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123 イタズラ&時差ボケ解消

改訂版です。

 足音も気配も徐々に遠ざかっていくのは月狼の友にも分かるはず。

 案の定、レイナが勢いよくガバッと起き上がってダダダーッと距離を詰めてきた。


「無視すんなー!」


 キーキー喚いてきてうるさいが予想通りすぎて内心でほくそ笑んでしまう。

 そうそう、こうじゃなくっちゃね。

 コイツがいると行動を予測しやすくてやりやすいわ。


「言っとくけど、したくて無視した訳じゃない」


 ノリでやったことは否定しないけれど。


「まともに話を聞く体勢ではなかったから放置したまでだ」


 手詰まりでどうしようもなかったし。


「ぐぬぬ」


 さっきまでのガクブルぶりとは大違いで歯ぎしりまでしている。

 飛び出してきたレイナの背後で困惑気味に立ち上がる月狼の友の面々。


「ようやく立ったなぁ」


 俺の間延びした物言いにレイナが我に返ってキョロキョロと周囲を見渡し始めた。

 怒りにまかせて勢いよく前に出てしまったせいで状況を思い出した途端に不安を感じたのだろう。

 行動が極端すぎて微笑ましく感じてしまうのは本人には内緒だ。

 言ったらギャーギャーと怒り出して時間を浪費するだろうし。


「何の脈絡もなく土下座なんてされても困るんだよ」


 返事はない。

 逆にこっちが困るんだけどという目で見られた。


「俺のことは、おらが村の村長さんくらいに思っておけばいい」


 無茶を言うなという視線の集中砲火を浴びてしまいましたよ?

 いつまでも城の中庭で突っ立ってるのは意味がないのでスルーしたけどね。


「とにかく立ち話じゃなく落ち着ける場所で話をしよう」


 腹も減ってくる頃合いだろうし食堂でいいだろう。

 そんな訳で先頭に立って移動を始めたが、土下座していた面々も大人しくついて来るようで一安心。

 うちの城は無駄にでかいから置いてきぼりを食うと迷子になるのは目に見えているもんな。


 あ、城の規模を知って月狼の友が畏縮したのか。

 今頃になって気付くとか間抜けすぎる。

 道理で「おらが村の村長さん」発言にジト目を向けられた訳だ。

 とはいえ変に気にしていると再び畏縮させてしまいかねないので表には出さずにスタスタと先に進む。


 そんな中、途中で鶏舎に寄っていった。


「鶏さんたちはずいぶんと増えたもんだよなぁ」


 繁殖期のない鶏は増やすタイミングをコントロールしやすいのでありがたい。


「主が繁殖を推進したからだろう」


 鶏を鶏舎に入れてきたツバキが真面目な顔をして言う。


「でなければ、先日のクリスマスパーティーで卵をふんだんに使えなかったぞ」


「保存していた卵も使ったけどな」


 こっちに来てから【諸法の理】で知ったんだけど卵は保存が利く食材であった。

 日本にいた頃は消費期限が煩かったけど、あれは生食のためのものだったんだな。

 火を通して食べるならもっと融通が利くと知って驚いた。

 殻と内側の薄皮に長期保存を可能にする秘密があるんだと。


 それはそれとして、鶏が大幅に増えたことで余裕ができたのは喜ばしい。

 正月には茶碗蒸しを作って食べるつもりだ。

 そうなるとプリンも食べたくなるじゃあ~りませんか。

 ……思わず懐かしさを感じる関西芸人のギャグが出てしまった。

 それくらい嬉しいってことだ。


 いずれ新鮮な卵がふんだんに使えるようになる日も遠くないだろう。

 そうなればTKGだよ、TKG!

 え? 意味が分からん?

 TKGと言えば卵かけ御飯に決まってるじゃないか。


 そしてマヨネーズだ。

 異世界に来て新鮮な卵を手に入れたらマヨネーズを作るのはお約束である。

 マヨを使ったチャーハンはぜひ食ってみたい。

 素人が弱い火力で作っても米がコーティングされるからパラパラになるんだよ。

 城の厨房のコンロはちゃちな火力じゃないけどさ。


 それからタルタルソースを作ってフライ料理に添えたいし。

 ハンバーガーとかで使うと絶品になるサウザンドアイランドソースも忘れてはいけない。

 あとは刺身を食べる時に使う醤油マヨ。

 とにかくマヨは最高だ!


 頭の中が卵に占領されている間に食堂へと到着。

 お茶を用意してクールダウン。


「珍しい」


 ノエルが湯飲みの中を見ながらボソッと呟いた。


「せやな。色も味も初めてやわ」


 アニスが同意する。


「だが、不思議と懐かしい感じがして落ち着く」


 ルーリアがしみじみした様子で語るとノエルが頷いた。

 一息つけたおかげか他の面子もリラックスできているようだ。

 まったりした時間が流れるのは有り難いね。


「この匂いは何?」


 レイナが鼻をスンスン鳴らす。


「食事の用意をしているんでしょ」


 リーシャがツッコミを入れると、レイナは頭を振った。


「それは分かってるのよ。嗅いだことのない匂いじゃない」


「米を炊いている匂いだな」


「米? 何それ、美味しいの?」


「ミズホ国の主食だ。小麦の親戚みたいなものだが実を蒸したり炊いたりして食べる」


「「「「「へえ~っ」」」」」


「主食ってことは、この後の食事で出てくるってことよね」


 レイナが確かめるように聞いてきた。


「ああ、もちろん朝食に出るぞ」


「「どんな味なんだろうね」」


 双子のメリーとリリーがワクワク顔である。

 他の皆も興味津々なようで一安心だ。


「ちょう待ってえな。晩ご飯やのうて朝食ってどういうことやの?」


 アニスはそれどころではなかったようだが。

 故に時差についてもレーヌ儀と太陽がわりの光源を用意して説明しておいた。

 昼と夜が発生するメカニズムに感心することしきり。

 短時間で東西方向に大きく移動すると時差が発生することも何とか理解してもらえたようで何より。

 理解できても時差ボケは治らんけどね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「さて、諸君」


 朝食後に俺は席を立って皆に語りかけた。


「年末年始の準備に向けて忙しくなるが、よろしく頼む」


 頭を下げると口々にやる気にあふれる言葉が食堂内のあちこちから聞こえてきた。


「それでは効率よく作業を進めるために班分けをする」


 とはいうものの食材確保と重箱作成で大雑把に分けただけだ。

 細かく指示しなくても後は個々の判断で手分けして仕事してくれるからね。

 班分けが終わるとササッと行動を始める一同。

 動かないのは西方から帰ってきたばかりの俺たちだけである。


 ノエルがちょっと眠そうに可愛らしいアクビをした。

 さっそく時差ボケの症状が出たな。

 慣れていくしかないが初日から切り替えるのは子供でなくても無理だ。


 いっそのこと睡眠の魔法を魔改造して眠らなくて済む時差ボケ解消魔法を作ってみるか。

 眠らせる魔法なのに眠らせないとはこれ如何に。

 名付けてジェットラグキャンセラー。

 通常はリセットされてしまう体内時計を現地の環境に合わせて変更する。

 対象の体調にも影響しかねないので言うは易く行うは難しの術式になりそうだ。


 まずは体内時計を確認して現地時間にセットする必要がある。

 で、これによる体調の変化を観察しつつ臨機応変に対応。

 胃薬生活魔法ディジェストより繊細かもしれん。

 リミッターやら安全機構を何重にも張り巡らせているせいだな。

 脳内スマホで仮想実行してデバッグするのも同時進行なので余計に複雑だ。

 【多重思考】スキルの助けを借りて、どうにかクリア。


 完成はしたものの制御が複雑で魔力消費も膨大になってしまった。

 【魔導の神髄】スキルがないと使用は困難を極めそうだ。

 とりあえず使ってみて改良を施していくとしよう。


 自分にドン。

 問題は何も発生しなかったがレベルの高さが体調不良などの問題を起こしにくくしているから参考にならん。


 続いてローズ、ツバキ、ハリー。

 この3名には念話で斯く斯く然々と説明してから使ってみた。


『どうだ?』


『くくーくぅくっ』


 問題ナッシング、とローズさん。


『特に不調は感じないぞ、主よ』


 ツバキも大丈夫。


『むしろ調子よく感じるくらいですね』


 ハリーも問題なくクリア。

 残るは更にレベルが低くなる残りの帰還組だな。

 特にノエルは子供だから体力も少ないし。


「時差ボケを解消する魔法があるが使ってみるか?」


「えっ、そんなのあるの? だったら先に言ってよね」


 レイナの反応は到着時に土下座をしたとは思えない気安さがあった。

 これだけでもジェットラグキャンセラーを作った甲斐があるというもの。


「できたてのホヤホヤだ」


「それは大丈夫なのか?」


 リーシャが頬を引きつらせながら聞いてくる。


「自分で実験済み」


「そうか」


 返事はしたが使ってみたいとは言わないな。


「どう転んでも健康上の害はない」


「めちゃめちゃ不安を感じる言い様やんか」


「時差ボケを解消しきれない場合は寝落ちするだけだ」


「寝落ちするだけて無茶苦茶やん」


「安全に配慮した結果だ。元は強制的に眠らせる魔法の術式がベースになっているからな」


「眠らせるはずの魔法で眠らせへんて……」


 アニスはとうとう呆れ顔になってしまう。


「今更じゃない?」


 俺のやることだからと言わんばかりの目でレイナが言った。


「せやな」


 そこで即座に納得するアニスもどうなんだろう。

 俺の自業自得なのか?

 まあ、いいや。土下座された時の心境でいられるよりはマシだもんな。


 何だかんだ言って新国民組もジェットラグキャンセラーを使った。

 結果は数分の寝落ちという何とも微妙な感じ。

 ここまで中途半端だと完璧になるまでバージョンアップさせないと気が済まない。

 そこは追々やっていくということで納得することにした。

 他にもやることあるもんね。


 とはいえ新国民組には仕事を割り振れない。

 年末年始はお客さん状態で見学が主になるだろう。

 ある程度慣れたらダンジョンにも連れて行ってパワーレベリングだ。

 並行して色々と勉強してもらうことになるけど音を上げない程度にセーブしないとな。


読んでくれてありがとう。

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