137 昼休憩には新メニュー
改訂版です。
地下2階はゴブリンだらけのフロアだった。
「ゴブリン、ゴブリン、またゴブリン」
レイナが愚痴りながら魔物を狩る。
あまりに数が多く全員参加でゴブリンを狩る方針に切り替えたのだけど。
それでも次から次へとゴブリンが湧いてくるので気持ちは分からなくもない。
スタンピードの時のことを思い出してしまうな……
「ふざけてたらアカンで」
アニスからツッコミが入った。
俺も物思いに沈んでいる場合じゃないな。
緊張感がなくなってきたのはいただけない。反省だ。
「愚痴ってるだけよ」
「どっちでも同じや」
「真面目に」
「「……」」
ノエルからの指摘で口は閉じたが2人はなおも目線でやり合っている。
理力魔法はスムーズに使えるようになってきたので次の課題になるようにと魔物を探知する空間魔法を解禁したのだけど。
敵や罠を把握できるようになって余裕が出てきたのが良くなかったのかもな。
ちなみに素材の格納は俺の役目のままだ。
容量の問題もあるけど、まだまだ格納にまごつくから時間短縮の意味合いが大きい。
そうでもしないと今よりだらけた雰囲気になっていた恐れがある。
一方でノエルは色々と工夫しながらゴブリンを倒しており貪欲だ。
体重の軽さとリーチを理力魔法でカバーし始めた時は感心させられたさ。
回し蹴りの延長線上にいたゴブリンの頭が派手に破裂したもんな。
何処の一子相伝な暗殺拳伝承者が現れたのかと思ったほどだ。
「エグいなぁ」
「乱戦では使わない方がいいわね」
「「面白そう」」
アニスとレイナは引き気味なのにメリーとリリーの双子はノリノリだった。
そのせいで真似し始めたんだが……
ブシャッ!
「見て見て、頭だけじゃなくて胸まで消し飛んだよぉ」
ドパッ!
「こっちも同じくらいかなぁ?」
何故か、より破壊力を求めているような倒し方をする。
そのせいでスプラッタな状態が更に強まっていた。
そもそもノエルは粉砕されたゴブリンの頭部を理力魔法で飛び散らないようにカバーしていた。
双子たちは見様見真似で始めたせいか、そのあたりの配慮を忘れているんだよな。
あえてそうすることで派手さを強調していることも考えられるけど。
それに誘発されるように興味を示したのが最初は引いていたはずのレイナだ。
「面白そうね。やってみよーっと」
グチャッ!
「フフン、どうよ。腰までやったわよ」
やったわよ、じゃねえっての。
ゴブリンの血や肉片を飛び散らしている自覚を持て。
それに挑発的な態度はさらなる誘発を招くんだぞ。
パァンッ!
「うちは膝まで消したで」
思った通りアニスまで参戦してきた。
しかもドヤ顔でレイナを挑発する始末。
「にゃにを~っ」
こんなところでもチョロさを発揮して対抗意識を燃やすレイナだ。
このままだと周囲が血で染め上げられてしまいかねない。
そう思ったところで──
「真面目に」
ノエルが間に入ってきた。
絶妙なタイミングで実に有り難い。
「そうだぞ。素材は残してもらわないと困るんだがな」
まあ、ゴブリンなんて舗装路の材料にしかならないんだけどね。
「「へーい」」
ヒートアップした2人もノエルの言葉には素直に従うようだ。
そもそもノエルはゴブリンの頭を吹っ飛ばした後は加減する方向で修正して調子に乗ることもなかったし。
リトライで頭蓋陥没、更にその次で首ポキと確実に修正。
見た目は可愛らしくて桃髪天使な幼女なのに末恐ろしい戦闘センスだと思う。
今なら熊男たちも単独で返り討ちにできるぞ。
本人はまだまだだと考えているようだけど。
ローズが無双するのを見てるし俺が万を超えるゴブリンを始末した話も聞いてるからな。
まだ空を自在に飛ぶようなことができないというのに翼竜を雑魚にできないようでは話にならないと考えているっぽい。
目標がやたらと高い気がするんですがね。
あれ? そうでもないのか?
現時点でも縛りなしで戦えば善戦できそうな気がする。
素材をダメにする覚悟でやらないと仕留めるのは厳しいとは思うけど。
それでも新国民組の中では頭ひとつ抜きん出ておりルーリアがそれに続く感じだ。
月狼の友はどうにか食らいついている印象なんだけど、これは保護者の意地なのかもね。
ゴブリンを派手に吹っ飛ばしていたのも、そういう対抗意識のようなものが働いていたのかもしれない。
何故か引っ越しの際に親の後を一生懸命について行くカルガモ親子のことを思い出してしまった。
レベルを逆転されただけでなく引き離されてるし必死になるのも無理はないのか。
そのお陰もあって、このフロアにウジャウジャいたゴブリンどもも殲滅完了。
次は3階と言いたいところだったが、そろそろ昼食時だ。
「休憩にしようか」
俺が声を掛けると新国民組が無言で頷き空き部屋に移動する。
結界を展開して安全を確保するくらいは、こちらでやっておく。
ただでさえ制御の難しい魔法をずっと使っていて疲労が蓄積しつつあるからね。
御飯を食べて体を休めれば魔力も少しは回復するだろう。
「うおー、飯だー」
「オッサンくさいこと言うてたら結婚できひんで」
「余計なお世話だ!」
結界を張った途端にうるさくなる約2名。
ごつごつした岩肌だけの閉鎖空間は、それだけ神経をすり減らしていたのだろう。
そのあたりも考慮して昼食は新メニューを用意した。
「ほら、受け取れ」
倉庫から引っ張り出した包みは掌より大きく、できたてのように温かい。
手渡されたそれを不思議そうに見ている。
柔らかい感触があるのにズシッとくる重量感に戸惑っているようだ。
「なあ、これなんだ?」
真っ先に聞いてきたのはレイナだ。
「ふわっとしててスゲー旨そうな匂いがするんだけど」
「ホンマや。なんやろ、これ?」
アニスは包み紙を開けずに鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。
「肉とー、野菜とー」
同じように匂いを嗅いでいたダニエラが食材をあげていく。
「調味料が複雑で初めて嗅ぐ匂いだな」
リーシャがそれに続く。
「食えば分かるさ」
包みも開けずに首を捻っている面々を促す。
「タレがこぼれるから包み紙は上手く使えよ」
「「了解でーす」」
「汁気まであるのか……」
「なるほど、それで包んでるやつのこっちが閉じてるんやな」
ワイワイ言いながら包み紙を開けていく一同。
「おー、無茶苦茶柔らかいパンで挟んでるのかぁ」
「「ホントだー」」
「こんなに柔らかいパンは初めてですー」
開けても賑やかさは変わらない。
「真ん丸な肉やな。おまけに何種類か混ざったような匂いするわ」
「「ホントだ」」
「タレの方ではないな」
「肉の方ですね-」
「凄すぎやろ、これ。どないしたら、こない不思議なことできんの?」
「アタシに分かる訳ないでしょ」
しげしげと観察している月狼の友を尻目にルーリアが食べ始めている。
「一度に色んな味が口の中で広がる感じだな」
「美味しい」
ノエルも躊躇なくかぶりついている。
「これは照り焼きハンバーガーだ。他のも用意してるからな」
残りはオーソドックスなのとエビカツバーガーである。
あんまり種類が多いとノエルが食べられないことを考慮した。
物足りない面子にはお代わりで対応するつもりだ。
「うめー! なんだ、これ!?」
「ホンマや、こんなん初めて食べたわ」
アニスとレイナが競うようにガツガツと食べ始める。
「「おいしー!」」
「このタレが絶妙のアクセントになっているな」
あっと言う間に照り焼きバーガーを食い尽くす月狼の友の面々。
ゆっくり食べているのはノエルとルーリアだけのようだ。
「こっちはトマトが厚切りされて入ってるのか」
「これはこれで酸味のきいた味わいがあって美味しいわね」
「この肉が軟らこうて謎やけど旨いがな!」
ノーマルのハンバーガーでもテンションが高い。
「それは数種類の肉を細かく刻んで練り合わせて円盤状にしてから焼いたものだ」
「「「「「へえー」」」」」
「これはハンバーガー用に薄くしてあるがハンバーグという」
ちょっとだけアニスの咀嚼する口が止まった。
「なるほど、ハンバーグを挟んだ料理やからハンバーガーて言うんやな」
すぐに食べる方へと戻ったけどね。
皆も食べるのに夢中で何日も絶食してたかのようだ。
「この赤いソースは何?」
不意にノエルから声がかかった。
皆に遅れたものの2個目に取り掛かったようだ。
「トマトをメインに煮詰めたケチャップだ」
「ん」
シンプルなメニューにはシンプルな味付けが最適だよな。
「どうだ、気に入ったか?」
夢中でハンバーガーに齧り付きながらもコクリと頷いてくれた。
「そうかそうか」
ほっと胸をなで下ろしたくなるくらい安心したよ。
「だったらケチャップを使ったメニューを今度作ろうな」
お、こっち見た。
無表情なのに目だけキラキラした感じで俺のことを見てくる。
ハンバーガーを食べながらってのが締まらないけど。
それだけ気に入ったってことだろう。
明らかに催促する感じの目をして無言で聞いてきているもんな。
「御飯と少量の肉とタマネギなんかをケチャップと一緒に炒めたチキンライスとか美味しいぞ」
少しノエルの目が見開いたような気がした。
「それを卵で包んだオムライスも絶品だし麺料理でもスパゲティナポリタンとかあるな」
間違いなく目を丸くさせている。
まあ、ノエルにしてはという微妙な変化なんだけど。
「他にもエビチリとか酢豚もあるな」
子供には刺激が強くならないよう仕上げる必要はあるが。
モグモグがとうとう止まってしまった。
「ケチャップをベースにしたソースもあるんだぞ」
気がつけば月狼の友までもがポカーンとした表情で静止画のように止まっている。
「マヨネーズなどと混ぜればサウザンドアイランドソースになる。他にも野菜たっぷりのミネストローネスープとか、また違った味わいに……」
うわぁ、ノエルの瞳のキラキラがパワーアップしてキラッキラッになってる。
そこまで食いしん坊キャラだとは思わなかったよ。
読んでくれてありがとう。




