140 弾丸の次はフリスビー?
改訂版です。
虫は好きじゃないんだよな。
日本にいた頃に目にしていたサイズなら一応は平気なんだけど好んで飼おうとかは間違っても思わなかったし。
まして大型化して襲いかかってくるとかパニック映画じゃないっての。
赤イナゴでさえグロくて辟易させられたのにメートル級のが普通にいるのは勘弁してほしい。
新国民組は俺ほどは不快感を感じていないようなので戦えているのが不幸中の幸いか。
「このっ、こっち来るんやない!」
アニスがカマキリ型の胴を氷弾で撃ち抜く。
ドバッ!
「うへぇ、またかいな」
愚痴っているあたりで分かると思うが人の背丈を超える大型カマキリは派手に爆散してしまった。
ただ、これはアニスだけではない。
新国民組が氷弾で撃ち抜くと同じような結果になってしまう。
とりあえず飛び散る肉片や体液は理力魔法の防壁で防いでいるので誰も悲惨な状態にならずに済んでいるけれど。
それでも戦闘が終わるたびに周囲はホラー映画状態になる。
その都度、俺が魔法で洗浄して綺麗にするのはお約束と化していた。
割と面倒くさいので何とかしたいところだ。
俺の氷弾との違いを見つけないと改善は難しそうか。
「次が来たで。クワガタや」
そう言いながらアニスがダニエラと掌を打ち合わせてバトンタッチする。
「私の番です~」
脱力しそうな声音だが本人はいたって真面目の平常運転。
2メートルは超えているであろうクワガタが飛んで突っ込んできても飄々としている。
落ち着いて氷弾を形成し放った。
氷弾がクワガタの真正面に命中すると──
ゴバッ!
羽の付け根より後ろが爆散した。
「ん?」
今までと変わらない結果だが詳しく観察して分かったことがある。
どうやら凍らせる力が弱くて半端なブレーキしかかからないようだ。
しかもクワガタの体内で氷弾の表層、特に先端部分が砕けている。
残った方が一部の拳銃弾のようにキノコのような形状になっていた。
これって確か着弾側より貫通側の方が酷いことになるんだよな。
おまけに砕けて細かくなった一部の残骸は拡散して散弾銃みたいなことにもなっていた。
派手に爆散する訳だ。
制御力の甘さ故に殺傷力が上がるというのも皮肉な話だけど。
「あらー、羽もないのに飛んで来るんですねー」
クワガタは後ろ半分が爆散した余波で羽が千切れていたが慣性エネルギーだけで前半分が飛んで来た。
「押しが強すぎると嫌われますよ-」
とか言いながら理力魔法で防壁を作成し魔物の成れの果てを弾き返した。
「終わりましたー。お願いしますー」
倉庫へ回収し無傷なハサミだけ確保して倉庫内焼却処分。
素材の回収率が悪いのは考え物だ。
経験値や対応力は上がっているので良しとすべきだろうか。
理力魔法の防壁もピンポイントで使って魔力の消耗を抑えられるようになってきたし。
地下5階層をクリアしようかという状況で魔力にまだまだ余裕がある。
氷弾を効率よく使えている証拠でもある。
課題は氷の強度と全体の制御速度か。
クリアできそうな兆しがあるのはノエルとルーリアだけだ。
このフロアに来て成功率は3割程度ながら部分的に凍らせることができるようになってきた。
その次というとダニエラか。
もうちょっとで凍るかなという案配なのでコツをつかみつつあるのかもしれない。
だが、この3名が次のステップに至るまでまだまだ時間がかかりそうである。
ひとつの魔法に固執するのも考え物かもしれないな。
しばらく別の魔法で訓練することで得られるものもあるだろう。
問題はどんな魔法をチョイスするかなんだが……
「ふむ」
ふと正月に遊んだフリスビーのことが思い出された。
「魔法で応用すれば」
面白いことになりそうだ。
「ハル兄?」
ノエルが振り返って俺を見上げていた。
皆も立ち止まって俺の方を見てくる。
俺自身は声を潜ませて独りごちたつもりだったのだが皆には丸聞こえだったみたいだ。
「そろそろ次の魔法を覚えてもらおうと思っていたんだよ」
俺の言葉を聞いてルーリアが苦笑いする。
はて? 変なことを言った覚えはないんだが。
「まったく、ハルト殿は相変わらずだな」
他の一同がうんうんと頷いている。
横にいるローズまでもが同じように腕組みをしながら頷いていた。
「そんなこと言われてもなぁ」
「突拍子もつかないことを言っていると思わないか」
「それが毎度のことやもんな」
「そうそう」
したり顔でレイナに頷かれると、なんか腹立つ。
否定しようもないので鼻を鳴らすくらいしかできないが。
「無理強いはしないからギブアップしたいなら言えよー」
「言う訳ないやん」
即答ですか。
「うちら全員が次の段階に行けるってことなんやろ?」
「言うほど大袈裟なもんじゃないが、多少高度にはなるな」
どれだけ妄想力を高められるかがカギになりそうな気はする。
「うちはやる。できるまでやる!」
なんというか大泣きしてからのアニスは気合いが入っている。
暴走するようなら止めないとな。
「アニスがやるなら私もやるに決まってる」
レイナも鼻息が荒い。
こやつも要所要所で発奮するというか、前よりやる気を出している気がする。
「ですねー」
「「ですよ!」」
「私も負けていられない」
「もちろん私も挑戦するよ、ハルト殿」
皆やる気満々だ。
ノエルも目力をみなぎらせて無言で頷いてきた。
ならば勢いを削ぐ前に始めるとしよう。
「はい、じゃあ実演するから両側に寄っておこうか」
俺の指示に従い、みんな通路の両端に寄っていく。
魔物が近くにいないので仮想敵としてゴブリンサイズの人型ゴーレムを召喚した。
「これから実演するのは光魔法だ」
言いながら自分の目の前にフリスビーサイズの光り輝く薄い円盤を生成した。
「行くぞ」
予告してから光の円盤を少し傾け皆が氷弾を飛ばすのと同じくらいの速さで射出。
円盤はゴーレムの首に吸い込まれるように入っていき──
「どういうことっ!?」
「何も変わってないで?」
レイナとアニスが混乱するのも無理はない。
光の円盤は突き抜けただけだからな。
他の一同もどういうことだと互いに顔を見合わせていた。
だが、それは結果を見極めきれず早合点していると言わざるを得ない。
ズルリ
ゴーレムの首がズレ始める。
「「あっ、あれ見て!」」
双子に促され皆がゴーレムの方へ視線を向けたタイミングでゴーレムは頭部を下に落とした。
もっと光の円盤に角度を付けておくべきだったな。
「切った……」
「そない威力があるようには見えんかったで」
どういうことかと互いに意見を出し合うが、簡単に答えは出ない。
「ほれほれ、よく見るのだ」
あえて話し合いを中断させると飛んでいったはずの円盤を手元に呼び戻した。
しばらくは左右に揺らしたりグルリと宙返りさせたりして観察させる。
「もういっちょ行くぞー」
再度、予告してから頭を失ったゴーレムに放つ。
ただし先程より更に低速でだ。
そして左手首に吸い込まれ──
チュィン
光の円盤が通過するとゴーレムの左手が落ちる。
が、そのままでは終わらせない。
方向転換させた光の円盤が右の手首を通過。
チュィン
当然、こちらも同様に右手を切り落とした。
「あー、もしかしてー」
ダニエラが何かに気付いたようにパッと顔をほころばせる。
「分かったのか?」
疑問を顔に浮かべている皆を代表するようにリーシャが問うた。
「たぶん-」
ニコニコしながらダニエラは自分で光の円盤を作り出す。
パッと見は俺の作り出したものと差はない。
「行きますよー」
ゴーレムの腕に向けて放つが、食い込んで止まってしまう。
もちろん切断はされない。
「あれー? おかしいですねー」
ダニエラが小首をかしげると同時に円盤が消えてしまった。
想像と違ったことで集中が切れてしまったのだろう。
「回転させてると思ったんですがー」
ちょっと惜しいんだけどね。
読んでくれてありがとう。




