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136 実戦実習

改訂版です。

「こんにゃろおっ!」


 理力魔法で拳を覆って威力を高めたレイナの3連撃が鬼面狼の背中に打ち込まれた。

 正面から飛び掛かってきたところを伸身宙返りで躱しながら。


「ギャン!」


 断末魔の鳴き声がダンジョン内に響き渡りレイナは捻りを加えた前方宙返りで着地した。


「へへー、決まった」


 Vサインをしながら歩いて俺たちの元に戻ってくるレイナ。


「30点」



 自信満々だったであろうレイナは俺の辛口の評価にずっこける。


「なんでだっ?」


「理力魔法の制御がまだまだ甘くて魔力効率も悪いのにオーバーキルな攻撃をしただろ」


「それは──」


「調子に乗ってると肝心な時に魔力切れを起こすのがオチだ」


「ぐっ」


「そもそも飛び越える必要はなかったよな。隙だらけだったぞ」


「そこは完全に仕留めきったんだからいいじゃん」


「対応してくる敵だったら? 雑魚に化けている敵だっているかもしれないぞ」


「うっ」


「それに周囲への警戒も足りない。アレが囮だったら好き放題に狙われていたぞ」


「ううっ」


「カッコつけるなら、もっと魔法を使いこなせるようになってからにしろ」


 レイナ撃沈。短く唸ることすらできなくなったようだ。


「「うわー、容赦ないですぅ」」


「仕方あるまい。事実だからな」


 リーシャの容赦ない追い打ちにレイナがションボリモードに入ってしまった。


「頑張れ。落ち込むのは帰ってからだ」


「っ!」


 ルーリアに声を掛けられてダンジョンの中であることを思いだしたレイナが気合いを入れ直す。

 とはいえ、ここはミズホ国にあるダンジョンのひとつ、その地下1階である。

 うちのダンジョンはどれも攻略難易度的には同じくらいで初心者向けだ。

 今の新国民組ならば余裕を持って攻略できるだろう。


 修行としては微妙なところだが、タイミング的に魔物が多くなってきていたのを利用した。

 最近は地上に野良の魔物が放出されぬよう間引くのは自動人形に任せていたんだけど。

 数が多いなら連携の確認なんかに都合がいいのでね。

 新国民組がうちの国民になって初めてのダンジョンアタックだから慎重を期したというのもある。


「これで、このフロアは片付いたな」


「次も鬼面狼ばっかりなんて勘弁してや~」


 アニスが辟易してますとアピールしてきた。


「それはダンジョンに聞いてくれ」


 気持ちは分からんではない。

 皮はゴワゴワしてて品質低いし、肉も筋張ってマズいからなぁ。

 しかも別名一匹狼ってくらい群れるのを嫌うから連携の確認には不向きな相手である。

 ゴブリン数匹程度の強さだけど、群れない分こちらの方が与し易い相手だ。

 今の新国民組からすればダブルで敬遠したい相手なんだよな。


「行くぞ」


 岩肌の壁が続く通路から下の階へと続く階段を下りていく。


「頼むでー。ちゃんとした魔物が来てやぁ」


「そんなことを言ってると対処の難しいのが来かねないぞ」


 リーシャがアニスにツッコミを入れる。


「そら無いんとちゃうか。賢者はんが国内のダンジョンは初心者向けやて言うてたやん」


「油断するなと言ってるんだ。レベルが低かろうと大挙して押し寄せれば脅威となる」


「それはさすがに無いやろ」


 アニスは高をくくっているようだ。


「調子に乗ってると痛い目を見るぞ」


 俺が忠告するとギョッとした目を向けられた。


「次のフロアでなんぞヤバいのがおるんかいな?」


 恐る恐る聞いてくる。


「さて、どうだろうな」


「焦らさんといてや~」


「緊張感が足りないんだよ」


「そんなん言うたかてなぁ」


「攻撃も防御も理力魔法限定の縛りを入れていることを忘れるなよ」


「あ、せやった」


「おいおい」


 ウッカリにも程があるだろう。


「自分たちだけで潜ってるつもりで心は熱く頭は冷静に、な」


「へーい」


 こんなやり取りをしながらも周囲を照らしていたマルチライトの魔法を調節しつつ歩みは止めない。


「便利な魔法だな」


 話しかけてきたのはルーリアだ。


「そうか?」


「光量を調節して足下を明るくしつつ前方は暗めにするなんて松明じゃ難しいからな」


 そりゃそうだと思いながらもゴールが見えてきた。

 ここで光量調節ができていないと次のフロアで待ち伏せをくらう可能性がある。

 まあ、今回の場合はそこまでする必要はないんだけど。

 これもセオリーを学ばせるためだ。

 何が起こるか分からない状況下であると仮定し安全マージンを考慮して動けるかな。

 新国民組のお手並み拝見だ。


 2列に隊列を組み時計回りでローテーションして先頭がいつでも入れ替われるようにしている。

 現在の先頭は左にダニエラ、右にアニスだ。

 時計回りに見ていくとレイナ、ノエルと続き最後尾は双子たち。

 まあ、俺とローズがその後ろにいるのだけど俺たちは監督する側だ。

 残るローテーションの面子はリーシャとルーリアの順である。


 戦闘は基本的に前衛だけで行い終了後は2人ずつズレていく。

 数が多い時は後ろの面子も参加していいことになっているんだけど次のフロアはそんな感じになりそうだ。

 階段を下りた先は少し開けた場所になっているけどゴブリンだけで24匹もいる。


 先頭の2人が足を止めた。

 月狼の友は全員耳がピクピク動いている。

 まあ、ギャッギャと声を発しながら騒いでれば他の面子にも聞こえているんだけど。


 アニスとダニエラが振り向いて最後尾の俺の方を見た。


「どないしよ、やたらと数が多いみたい」


 声を潜ませてアニスが聞いてきた。

 理力魔法のみという縛りを入れているとはいえ、今の彼女らが苦戦するような相手ではない。

 やたら慎重なのは過去の出来事が影響しているのだろう。


「1人3匹ずつな。ゴブリンだからすぐに終わるだろ」


「そんなことまで正確に把握しているのか」


 リーシャが目を丸くさせている。


「音と匂いに頼りすぎだ。気配も探れ」


「う……」


 たじろいでいるけど、そんな凄いこと言ったか?


「リーシャは何度も習得に失敗している」


 ノエルがボソリと漏らした。


「そ、それは言わない約束だろう」


 かなり恥ずかしいらしく赤面しつつワタワタしている。


「賢者さんに教わると良い」


「まあ、帰ってからだな」


 妖精たちと隠れんぼでもすりゃ身につくだろうさ。


「気配が探れるのは誰だ?」


 念のために確認してみるとルーリアだけが挙手をした。


「賢者殿のように相手がゴブリンと分かる訳ではないが」


「充分だ」


「いや、数もここまで大勢だと把握しづらい」


「ふむ」


 次の課題ができたな。

 とりあえずは目先の得物を片付けるのが先決だろう。


「とりあえず全員でゴーだ」


 パンッ!


 大きな音が階段通路に響き渡る。

 俺が柏手を打った音だ。


「うわー……、何すんねん……!」


「マジかっ……!? 信じらんねえっ……!」


 アニスやレイナは大慌しながらも声は潜ませている。

 そこに気を遣うくらいならフロアの様子を探った方がいいと思うけどな。

 その余裕がありそうなのはダニエラとノエル、そして呆れ顔のルーリアだけだった。

 雑魚相手だからといって、そこまでするのかと言わんばかりだ。


「この程度の相手に奇襲を仕掛けたって蹂躙するのが目に見えてるだろ」


 この一言でルーリアが真っ先に行動を起こす。

 先頭の2人の脇を抜けて階下へと走る。

 ダニエラとノエルもその後を追い、慌てた様子でリーシャと双子が続く。

 アニスとレイナは固まったままで取り残されていた。


「ほらほら、行った行った。この程度でオタオタしてどうすんの」


「くそぉ、覚えてろよ!」


「訴えたるからな!」


 何処の誰に訴えるって言うんだよ。

 苦笑を禁じ得ないが2人が捨て台詞を残しつつも走り去ったので良しとしよう。


「さて、俺たちも行きますか」


「くー」


 ひょいひょいと階段を何段飛ばしかで降りて行く。

 すぐに階下へと辿り着いた。


「どれどれ」


「くうくー」


 様子をうかがうとルーリアとノエルは壁際で突っ立っていた。

 ノルマは果たしたから待機してますってところか。


「おっ」


 ダニエラがゴブリンの背後に回り込んで後頭部に膝蹴りを入れる。

 ゴブリンの後頭部が陥没し目玉が半分飛び出した。

 可愛い顔してやることがエグい。


「一撃必殺で確実に仕留めたいんだろうけどグロいのは勘弁してよ」


 ノルマのラスト1匹では愚痴ってもしょうがないかもしれないが。


「くーくくぅくーっ」


 無駄な動きは多め、か。


「理力魔法は細かく制御しているぞ」


 背後に回り込むのに理力魔法で足場を作って鋭角な動きを見せていたし。

 膝の先も理力魔法で覆っていた。

 不潔の代名詞ゴブリンには触れたくないもんな。


「終わりましたー」


 ニコニコと満面の笑みで両手を振ってくる。

 一応、俺も手を振り返しておく。

 とても周囲で命を張った戦いが繰り広げられている状況には見えない。


「邪魔にならないように壁際に寄っておこうか」


「はいー」


 スルスルと戦闘している空間をすり抜ける様は踊っているかのようだ。


「みんなー、頑張れー」


 壁に辿り着いたら緊張感のないフワフワした応援を始めるし。

 良くも悪くも影響を受ける者は戦闘中の面子の中にはいなかったが。


「くー」


 おっと、リーシャも終わりか。

 回し蹴りを叩き込んだ勢いを利用して壁際へと跳躍してくる。

 外連味のある終わらせ方だ。


 続いてメリーとリリー。

 背中を向け合いゴブリンを挑発している。

 互いの正面にいるゴブリンがほぼ同時に飛び込んでいった。


「距離もタイミングも同時か」


「くっくー」


 やるねー、とローズは言うけれど感心するのはまだ早い。

 跳躍で突撃を躱すだけでなくゴブリンどもの後頭部を蹴りつけて顔面衝突させた。


「「グギャッ!」」


 理力魔法で空中に作った壁を蹴って戻ってきたメリーとリリーがゴブリンどもの頭頂部に踏みつけキック。


「あ」


 ゴブリンの頭部がくさび形に陥没。

 踵に杭の形で理力魔法を展開させたな。

 あー、またしてもスプラッタな倒し方をしてくれたよ。


 そして残るはアニスとレイナ。


「残っとるのうちらだけやん」


「出遅れたからな」


 それぞれ残り1匹ずつ。


「さっさと終わらすで」


「当然!」


 2人は同時に動く。

 正面から小細工なしで一気に踏み込み、アニスは回し蹴りをレイナは掌底を繰り出した。

 結果は首ポキと肋骨粉砕プラス心臓破裂。


 こうしてゴブリン24匹との戦闘は終了した。


読んでくれてありがとう。

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