107 さらに秘密を暴露してみた
改訂版です。
「犬妖精て、ほんまにおったんやな」
アニスは狐の尻尾をピンと立てて興奮気味である。
双子はポカーンと口を開けて固まっていた。
リーシャも口こそ閉じたままだったがフリーズ状態なので似たようなものだ。
ダニエラは何も言わないもののニコニコしていて4人のような動揺は感じられない。
一方で頭髪と尻尾の毛を逆立てているのがレイナである。
ブワッとするまで気付かなかったけど尻尾は虎縞なんだな。
髪の毛と同じ黄色だと思ってた。
じゃなくて……
「取って食ったりしないから落ち着けよ」
我を忘れて暴れられても困るので声を掛けて様子を見る。
幸いにもすぐに我に返ったので懸念したようなことにはならなかったが。
「ノエルは大丈夫か?」
少しだけど目を見開いていたからね。
簡単には表情を変えないノエルにしては大きな変化だったので、それだけ驚いたってことだろう。
「平気」
そう言った後は興味深げにハリーをしげしげと見ていた。
純粋にレアな存在に対する興味があるようだ。
対してルーリアはさして驚いた様子も見せず、さりとてダニエラのように笑顔を見せる訳でもない。
敵対するような雰囲気は感じられないが何か考えこんでいるように見受けられる。
「何か不都合なことがあるかな」
「いいや、そうじゃない」
ルーリアは頭を振りながら否定した。
「よく冒険者ギルドで登録できたものだと思っただけだ」
あー、気付いたか。
ノエルたちもルーリアの指摘にハッとした顔になった。
「種族で騒がれなかったの?」
レイナが聞いてくる。
「全員、人間種・ヒューマンとしか表示されないようにしてある」
「どうやって!?」
「魔道具でちょちょいとね」
「あー、アンタが簡単に魔道具を作れるのを忘れてたわ」
「やはり魔道具職人でもあったんだな」
聞いた当人はすぐに納得したが、ルーリアは踏み込んできた。
でもある、というのは否定しづらい認識の仕方だな。
「魔道具も作れるのは事実だが、それしかできない訳じゃない」
そう前置きしておく。
「ギルドで肯定しなかったのは、面倒に巻き込まれる恐れがあったせいだ」
無言で深々と頷くルーリアであるが目立つと鬱陶しい目にあうのは理解できると言いたいのだろう。
「ちなみに俺たち全員がレベルとか低く表示されるようにしてある」
「なあああぁぁぁぁぁぁっ!?」
大きく目を見開いて絶叫するレイナ。
音声結界を張ってなかったらどうなっていたことやら。
まあ、外の方がまだまだ騒々しいから誰にも気付かれなかったかもだけど。
「なんでなんでなんで──」
「騒ぎになるだろ。一番低いハリーでレベル78なんだから」
「ななななな78ぃっ!?」
レイナはこんな具合だが、リーシャとアニスは驚きつつも諦めの混じった納得の表情をしている。
「それでは賢者殿のレベルは3桁を超えていると?」
半ば確信しているような顔でルーリアが聞いてきた。
「俺だけじゃなくて3人がな」
「全力で挑んでも軽くあしらわれる訳だ」
自嘲気味に笑うルーリアを見て俺が4桁レベルだと知ったらとか考えてしまった。
「あのー、よろしいでしょうかー」
ウサ耳をピコピコ動かして小さく手を上げながら発言権を求めるダニエラ。
「何だい?」
「全員が、と仰いましたよねー」
「言われてみれば確かに」
ルーリアが何かに気付いたように同意する。
「だからぁ他の方も着ぐるみなのかなーって」
月狼の友の面々がギョッとした表情で俺たちを見てくる。
ノエルやルーリアはあまり驚いていないな。
「着ぐるみはあと1人だけだよ」
ダニエラ以外の月狼の友の面々が顔に勘弁してくれと書いていた。
「ちなみに何の変装もしていないのは俺だけだ」
「ちゅうことは……」
アニスがツバキとドルフィンを見比べている。
「ツバキが君らに渡したブレスレットと同じ原理で変装している」
「つまりヒューマンやないってことかいな」
「人間種ですらないのう」
淡々と語って指輪の効果をカットするツバキ。
「あ、赤い瞳!?」
「妖精種のアラックネじゃな」
今は背中が大胆に開いた和服もどきなので背中から脚も出してアピールしている。
「先に言うておくが、魔物のアラクネと一緒にするでないぞ」
相変わらず、そこは譲れない一線だな。
「あとはドルフィンだが、また驚くと思う」
「これだけ妖精種が続いて今更よね」
とはレイナだ。
「じゃあ次、ローズさん登場お願いします」
「くっくくっくー!」
パンパカパーン! とか言いながらドルフィンの首を飛ばしてローズさん登場ですよ。
「「「「「……………………………」」」」」
目玉まん丸で口が開ききった者たちばかりで受けが良いとはお世辞にも言えない。
それでもローズはサプライズ大成功とばかりに御満悦だ。
「あら~、耳がおそろいですねー」
こんな風に言ってるダニエラみたいなのもいるのでドン引きな感じが薄いせいもあるかもね。
ノエルも興味深げにローズを見ているように思えるし。
「ローズという名前らしいが、何者か?」
ルーリアも驚きはしたものの冷静さを取り戻すのが早い。
「くぅーくぅーくうくくっくうくぅくっくぅくっくー」
ローズはハルトの相棒にして夢属性の精霊獣なりー、と自己紹介で応じた。
両手を腰に当てて胸を反らし尊大さフルバーストですよ。
「まさか、神の使い……」
呆然とした面持ちで呟くように語るリーシャ。
「「お姉ちゃん、知ってるの?」」
双子がハモって聞いている。
「死んだ曾婆ちゃんが言ってた」
姉の言葉に双子はそろって首をかしげる。
「メリーやリリーが物心つく前の話だから」
それは覚えていないだろうな。
「「なんて言ってたの?」」
「精霊獣に認められた者は神の使いで大いなる災いを封じ世界に光をもたらすって」
「ああ、そういや大婆様がそんなこと言ってたよなぁ」
「大人はおとぎ話や言うて誰も信じてなかったわ」
「私もおとぎ話だと思ってましたー」
なんだか月狼の友から集まってくる視線が生暖かいんですがね?
「そういう事実はないぞ」
【諸法の理】スキルのお墨付きだ。
「俺は神の使いじゃない」
称号に[女神の息子]はあるけどな。
「賢者さんの言っていることは本当」
【看破】スキルを持つノエルからもお墨付きをもらった。
大婆様とやらから直に話を聞いたことがあるらしい4人は脱力した。
「なぁーんだー、面白そうな話になると思ったのに」
白けたと言わんばかりにそっぽを向くレイナ。
「ちゅうことは大いなる災いもないんやな」
ホッと安堵するアニス。
「それに近いようなことならあったぞ」
「「「「「なっ!?」」」」」
おとぎ話とは時系列が前後するけど、ゴブリンであふれかえったアレは大いなる災いと言えると思う。
処理するのに難儀させられたもんな。
「心配しなくても遙か東の果てでの出来事だし、既に終わらせてる」
俺の返事に事情を知らない一同は弛緩する。
「脅かさんといてぇな」
「それで、どんな災いがあったの?」
双子の姉の方、メリーが聞いてきた。
リリーも頷きながら興味深そうにしているが、ワクワクするような話でもない。
「万を超えるゴブリンが湧いただけだ」
「万やて?」
胡散臭いものを見るような視線を向けながらアニスが問うてくる。
「ああ。全部片付けたら[一騎当軍]なんて称号がついたな」
自然とノエルに視線が集まったのは仕方のないところか。
「本当」
またもノエルにお墨付きをもらった。
「マジかー」
レイナもノエルの言葉は無条件で信じるようだ。
「赤イナゴの大群も殲滅できて当たり前やったんやな」
アニスは何気に冷静な分析してるよな。
その横でリーシャは深く溜め息をついている。
「ひとつ疑問に思ったんだが」
話し掛けてきたのはルーリアだ。
「遙か東の果てとは何処の国のことだ?」
「大山脈あたりの話じゃないのぉ?」
適当な答えを疑問系で返しているのはレイナである。
「ドワーフの国でゴブリンが湧いたという噂は聞いたことがないんだが」
ルーリアはソロで旅を続けているだけあって情報に敏感になるようだ。
そこで俺は幻影魔法で惑星レーヌ儀を表示させた。
大きさはビーチボールくらいで少し透過性を持たせておく。
「これは?」
「あるものを極端に小さくしたものだ」
「あるもの?」
「こうすると分かるかもな」
そう言ってレーヌ儀に国境線を入れていく。
「ええっ!? これってリーフバルト大森林やんか……」
驚きの声を上げたのはアニスだったが、ルーリアの表情もギョッとしたものになっている。
この2人は地図を見たことがあるみたいだな。
「知らん所も仰山あるけど、この丸いの地図ちゃうの?」
「地図なんだろうな」
アニスの疑問に答えたのはルーリアだった。
「せやかて地面って平坦なもんやろ」
「極端に大きくすれば球体とは思えぬほど平坦に近くなるんじゃないか」
ルーリアは自分たちが球体の上で生きていることを理解したようだ。
さして驚きもせず受け入れるとか、なんか凄くねえ?
「えっ、うちら球の上に乗ってるちゅうことなん?」
アニスは驚きつつも否定しきれない様子である。
「そんなバカな話ある訳ないでしょ」
完全否定派としてレイナが真っ先に名乗りを上げたようだ。
他は半信半疑が多いかな。
ノエルだけは何の疑いも抱いていないようだけど。
「そうか? なら、ちょいとばかり課外授業に行きますか」
読んでくれてありがとう。




