俺の方を見てくる。


「ほらほら、おかわりが来たぞ」


「嫌な言い方せんといてや」


「まったくよ。デリカシーがないんだからっ」


 愚痴りながらも臨戦態勢に入るアニスとレイナ。

 このフロアは通路が広いから新手が次から次へと押し寄せてくるため結構大変なのだ。

 仕留めたアンデッドの体が残っているなら山積みとなっていたことだろう。

 動かなくなった後も負の波動が浄化されて徐々に消えていくためコア以外は残らないんだけどな。


 逆に敵の進軍を防ぐための盾として使えないのは面倒なところである。

 ハッキリ言ってしまえば一進一退すらできずに均衡を保っているのが現状だ。

 魔力が尽きれば俺やローズの出番ということになる。

 自分たちの力で切り抜けたい新国民組には何としても回避したいシナリオだろう。


「湧いているとはどういうこと?」


 リーシャが光魔法で幅広の棒手裏剣を放ちながら聞いてくる。

 ライトダガーってところだな。

 円盤より簡単に生成できて消費魔力も3割も行かないくらいと大幅減である。


「考えたなぁ」


「くー」


 突き刺したままにすれば浄化の効率が円盤よりも上だし消えるまでは完全には止まらない。

 首チョンパよりもブレーキになっている上に運が良ければコアを破壊できる。

 スケルトンはコアが見えているので狙いやすいしな。

 スピードはゾンビより上なので侮ることはできないが。


「この先の部屋にそういう反応がある。昨日のトラップルームに似た仕掛けだろう」


「ちょう待ってえな。これ宝箱の罠なん?」


 アニスがライトダガーで応戦しながら口を挟んできた。

 みんな成長したなぁ。


「そないなもん誰が開けるっちゅうねん!」


 ここは他所の国の人間などいるはずのないミズホ国である。

 そして国民でここに潜っている者はいない。


「生前にシーフだったアンデッドでも召喚されたんじゃないのか」


 もしそうなら宝箱に本能で反応しても不思議ではない。

 まあ、こじつけの発想なんだが。

 それ以外となると蹴躓いて転んだ拍子に開いてしまったとかしか考えられないんだが。

 あるいは最初から開いた状態で宝箱が出現したとか?


「そんなアホな」


 俺の突拍子もない仮説に即座にツッコミを入れてくるアニス。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」


 レイナが吠える。


「今は少しでも前に進んで押し返すのが先でしょうが!」


 正論だ。まごう事なき正論だ。

 キレ気味だが、我を忘れてはいないらしい。

 さすがは月狼の友のサブリーダー。


「だそうだ」


「くー、腹立つわぁ!」


 聞いてきたのはアニスだし答えなければキレていたはずだ。

 俺にどうしろと?


「ほら、前に来てるぞ」


「来るな来るな来るな来るな来るなぁ─────っ!!」


 あ、キレた。


 アニスは叫び声と共に特大ライトサーキュラーソーを生成していた。

 いや、直径1メートルくらいのリング状になっている。

 ライトリングソーといったところか。


 キレている割に消費効率を考えるとか冷静な部分もあるらしい。

 それを縦にしてアンデッドに向かって放った。


「なるほど、真っ二つにするのか」


 ギザギザは雑になっているがお構いなしで両断していく。

 腐臭を放つ肉片を派手に飛び散らせているが距離があるのでこちらに被害はない。

 チュインチュインと肉や骨を切断する音が耳障りである。

 だが、一気に何体ものアンデッドを屠った。

 真正面だった奴以外は倒れ込んで這いずってくることにはなったけれど。

 それも切断面が大きいことで浄化されるまでの時間が短縮されていたので大きな問題ではなさそうだ。


「それをするなら、この方がいい」


 ノエルもライトリングソーを生成したが横向きだ。

 右に左にと動かしてアンデッドの胴を腕ごと切断していく。

 肘から上を切られては腕の力で前に進むということもできない。

 脚は残るが切られた勢いで転倒しバタバタともがくだけ。

 これのお陰で足場が悪くなりアンデッドの進行スピードが落ちた。

 倒した数はアニスと変わらないが面制圧的なノエルの方が前に進むには有効だろう。


「こりゃあ負けてらんねえな」


 腕まくりでもするように肩をそびやかせたレイナが一歩前に出た。

 肉食獣が獲物を狙うような鋭い目をしている。


「待て待て、横一列で一斉射撃の方がいい」


 リーシャの言葉にライトダガーを放ちながら振り返る。


「それもそうか。一気に押し込むってことだな」


「ああ」


 そこからは一方的な展開になった。

 1体ずつの対応から面制圧に切り替わっただけで、この違いである。

 浄化しきる前に通過することになった時はさすがに緊張していたようだけど。

 それも満足に動けない連中を理力魔法で通路の両側へ押し退けて解決。

 腐敗臭も魔道具のマスクで大幅に軽減されていたことで月狼の友も我慢できていた。


 ただ、奥の部屋の前に辿り着いたところで止まってしまう。

 湧き部屋が横にも縦にも過密な鮨詰め状態だったからだ。


「嘘だろぉー!」


「堪忍してえな」


「これはさすがに……」


 ドン引きしている月狼の友の約3名。

 とりあえず出てくるアンデッドを片っ端から攻撃する双子。

 大きな魔法を行使しようとするノエル。

 年下の方が冷静じゃないかよ。

 それでも焦っているのは間違いない。


「それではダメだ」


 ノエルの肩に手を置いて制止するルーリア。


「逆に溢れ出てくる結果になるぞ」


 ノエルの魔法では出口をほぼ塞いでいる奴らを消し飛ばすのがせいぜいだろう。

 それだと逆に部屋の中のアンデッドが出てきやすくなってしまう。


「っ」


 ノエルの表情がわずかだがしかめられた。

 少しくらいなら無表情のままだったろうし、かなり悔しいんだと思う。

 地道にやってたんじゃ間に合わないのが分かったからこそ焦燥したってところか。


 いよいよ俺たちの出番かと思ったんだが──


「賢者殿、魔剣を持っているか?」


 ルーリアは諦めていなかった。


「ああ。どんなのがいい? 槍でも剣でも好きなものを言ってくれ」


 俺の提案には目を丸くさせていたが。


「できれば突きに適した長い剣がいい」


 どうやらシンサー流の大技を出すつもりのようだ。


「はいはい」


 突きに特化した武器は……


「これが突きで一番威力を出せる剣だな」


 ソフトクリームを細長くしたような剣に見えない剣。

 魔力を込めると刀身部分がドリルのようにギュンギュン唸って回転する螺旋回転剣だ。

 冗談みたいな形状に呆れるかと思ったが、神妙な面持ちで受け取った。


「あとは私の腕次第か」


 螺旋回転剣をジッと見つめて呟くルーリア。


「フォローを頼む」


 そう言うと、ルーリアは中段で霞に構えて溜めをつくり集中し始めた。

 螺旋回転剣が唸りを上げ始めたが気にしている様子はない。


「ギミックなしのにした方が集中しやすかったな」


「くーくくぅ」


 問題ないね、か。

 なら、いいけどさ。


 刀身が靄のように銀の光で覆われていく。

 その光は回転する刀身に合わせるように螺旋を描き広がっていった。

 拡散するというよりは増幅されて放出されている感じである。


「スゲー……」


 レイナが呆然とした面持ちで呟く。

 幻想的でありながら強い存在感を放つ光に他の面々も圧倒されていた。


 そして銀の光が鋭さを感じさせるものへと転じていく。

 触れずとも貫かれそうだと感じた次の瞬間。


「参るっ!」


 ルーリアが一瞬で距離を詰めアンデッドどもに向け渾身の突きを繰り出した。

 銀の光が吹き出すように広がりを見せたかと思うと爆発的な光がルーリア自身を覆っていった。


「「凄っ!」」


「なんやっ!?」


「何にも見えないわよっ」


「どうなってる!?」


「分かりませーん」


 銀の光が触れた瞬間からアンデッドが消し飛んでいくのが皆には見えないようだ。


 爆光の中でルーリアは突進の勢いを弱めず部屋の中央にまで到達し棺桶のような宝箱を粉砕。


 大本を断てば終わるのはお約束なのだろうか。

 部屋に残っていたアンデッドは宝箱の崩壊と共に残らず消え失せたのである。


読んでくれてありがとう。

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