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121 底抜けに驚かれる

改訂版です。

 それからあれこれ説明したものの……


「私ダメ、ギブアップ」


「「私たちも」」


 レイナに続いてメリーとリリーの双子も降参した。


「とりあえず、そういうものだと思っておけばいい」


 重力の概念が定着していなければ簡単に理解できるものでもないだろうし仕方あるまい。


「ちなみにずっと球体と言ってきたが、ここはレーヌという名の星だ」


「「「「「ええぇぇぇぇ─────っ!!」」」」」


 念のために外に声が漏れないよう魔法を使っておいて正解だったというくらいの大声で驚かれてしまった。

 何の予備知識もなく告げられたことで次の言葉が出てこないほど衝撃を受けたらしい。


 そんな中で落ち着いているのがノエルとルーリア。

 驚きすぎて声も出ないという感じでもないから凄いと思う。


「天空に浮かぶ星々と同じ、か」


 俺の右隣に座るルーリアが微かに笑った。


「つまり星々は我々が考えるよりも遙か遠くにあるということなんだろうな」


「宇宙はそれだけ広大だってことだ」


「宇宙とは?」


「星々が点々と存在するとてつもなく広い空間のことだ」


「そんなに広いのか」


「稲妻の速さで飛んでも人が生きている間に宇宙の果てへと辿り着くのは不可能というくらいには」


「想像もつかないな」


 ルーリアは頭を振ってノエルの座っている方を見た。


「賢者さんは嘘をついていない」


「世界は私の想像など及びもつかないくらい広い、ということか」


「そうだな。その宇宙を世界のひとつの単位として認識すればいい」


 馬車の中に沈黙が訪れ気の抜けた何とも言えない諦観のような雰囲気が広がっていく。

 想像の斜め上すぎたんだろうなぁ。

 故に仕込みがあったことに気付いてくれるかは微妙かもしれない。


 とりあえず、かき回された頭の中の整理がつくまで待ってみる。

 今ここで話を先に進めても受け付けないだろうし。

 そんなこんなで待つことしばし……


 俺の隣に座るノエルがこちらを見てきた。

 どうやら気付いたな。

 もう少し待てば他の皆も──


「ん?」


 後ろの席からアニスの声が聞こえてきた。


「何よ、思わせぶりに首なんか捻って」


 すかさずレイナがツッコミを入れている。


「賢者はん、今とんでもないこと言わんかったか」


「なに言ってんのよ」


 溜め息をつきながらレイナが呆れのこもった視線をアニスに向ける。


「ずっと、とんでもないことばかり言ってるじゃない」


 それでも否定しようとしないのは南海で壮大な実験を繰り返した記憶が残っているからかもな。


「そうやけど、最後のが極めつきやって気ぃつかんのかいな」


「最後の?」


「せや、宇宙が世界の単位てどういうことやの?」


「知らないわよ。私に言えるのは常人の理解が及ばない話ってことくらいね」


 ダメだこりゃとアニスが苦虫を噛み潰したような顔で頭を振った。


「何よぉ」


 条件反射的にちょっとケンカ腰になるレイナ。

 少しは考えような。


「アホみたいに広い宇宙だか世界だかが他にもあるみたいな口ぶりやて気付かんか」


「まさかぁ」


 大口を開けてカラカラと笑うレイナ。


「そんなことある訳──」


「あるよ」


 某ドラマに出てくるバーのマスターのように素っ気なく肯定した。


「詳しい数は俺も知らんが山ほどあるそうだ」


「「「「「ええぇぇぇぇ─────っ!?」」」」」


 先程の沈黙時より更にスケールが大きくなって彼女らの頭の中はこれ以上ないくらい真っ白になっていることだろう。

 声に出して驚いたのは月狼の友の面々だけだったが、ノエルもルーリアも驚いてはいるようだ。

 けれど、これで終わりじゃないんだよな。


「ちなみにだけど、この世界はルベルスという」


 情報処理が追いついていないせいか返事も反応もない。


「で、俺が元いた世界はセールマールだ」


「元いたって、どういうことですかー?」


 月狼の友の面々の中では早めに動揺から復帰してきたダニエラが聞いてきた。


「俺はセールマールの世界にある地球という星の日本という国から来たんだよ」


「「「「「はあぁっ!?」」」」」


 君ら、本当は六つ子じゃないのかね。

 そう思うくらい月狼の友のハモり具合はシンクロ率400%かよってくらい完璧だ。

 受け狙いでやってないよね?


「本当」


 誰に聞かれるでもなくノエルがフォローしてくれた。

 そう言っているノエルでさえ目を丸くして驚いていたけどな。

 ルーリアでさえ困惑の表情である。

 少々驚かせすぎたか。


「でも、どうやって?」


 ルーリアが疑問を口にする。


「せやで。とんでもなく距離があるて言うてたやん」


「空間から空間を一瞬で移動する術があるんだよ」


「転送魔法」


 ボソッとノエルが呟いた。


「当たらずとも遠からずかな」


「魔力は?」


 足りるのかと聞きたいようだ。


「自前じゃ普通は無理だろうな。大きな魔法を失敗して暴走させた結果そうなることもあるけど」


「それが賢者殿ということか」


 そんな風に当たりをつけたのかルーリアが聞いてくる。


「いいや、俺は別のパターン」


 それはルーリアの御先祖様だと言いたかったけど信頼関係をもっと積み上げてからと我慢した。

 まずは俺がどうやってこの世界に来たのかを話す方が先決だし。


「ことの始まりは──」


 俺は魂喰いに魂を半分喰われたあの晩の出来事から話し始めた。

 暴走した挙げ句に自爆した神がいたこと。

 その神の欠片が俺に埋め込まれ呪われていたこと。

 女神の力で生まれ変わり元の世界にはいられなくなったこと。

 誰もいない場所を選んで建国したこと。

 家を作ろうとした俺が無茶な魔法を使ったこと。

 その結果、数十万の狂ったゴブリンをポップさせたことまで話した。

 でないとローズや妖精たちとの出会いも説明できないからな。


「──と、だいたいこんな感じかな」


 話し終わる頃には随分と時間が過ぎていた。

 途中で質問攻めにあったしなぁ。

 亜神と魔神の戦いなんて食いつきが凄かった。


「直に見た訳じゃないから知らないことの方が多いんだよ」


 大いに落胆されたけど知ったかぶりで適当なことを喋る訳にはいかないよな。

 どんな亜神や仙人がいるのかとか言われても代表2名しか知らんし。


「では、称号はどうだろう?」


 リーシャが聞いてきたこの質問も骨の折れるものだった。

 皆の興味をそらせるために気を遣ってくれたようなのだけど裏目なんだよな。

 本来なら3個もあると言うべきローズの10倍近くもあるんだから。

 女神関連の称号なんて[女神の息子]なんて知られたらヤバそうなのを含め4個もありますよ?

 おまけに[影の断罪者]と[ラミーナの友]なんてのが増えてるし。

 後者は嬉しかったけど全部解説するのにやたら時間がかかったので疲れたよ。


 区切りのいいところで前に王女様たちが襲われていた山の中の少し開けた場所へと出た。

 ここで馬車を止め休憩に入る。

 鶏運搬用に購入した馬車は軽量化とかする隙がなかったので馬を休ませないといけない。

 時間的にはピンチなんだけど馬を使い潰すのは可哀想だもんな。


「ハリー、馬たちに水を」


「はい」


 馬を俺たちの馬車の陰の方へ連れて行かせた。

 ツバキはジェダイト組とこの後の予定について話し合っている。

 ここに来るまでに【多重思考】スキルで作業しつつ念話で指示を出していたのだ。

 作業内容は亜空間倉庫の中で理力魔法を用いて馬の外見を忠実に再現した自動人形の作成である。


 ついさっき完成したので御役御免ということで自動人形と交代。

 馬くんたちは生き物を収容できる特別仕様の倉庫に収容だ。

 臆病な動物だから、よく分からない場所に入りたがらないだろうし先に魔法で眠ってもらう。


 ドルフィンことローズには幻影魔法と風魔法でカモフラージュすることも忘れない。

 チームワークで危なげなく入れ替え完了。

 言うほど大袈裟なことでもないか。


 でもって俺は購入した馬車の魔改造。

 乗り心地は碌なもんじゃないから運ばれている鶏たちにとってもストレスが大きいはずだしな。


 というか、此奴らも眠らせて倉庫に放り込んでおけばいいのか。

 もはや荷物の厳重なチェックなんてされないんだし魔法でいるように見せかけるだけで充分だ。

 もちろん乗り心地の改善や軽量化などの改造も忘れない。


「大丈夫か?」


 あまりに時間がかかっているのでハマーが心配して声を掛けてきた。


「鶏の負担を減らしたいから念入りにしているんだよ」


「そうは言うがな」


「暗くなっても魔法で明るくすれば事故の心配はないぞ」


「魔物の心配をしているんだ」


 夜行性のも多いだろうし懸念するのは分かる。

 もっとも俺は意図的に時間調整をして日が暮れてからの到着を狙っているいるんだけど。


「そんなのは照明の範囲内に入った瞬間に潰すから大丈夫」


「お主が言うと冗談に聞こえんのだが」


「大真面目に言ってるからな」


 そうまでして時間稼ぎをする理由はクリスティーナ・ゲールウエザーさん御一行との接触を回避したいからだ。

 見つかって引き止められたりされては帰れなくなってしまうかもしれないだろ。

 正式にお礼がしたいと言われることは充分に考えられるからな。


 そんな訳で狙い通りの形で到着したが、日が暮れるまで王女様が門の所で俺たちの帰りを待っていたそうだ。

 門番からその情報を聞かされたときは冷やっとしたね。


 礼なんて一言で充分だから俺に平穏で自由な年末年始を送らせてくれ。


読んでくれてありがとう。

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