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109 教材の回収には危険がつきまといます

改訂版です。

「降参、降参。あの丸い玉の地図は正しい」


 根負けしたレイナが自棄クソ気味に言い放った。

 全員が納得した後もレイナはなかなか納得せず居残り授業を続けた結果だ。

 他の面々はとっくの昔に甲板の中央部に移動してお茶の時間を堪能している。

 船を何往復もさせたから仕方がない。


 そのせいかグッタリした様子で恨めしそうにこちらを見ている。

 頭では分かっていても常識を覆されるストレスで認めたくなかったんだろうな。


「お疲れ。課外授業は終了だ」


 これにて一件落着となれば良かったのだけど現実は甘くないのが世の常である。


 それは実験に使った船を手元に戻している時のことだった。


「ん?」


 引き戻す船の向こうから何かが追ってきている。

 個人的にはイルカの群れとかを希望したいところなんだが気配は単体のデカい奴だ。

 嫌な予感しかしない。


「あちゃー」


 鑑定すると、想像通りの魔物でしたよ。


「どうかしたのか」


 わざわざお茶の席を離れてきたリーシャが尋ねてくる。


「どうせ碌でもないことなんでしょ」


 レイナの言う通りだが何が起きているか見て言っている訳ではない。


「多分あれなんじゃないのか」


 ルーリアが引き戻している船の向こう側を指差して皆の視線を誘導する。

 海面近くを泳いでいるため正体は不明ながらも何かが存在することだけは分かる状態だ。


「あ、ホンマや。なんかおるで」


 アニスの言う「なんか」の正体を皆にも確認してもらうとしよう。

 引き寄せている船を理力魔法の出力方向を変更して斜め上方へ持ち上げた。

 宙に浮いて飛来する大きな船というのもシュールな光景だ。


 が、悠長なことは言っていられない。

 魔物が水面から跳ね上がって船に攻撃をしようとしてきたからだ。

 そのまま着水して潜行状態で再び泳ぎ始めたが先程までとは違い背びれが見えていた。

 やはりデカい。

 船の近くでなかったら遠近感がおかしくなっていたかもな。


「何よアレ!?」


 レイナが興奮して吠えた。

 もう少し落ち着こうねと思うが見知らぬ巨大な魔物を目にしてパニックにならないだけマシな方だ。


「海の魔物のようね」


 緊急事態には強いようでリーシャは冷静に見極めようとしている。


「ごっついなぁ。シャレにならんやんか」


 そんなことを言っている割に落ち着いているアニス。


「あんなの見たことないよ」


「魚じゃないよね」


 お互いに確認し合っているメリーとリリーの双子姉妹。


「あれはジャイアントシャークというサメの魔物だ」


 鑑定結果の一部を披露した。


「シャークなのにサメってどういうことなん?」


「熊のことをベアと言ったりするだろう」


「サメって何ですか~?」


サメは軟骨魚類の一種だが、そのまま言っても通じまい。


「大半が肉食の魚で凶暴なものが多い」


「あんなに大きな魚がいるんですね~」


 川魚しか知らなければ無理もない反応か。


「ちなみに普通のサメはあそこまで大きくはない」


「そんなこと気にしている場合じゃないだろぉ」


 レイナが涙目で割と必死な感じだ。

 大きいものが苦手なのか?


「凶暴性とか戦闘力は海竜と同程度かそれ以下だから大丈夫だ」


「竜と一緒ってどういうこどだっ!?」


 思わず苦笑しそうになるほど必死の形相で迫ってくるレイナ。


「竜じゃなくて亜竜だよ」


「どっちでも一緒だぁっ!!」


 近い近い、顔が近いって。


「分かったから離れろって」


 ドアップにも程がある。


「それともお前は俺にチューでもしたいのか?」


 からかえば赤面でもして静かになるかと考えたんだが、甘かった。


「んな訳ないだろーがっ!」


 余計に噛みつかれましたよ?

 あー、ビックリした。

 そうこうするうちにリーシャたちが羽交い締めにして引き剥がすように離してくれたからリアルに噛まれたりはしなかったけど。


「まあ、心配はいらんよ」


 俺はローズに視線を向けた。

 ピョンピョン跳びはねて一人はしゃいじゃってますよ。


「くー、くくーっ!」


 獲物、来たーっ! とか両手を広げて伸び上がりながら叫んでる。

 スイッチで変身する某変身ヒーローじゃあるまいし、何処でネタを仕入れてくるんだか。


「そんなにやりたきゃ任せるよ」


「くっくくー」


 ひゃっほー、とか言いながら踊ってる。


「首ポキは微妙だから切断していいよ」


「くぅっ!」


 気合いを込めて叫んだと思ったら船の縁に飛び乗って仁王立ち。

 そこから腕の長さほどもある刀のような鉤爪ジャキーンは初見の相手には刺激が強すぎだ。

 縫いぐるみ然とした姿で凶悪な笑みと共に披露されればホラー映画の世界である。


「「ひゃー」」


 双子が抱き合って震えてるって。

 レイナは腰を抜かして座り込んでるし。


「くうっ!」


 ローズが掛け声と共に飛び出した。

 ドボンと海の中に飛び込んでジャイアントシャーク目掛けて突進していく姿はまるで魚雷である。


 あっと言う間に接敵したかと思うと向こうの噛みつき攻撃をくぐり抜けた。

 その際「うわっ!」とか「きゃあっ!」なんて悲鳴が聞こえてきたのは御愛敬。


「大丈夫。躱したよ」


 次の瞬間には巨大鮫がドッパーンと水飛沫を上げながら真上に跳ねていた。

 いや、巨大鮫の腹側に回り込んだローズがローリングソバットで蹴り上げた結果なんだけど。

 巨大鮫は体をくの字に折り曲げて横ロールで回転しつつ海面から十数メートルは飛ばされている。

 理力魔法で姿勢を維持できるからこその芸当だ。


 ミズホ組以外の一同は唖然呆然の表情で声も無く見上げていた。

 まあ、ローズはちっこくて縫いぐるみみたいに可愛らしいからねえ。

 伊達にレベル296ではない。


「あー、背骨までいったか」


 あれだけの勢いでぶっ飛ばしたんじゃ肝油とか採取できる状態ではなさそうだ。


「ですね」


 無感動に相槌を打つハリーは毎度のことだと言わんばかりである。


「主よ、あれなら首ポキでも良かったのではないかな」


 まったくもってツバキの言う通りなので乾いた笑いしか出てこない。


「血塗れで他の魔物を引き寄せるよりは良かったんじゃないでしょうか」


「なるほど、一理ある」


 ツバキがハリーの意見に頷いていたが……


「結果は変わらんけどな」


「どういうことだ、主よ?」


 引き寄せた船を倉庫に格納しつつ北を指差した。

 大陸東部の空から殺気を振りまきながら招かれざる客の第2陣がこちらに向かってくる。


「ほう、ワイバーンか」


 ツバキが渡り鳥でも目撃したかのような気軽さで飛来する相手を告げた。

 まだ距離はあるが、視力を強化して確認したようだ。


「転送直後から見られていたんですかね」


 断言はできないがハリーの言う通りだと思う。


「視力強化に魔力つぎ込んで獲物を探していたんだろうなぁ」


「餌だと勘違いされましたか」


「いや、飢えた感じがあまりしないんだよ」


「どういうことでしょう?」


 ハリーが困惑の表情で首を捻る。


「散歩中に目敏く見つけて興味を持ったってところか」


「おもちゃ感覚ですか。迷惑な話ですね」


「まったくだ」


 ちょうどその時、ジャイアントシャークを自分の倉庫に片付けたローズが戻ってきた。

 鉤爪は既に引っ込めているな。

 理力魔法で浮き上がりフワフワ飛んで甲板に降り立つと──


「くくっくぅくっくう」


 あれもぜひ殺りたい、とか言いだした。


「ちょっと待てぇーい!」


 本日のツッコミ大賞と言えそうなレイナが俺たちの話に割り込んできた。


「なんで、こんなに物騒なのがポンポン出てくるんだ」


 月狼の友の面々が引きつった顔でコクコクと頷いている。


「なんでって、ここは大山脈より東側だからな」


「「「「「なぁんだってぇ─────っ!!」」」」」


 うるさいなぁ。

 少しはノエルとかルーリアを見習ったらどうだ。

 あ、ルーリアもちょっと顔色が悪いか。


「心配しなくてもアレを片付けたら帰るよ」


 返事がない。

 それだけ東方にいるという事実が衝撃的だったってことか。


「聞いていいだろうか」


 遠慮がちにルーリアが声を掛けてきた。


「いいよ」


「ワイバーンについて、どう思う?」


「大量の素材を運んできてくれるカモってところだ」


 肉は旨いしなぁ。

 皮や骨は軽くて丈夫だから亜竜の中でも特に人気があるらしい。

 まあ、西方で売るつもりはないけれど。


「1匹でも決死の覚悟で挑まねばならぬ相手にカモとはな」


 ルーリアが苦笑している。


「ちょっとぉ、悠長に喋ってる場合じゃないでしょうが」


 もう疲れましたという感じのレイナだが、それでも言わずにいられなかったようだ。

 さっさと逃げろとでも?

 ローズがやる気になってるのに無理じゃないかな。


読んでくれてありがとう。

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