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113 行こう!

改訂版です。

 ノエルの決意を痛々しく感じてしまった俺は天井を見上げた。

 覚悟を決めるのに年齢は関係ないとはいえ環境がノエルを大人にさせてしまったのは間違いない。

 こちらの世界じゃさほど珍しくもないかもしれないがね。

 似たような境遇の子供はごまんといるだろう。


 それらすべてに手を差し伸べることなど出来るわけがない。

 必ず何処かで破綻する。

 が、すべてを無視するつもりもなかった。

 たとえ偽善と罵られようが構わない。


 ノエルとは縁がある。そして本人に覚悟もある。

 ならば、その願いを叶えたい。


 ただ、月狼の友のことは無視できない。

 どうもミズホに来たくないみたいだし。

 だからといってノエルと引き離すのは可哀相だ。

 姉代わりを自負しているからこそ引き止めようとしたんだろうし。

 まあ、きっぱり断られて涙目になってたけど。


 月狼の友からすれば一緒にミズホ国へ連れて行くのは、あり得ない話だろう。

 でなきゃノエルを説得しようとはしなかったはず。

 あれこれと解決策を探し求めるが、そう都合の良い答えなどありはしない。


 お手上げ状態に頭を悩ませていると……


「それじゃあー、私も賢者さんの国に行きますー」


 実にシンプルな答えを出してくるウサ耳ダニエラ嬢。

 ニコニコしながら普通にサラッと言ってくれましたよ。

 思わず「へ?」とか間抜けな声を出してしまうところだったさ。


「ななな何を言ってるのかなぁ?」


 正気を疑っているのかレイナがダニエラの眼前で左右に手を振った。


「そんなことしなくてもー、正常ですよー」


 緊張感のない抗議をされると逆に不安になるけどな。


「いや、だって、お前……」


 レイナもその点では同じ心境のようだ。


「ノエルちゃんに会えなくなるよりマシですよー」


 一理ある。


「賢者さんの国は危険な魔物は少ないって聞いたじゃないー」


「それは、そうだけどよぉ……」


 あ、半信半疑なんだな、コイツ。

 必至になってノエルを説得しようとする訳だ。


「賢者さんいい人だしー」


 それはどうなんだろう?

 ワガママだから自分の都合で行動して周囲を振り回している自覚はあるぞ。

 改めるつもりはないけど。

 ……なんか自分のダメさ加減をアピールしているようで地味にダメージが入ってくるな。


「えー、そうかー?」


 ちょっとレイナくん、言いたいことがあるなら2人きりで聞こうか、ん?

 そういう視線は送ったが、生憎と向こうが背中を向けているので効果なしだった。

 こっちを向いている双子ちゃんたちは冷や汗垂らしていたけどね。


「それに私たち行くとこないじゃないのー」


 その言葉に月狼の友が項垂れた。

 ダニエラ自身も含めて……

 だったら言わなきゃいいのにと思ったが、沈むだけ沈んだら後は浮かぶだけという発想もある。


「みんな! 行こう!」


 真っ先に浮かんできたのはリーシャであった。


「ノエルがいなきゃ何処に行っても同じだ。だったらノエルのいる所に行こうじゃない!」


 決意に満ちた表情で力強く語っている。

 発言内容は妹離れできない情けないものだったけど。

 まあ、ポジティブに考えればそれだけ家族思いってことになるよな。

 なにより自分だけでなく仲間を鼓舞しているじゃないか。

 他のメンバーたちもリーシャの言葉に背中を押されたかのように表情を変えていった。

 さすがはリーダーである。


「「うん。行こう、お姉ちゃん」」


「言われてみたらそうやね。最初からうちらに選択肢なんてあらせえへんのやし」


「……そうだね。ノエルが行くなら地獄の果てだって付き合うぜ」


 もしもし、問題発言じゃないですかい。

 確かにうちは東の果ての国だけど、地獄の果てではないんだよ。

 そもそもミズホ国民を前にして失礼だとは思わないのかね。

 まあ、でもレイナはこういう女だ。

 悪気があって言っている訳じゃないのは分かるし、いちいち目くじらなんか立てていられない。


「レイナったらダメよー」


 天然娘ダニエラさんである。


「地獄の果てだなんてー。賢者さんたちに失礼じゃないのー」


 気付いてくれるのは嬉しいんだけど、そういう気遣いを普段からしてくれると助かるんですが。


「あ……」


 自分の失言に気付いたレイナが振り返って固まっている。

 この後、レイナが土下座マシンと化した。


「ビビりすぎだ。それに怒ってないし」


 こう言って土下座をやめさせたがレイナには微妙な顔をされてしまった。

 確かに失礼だとは思ったけどさ。

 失言癖はそう簡単には直らないと思うし目くじら立てるつもりはないんだが。

 口の悪さで誤解されて損をするタイプってだけで悪い奴じゃないしな。


「それじゃあ、全員ミズホ国民になるってことでいいか」


 全員に迷いのない表情で力強く頷かれた。

 ここで夕食の時間となった。

 当然、話は中断となったのだけど食後に俺のことを話すことはできなくなった。

 眠らせていたハマーたちを起こして食べたらまた眠らせるとか不自然にも程がある。


「一大事というのに眠ってしまったではないかっ!」


 起こしたらハマーがギャーギャー言い出した。


「宿に着いたことで緊張の糸がゆるんだんだろ」


「なんたる不覚よ!」


 魔法だから無理だな。


「それで、どうなったのだ?」


 街中の混乱した喧噪が聞こえてこないことで事態の収束を悟ったハマーが状況を尋ねてきた。

 そのあたりは何故か月狼の友の面々がテンパりながら入れ替わり立ち替わりしながら斯く斯く然々と説明を始める。

 端から見ていて冷や冷やさせられたさ。

 とはいえ変に落ち着いて話すより白々しさがなくて信憑性があったらしいので何が幸いするか分からない。


「ううむ、雷がそんなに連続して落ちたのか……」


「我々はそれでも目を覚まさなかったのですね」


 ハマーが渋い顔をしてボルトはしょげていた。


「とにかく飯だ」


 そこで強引に話を打ち切った。

 でないとボロが出かねないからな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 食後は将棋をすることになった。


「将棋でも指さねばやってられん」


 ハマーがこんなことを言い出したからだ。


「何だよ、藪から棒に」


「緊急時に眠りこけるなど恥ずかしいにも程がある。何もせずにいると頭が変になりそうだ」


 原因を作り出した側でなければ「知らんがな」と言っていたことだろう。

 単なる八つ当たりというかストレス発散にしか思えないからな。

 結局、罪悪感が背中を押す格好となり付き合う羽目になった訳だ。


 打っている間にルーリアがルールを覚えて参戦するようになった。

 その前に駒を手に取ってしげしげと眺めては首を捻っていたのが印象的だったな。

 前世の記憶でも揺さぶられていたのだろうか。


 次に参戦してきたのはノエルだ。

 早い段階でルールは把握していたようだが俺たちの対局を見て独自に研究していたっぽい。

 それを証明するかのごとく、初戦でハマーを打ち破った。

 したたかな幼女である。


「もう1局っ」


 将棋のことになると恥も外聞もなくなるのかノエル相手に連戦を申し込むハマー。

 こくりと頷くことで了承され再び対局が始まる。

 そして小気味よい駒音を響かせることしばし……


「参りました。もう1局」


 素直に負けを認めるのはいいのだが、更に対局を申し込むとか大人げない。

 まあ、次の対局では自陣を丸裸にされて敗北したことで完全に戦意喪失したけれど。


「また明日」


 挨拶もそこそこにハマーが自分たちの部屋に戻っていった。

 ノエル、恐ろしい子!


 そうは言っても10才児なので夜も更ければ眠気には勝てない。

 トロンとした目と可愛らしいアクビは、やはり子供だと思わせてくれる。

 ということで話は明日以降ということになった。


 月狼の友がローブを寝具代わりにすべく準備を始める。

 室内のベッドはキングサイズのがひとつとシングルひとつだけだからな。


「ちょい待ち。その場所を空けてくれるか」


「この場所はマズかったか?」


 制止するとリーシャが手を止めて聞いてきた。


「ここにベッドを出す」


 部屋が広いからできる芸当だな。

 俺お手製のベッドを出していくとリーシャたちには微妙な表情をされてしまったけど。

 呆れているのか何かを諦めたのか見ただけでは読み取れない感じである。

 ルーリアも神妙な面持ちで考え込んでいたし、やらかしてしまったようだ。


 まあ、今更である。

 それに国民として迎える訳だから問題ない。

 むしろ慣れてもらわないとな。


「これも魔法なんだな」


 唸るようにルーリアが呟いた。


「そうだな。覚えておくと便利だぞ」


 返事があると思っていなかったのかルーリアは少し目を丸くさせていた。

 が、それもわずかな間のことで、すぐに苦笑へと転ずる。


「かさばる荷物を持たなくて済むから、か」


「そういうことだ」


 そのやりとりをする間にアニスやレイナがにじり寄っていた。


「なあなあ、それうちらでも覚えられる魔法なん?」


「さすがに無理よね」


 ラミーナは魔法適性が低いと言われているからな。

 その割に興味津々で期待感が瞳からほとばしっているかのようだ。

 この前のめりの姿勢を見ればイエスノーだけで話が終わるとも思えない。

 亜空間という概念が白紙の相手に説明するのは一筋縄ではいかないだろう。


「そういう話も明日以降な」


「「ええ~っ!」」


 2人は思わずといった感じで抗議してくるが、それで方針を変える訳にはいかない。

 俺は人差し指を口元に当ててノエルの方を見た。


「「うっ」」


 あどけない寝顔を見せているノエルの姿を目の当たりにすれば、さすがに2人の興味も抑え込まれるようだ。


 まあ、強い興味が湧くということ自体は高いモチベーションにつながるから悪いことではない。

 意外と短期間で亜空間倉庫を習得してしまうかもしれないな。


読んでくれてありがとう。

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