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119 お土産どうする?

改訂版です。

 ランクが確定した後は受付嬢のお姉さんから冒険者ギルドの説明を受けた。

 規則などは緩い方だろう。

 難しいことは何もなくて常識の範囲で行動していれば罰されたりはしないようになっている。

 あまり抑圧すれば反発が強くなるという想定がされているのだろう。


 ゴードンは、この規則を作った誰かを見習うべきだと思う。

 今にも身を乗り出さんばかりにして無言のプレッシャーを掛けてくるからな。

 ブリーズの街にしばらく滞在してほしいという心の声が聞こえてくるかのようだ。


 が、こっちだって予定が埋まっているのだから国民でもない人間のことまで構っていられない。

 お断りするのは当然である。


「今日は何が何でも帰るんだよっ」


 強い口調で言ってゴードンの言動を封じた。

 指名依頼はないと言ったが、どうせ長期間にわたり手つかずの面倒なのを片付けようとか目論んでいたんだろう。


 お姉さんもゴードンを居ない者扱いして俺の味方についたので楽だった。

 どっちがギルド長なんだか分かったもんじゃない。

 そんなこんなで俺たちは冒険者ギルドを出た。


「失敗したなぁ……」


「忘れ物という訳ではあるまい」


 だったら気にするなとハマーが声を掛けてきた。


「ある意味、忘れ物だ」


「ならば取りに戻るしかなかろう」


「そういう忘れ物じゃないんだよ」


 俺の返事にハマーは理解不能とばかりに表情をゆがめた。


「良くしてくれたお姉さんに名前を聞くのを忘れたってだけ」


「次の機会に聞けば良かろう」


 まあ、そうなるよな。

 引き返して聞きに行けばナンパと勘違いされかねないだろうし。

 という訳で商人ギルドへ向けて歩き始める。


「じゃあ、次。他に用事のある者はいないか」


 月狼の友やノエルはボーン兄弟と挨拶を済ませてあるし、ルーリアは荷物を回収してきた。

 多少の寄り道くらいは許容範囲だ。


 何の問題もなさそうに思えたんだが意外な所から返事があった。


「お土産を……」


 そう言ったのはハリーだ。

 強く主張しないのは俺がゴードンの前で今日中に帰ることを何度も口にしていたからか。


「ふむ」


 確かに旅行気分で遊び歩いていたのに手ぶらは良くないな。

 役所勤めの時の悪いクセが出てしまったみたいだ。

 まあ、あれは何故かぼっちに対する風当たりが強かった一部の変な輩がつまらんことをネチネチと言ってきたからなんだが。

 土産を持って行かなきゃ旅行に行った証拠はないから何も言われなかったので被害は軽減できたけど。


 ただ、今にして思えば虚しいものがあるし皆を喜ばせるのは悪いことではないだろう。


「そうだな。買って帰ろう」


 即断即決なんだが、問題がひとつ。


「何を買って帰るか」


「食べるもので良いのではないか」


 ツバキが提案してくる。

 そうなるとこの辺りでしか食べられないものの方がいいよな。

 とはいえ、そういう情報は現状で皆無に等しい。


「ハマー、お勧めとかあるか?」


「この辺りだと難しいな」


 残念な回答である。


「ここは街のすぐ側にあるダンジョンで大きくなったからな」


「そうなんだ」


 ダンジョンの存在には気付いていたが、そういう背景があったとは初耳だ。

 だとすれば攻略しがいがあるのではなかろうか。

 多少、物足りない感じだったとしても地下ダンジョンはロマンがあるのだよ。

 初期のRPGはゲームの容量的にこのタイプが多く俺もお世話になったので郷愁を感じているのかもしれないが。

 何にせよ忙しいから次回の訪問までダンジョンアタックはお預けだ。


 それよりも土産物をどうするかだろう。


「ダンジョン名物なんてある訳ないしなぁ」


「あるみたいですよ」


 俺のぼやきに近い独り言に声を掛けてきたのはボルトだった。


「なんだと!?」


 俺よりもハマーの方が先に反応した。

 ブリーズの街に来るのが初めてのボルトが情報を持っていることに驚きを禁じ得なかったようだ。


「ダンジョン焼きとかダンジョン棒なんかが売られていたのですが初めて見た食べ物でした」


 ボルトの返答を受けてハマーを見るが頭を振られる。

 把握していないということは最近のものか知る人ぞ知るものであるかだと思われる。


「なるほど、屋台の食べ物か」


「はい」


 返事をしたボルトの表情はあまり誇らしげには見えない。

 かといって謙遜している風でもない。

 むしろ若干の後悔に安堵が入り交じったような複雑な表情であった。

 お祭りの時の子供かよってくらい食べまくってひいふう言ってたからなぁ。

 完全にプチ黒歴史化しかけていたことが思わぬところで役に立ったので、この表情なんだろう。


「おいおい、屋台の食べ物では土産にならんだろう」


 呆れた様子でハマーが口を挟んでくる。


「持ち帰る間に傷んでしまうぞ」


 亜空間倉庫の特性を知らないんじゃ当然の言い分だな。


「その辺は魔法で解決できるから問題ない」


「……そうかい」


 微妙な間の後に返事をしたハマーが疲れた表情をのぞかせている。

 まあ、なんだ。頑張って慣れてほしい。


「で、それって旨いのか?」


 ハマーが引き下がったのでボルトに肝心なところを聞いて確かめる。


「どちらも酒のつまみにちょうどいいかと」


「ダンジョン焼きは濃いめの味付けで食感がプリッとしてます」


「なるほど」


「ダンジョン棒は棒状の肉なんですが不思議なんです」


「何が不思議なんだ?」


「串に突き刺して食べやすくしているんですけど、あんな形のは初めて見ました」


 シュラスコみたいなものかな。


「食べると不思議な食感がするんですよね」


 どうやら違うっぽい。

 軟骨か何かか?

 正体不明すぎて某カップ麺の謎の肉を連想してしまったさ。


「でも、お酒がほしくなるのは間違いないです」


 その割にボルトは自信満々である。


「ふむ、試食してみるか」


 上手くすればガンフォールへの土産にもなりそうだしな。


「お、おい、本当に持って帰って大丈夫なんだろうな?」


 魔法で解決すると言っているのにハマーは心配性だ。

 スカウトできる状況なら制限している情報も多少は解禁しようと思うから解決できそうなんだけど。

 ガンフォールに許可してもらえないか聞くだけ聞いてみるか。


「問題ない。どれだけ時間がたっても、できたてホヤホヤのままだぞ」


「なにぃっ?」


 ギョッとした顔で俺を見てくるが、一瞬で真顔に戻った。


「そうだ、ハルトだったな」


 その納得の仕方は微妙に傷つくんだが。

 まあ、いい。慣れてきた証拠だと思うことにしよう。


「じゃあ昼飯を兼ねた試食会ってことで屋台へ行こうか」


 俺の提案はすんなりと了承された。


「一番の目的はボルトのオススメだが他にも好きなのを食べてお勧めを探してほしい」


 そう言ってから必要経費として全員にお金を持たせた上で街中へ繰り出すことになった。

 レイナやアニスはタダ飯だとホクホク顔で浮かれている。

 逆にハマーやボルトは本当にお金を受け取って良いものなのかと遠慮がちだった。


「市場調査を兼ねているから半分は仕事だぞ」


 そう言うと納得して気合いを入れていた。

 ものは言い様とは言うけれどチョロすぎないか?

 反発されるよりは楽だし頑張ってくれるのは有り難いので不服などあろうはずがないけどさ。


「こちらの通りです」


 張り切っているボルトの案内で目的の屋台が出店している通りに来た。

 昼時だけあって思った以上に賑やかである。


 行列のできる店もあれば回転のいい店もあって概ね繁盛しているようだ。

 こういうのは競争が激しいので安くても味が悪ければ長続きはしない。

 で、俺は暇そうな店の前に立った。

 ボルトの言うダンジョン焼きとダンジョン棒の店だ。


「らっしゃい」


 店主は20年前なら美少女だったかもなと思わせる恰幅のいいおばさんだった。

 別の言い方をするなら肝っ玉母ちゃんかな。


「あんたも物好きだね。不人気のうちに来るなんて」


 商売する気あんのかってくらい投げやりな物言いだ。

 諦観みたいなものも感じる。


「客商売は初めてかい」


「ああ、御覧の通りさ」


 商売の経験がない素人が頑張って出店してみたけど惨敗したってところか。

 確かに愛想がないし客を呼び寄せるという発想すらない。

 少なくとも自ら客商売をしたことがないのは確定だ。

 本人には聞く気はないけど元々は料理人とかで独立したばかりなのかもね。


「とりあえず焼きと棒の両方貰おうか」


 先に代金を払う。


「あいよぉ」


 そこから焼き始めたものだから、それなりに時間がかかった。

 屋台などでは効率が悪いことを理解していない証拠だ。


「客がいなくても焼いてみるといい。匂いがすれば客が集まってくる」


 変な客だと思ったらしく俺の言葉に怪訝な顔をされた。

 金を先に払ったので文句は言われなかったが。


 それでも旨そうな匂いがし始めると俺の後ろに人が並び始めた。

 まあ、顔見知りばかりだが。


「焼いてる間に次の注文を取ると、次の用意もできて楽だぞ」


 オバちゃんは一瞬ムスッとした表情になったけど俺の言う通りにした。

 愛想はないけど素直だよな。


読んでくれてありがとう。

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