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104 仮面の賢者ふたたび?

改訂版です。

 宿屋に到着した時、従業員たちが大慌てて戸締まりをしていた。

 危うく締め出しをくらうところだった。

 数十キロ先の赤イナゴがブリーズの街に飛来するまで猶予はそれなりにあったのだが。


 人間、恐怖心に支配されると冷静な行動は難しくなるので無理からぬところか。

 それにパニックに陥った住民がなだれ込んでくる恐れもあった訳で間違った対応とは言えない。

 収容できる限界を超えて人が押し寄せれば戸締まりどころではなくなってしまう。


 どうもパニックに陥っている者たちは自宅より頑丈な建物に逃げようとしている。

 赤イナゴはよほどボロい木造家屋でもなければ破壊も侵入もできないはず。

 魔物といっても攻撃力は虫をスケールアップさせたよりも弱いみたいなんだが。

 普通の家屋であれば戸締まりしていれば充分なのだ。


 致死性のある毒持ちということで恐怖が増幅された結果かもな。

 が、即死するほど強烈な毒ではない。

 すぐに水で洗い流せば死んだりはしないのだ。

 毒消しの薬を使わなければ苦しむ期間が長引きはするけど。


 日頃から正しい知識と情報を身につけておくことの大切を思い知った気がする。

 なんにせよ宿に入れたことで皆の安全は確保できた。

 もちろんノエルのお姫様抱っこは終了である。

 決して名残惜しくはない。


「ふうーっ、やれやれだ」


 ようやく床に足が着いたハマーが自由を得ての第一声である。

 そういやボルトは顔色が悪かったんだっけ。


「大丈夫か、2人とも」


「ああ、目を回すほど速くはなかったからな」


「自分も何とか大丈夫です」


 ハマーはともかくボルトはフラフラして危なっかしいんだが。

 しょうがないので密かに魔法で徐々に回復するようにしておいた。

 街中の状態からすると何が起きるか分からんからな。


 他の面々は大丈夫なのを確認して俺は責任者に会いに行った。

 アーキンは不在なので支配人だな。

 ルーリアやノエルたちを俺の連れということで了承してもらうためだ。


「女性7名、お子様1名でございますね」


 確認のためとはいえ面と向かって言われると女たらしと言われているように聞こえてしまう。

 もちろん俺の被害妄想なんだけど。


「昨日の部屋以外は満室となっておりますが」


「こんな時だ。相部屋で構わない」


 やたらと広い部屋で良かったと思う時が来るとは思わなかった。

 ただ、女たらしの烙印を押されるんじゃないかと思いはした。


 緊急事態なので案内は断り皆と最上階の部屋へと向かう。

 最上階で昨日の部屋割り通りに別れた。

 追加の面子は俺たちミズホ組の方に案内した。

 一息ついたところで……


「さて、ちょっと出かけてくる」


 ツバキに声を掛けた。

 留守を任せることになるからなんだがツバキが返事をするよりも前に反応した者がいた。


「無茶だ。他の宿泊客にも迷惑がかかるぞ」


 ルーリアである。

 何も知らない彼女が常識的な反応をするのは当然だよなぁ。

 対する月狼の友はというと呆れたような諦めたような微妙な感じだった。

 俺がイナゴ退治に向かうつもりなのがバレバレだ。

 故にノエルなどは……


「心配いらない」


 平然と無表情で言ってのけた。


「な、に……?」


 だが、ルーリアは驚愕の表情を浮かべて困惑している。


「賢者さんはアナタが思っている以上に凄い人」


 月狼の友の面々が同意するようにうんうんと頷く。


「ノエルの言う通りだ。その点に関しては我々が保証しよう」


 何故か遠い目をしながら言うリーシャである。


「信じらんないだろうけど、ホントの話さ」


 諦観を感じさせる目をしたレイナが肩をすくめながら言った。


「賢者はんが本気になったら怖いもんなしや」


 アニス、お前もか。


「「凄まじいんだよぉ」」


 双子たちも、とは……


「もう化け物と言っても過言じゃないんですよ~」


 ダニエラさんよぉ。

 本人を目の前にしてストレート過ぎんだろうが。

 何というかベリルママ以上の天然キャラかもしれない。

 面と向かって堂々と言われた上に言った後はニコニコしてて無自覚だし。


「あら~、どうしたんですかぁ?」


 やっぱり分かってらっしゃらないようですよ。

 他のパーティメンバーは額を抑えている。

 そうですか。毎度のことですか。


「ダニエラは言葉を選ぶべき。賢者さんは地味に傷ついてる」


 ノエルさん、マジ天使。

 ボロボロになった俺のハートを癒やしてくれる。


「そうだったんですか~、ごめんなさいねぇ~」


 ダニエラさん、マジ天然。

 グダグダになって俺の全身を脱力させてしまう。


「いや、大丈夫」


 ルーリアの困惑ぶりを思えば大したことではない。

 具体的な説明もなしに心配ないとか凄いとか言われて信じられる方がどうかしている。


「月狼の友がこう言うのは相応のものを見せているからなんだよ」


「相応のものとは?」


「主に魔法かな。ツバキの使った魔法が子供騙しに思えるような」


「な……」


 あー、困惑から一転して固まってしまいましたよ。

 すぐに再起動はしたけど。


「アレが子供騙しとか、にわかには信じられないのだが」


 知らなきゃ、もっともな話だと俺も思う。

 ここは論より証拠だ。


「ハリー、幻影魔法で現在の赤イナゴの接近状況を」


「了解しました」


「ああ、遠景でな。ズームは結構キモいから」


「はい」


 返事をしたハリーが白い壁面をスクリーンに見立てて映像を瞬時に映し出す。


「これは……」


 迫り来るイナゴの群れは赤い積乱雲のごとき様相を呈していた。

 ルーリアは瞠目しまたしても固まってしまう。

 今回は月狼の友の面々もだけど。

 それでも前に俺が派手にやらかしたのを見ていただけあって復帰するのは早かった。


「「「「「………………」」」」」


 何故か呆れたような目を俺に向けてきたけどね。

 無詠唱なのも映し出すまでの時間がほぼ一瞬だったのも俺じゃないですよ?

 ハリーに教えたのは確かに俺だけど、そんなの君ら知らんだろうに。


 もういいや。

 とっとと蝗害を無害にチェンジしに行くとしよう。


 亜空間倉庫から久々に変身バックルを取り出す。

 東洋龍の頭部をあしらった銀色に輝く箱状のアレだ。

 左手で下腹部にセット。

 龍の首から幅広の銀鱗に覆われたベルトが素早く俺の腰を一周する。

 赤い瞳を輝かせた龍が顎を開き──


「スタンバイ」


 と合成音で装着完了を知らせてきた。

 その音声で我に返ったルーリアが振り向く。


「な、なにを?」


 困惑で満たされたその問いには答えない。

 見た方が早いからな。


 右手に赤色の水晶球を握りしめ、左の掌を龍の頭の上にそわせるように置く。

 そして水晶球を龍の口に押し込んだ。

 そのまま右手は肩口へと持っていく。

 と同時に左手で竜の顎を上から押さえ込んで閉じた。


「変身!」


 掛け声に合わせて両手を腰の高さへ開くように振るう。

 自分なりに頑張って考えた変身ポーズだ。

 格好良く仕上がったかは知らん。

 とにかく俺の体は赤い光に包まれた。


「まぶしっ」


「うわっ」


「きゃっ」


 一応は気を遣って光量を抑えたつもりだったが、いまひとつ効果が薄かったようだ。

 完全に窓を閉じた室内で元が暗すぎたからな。


「あっ」


 回復したルーリアが驚きの声を上げた。

 俺が全身を赤に染めた輝く仮面の戦士へと姿を変えていたからだ。


「仮面ワイザー・フレイム、ここに見参」


「前と色が違う」


 とはノエルさん。

 実はデザインも炎をモチーフとした感じで少し違うんだよ。


「前のは万能型で今日のは炎に特化してるという設定だからな」


「設定?」


「ぶっちゃけ変装用で色とデザインしか変わらない」


 ズデッと転ぶ月狼の友の面々。


 ウサ耳ダニエラだけが──


「あらあら~」


 とか言ってニコニコしていた。

 それなんてコント?


「大袈裟なのよ、大仰なのよ、なんだってのよ!」


 食って掛かってくる猫耳レイナだが何が言いたいのか、よく分からん。


「「まあまあ」」


 垂れ耳双子組がなだめると表情は仏頂面のままではあったが静かになった。


「変装用にしては派手よね」


 ツッコミを入れてきたのは狼耳のリーシャだ。


「気にするな。趣味の問題だ」


「趣味って……」


 元ネタを知らないせいで戸惑いの色を隠せないようだな。

 詳しく説明するとなると今以上に秘密を喋る必要が出てくる。

 国民として勧誘後でないと難しいラインだが、旅の途中である彼女らを勧誘すべきではないだろう。


「変装用や言うてるけど魔法を増幅したりする効果もないんかいな」


 今度は狐耳アニスが聞いてきた。


「増幅効果じゃないが付与はしてあるぞ」


「ほな、何やの?」


「肉体的にも魔法的にも10倍の負荷がかかるようになってる」


「「「「「なにぃ─────っ!!」」」」」


 5人でハモるように絶叫されましたよ。

 遮音結界を部屋にかけてなかったら階下にまで聞こえてたんじゃないかな。


「なんで、そないなことするんや」


「やり過ぎ防止かな」


 それくらいの負荷をかけても引っかかりを感じる程度だけど。


「つまりウチらに使った結界の魔法は10分の1になってたいうんかいな」


「まあね」


 月狼の友全員に唖然とされてしまった。

 ノエルは無反応なのでよく分からん。


「では、行ってくる」


 返事を待たずに俺は転送魔法を使った。


読んでくれてありがとう。

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