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101 助っ人参上、プラス1

改訂版です。

「多対2だって? バカな提案をしたものだ」


 俺の言葉を受けてゴードンの顔色が一気に悪くなった。


「残りの2人はそんなに強いのか?」


 恐る恐るといった感じで聞いてくる。

 おそらくハリーと同等程度で想定していたのだろう。

 ハリーだって本気ではなかったんだがな。


「相手次第ではトラウマ抱え込みかねないとだけは言っておく」


 ゴードンは冷や汗だか脂汗だかを流しながら表情を引きつらせている。


「まあ、それなりに手加減はするさ」


 ツバキとドルフィンを見ると頷いている。


「そうしてくれると助かる」


 全然、助かっているような表情には見えないけどな。

 図体の割に心配性なジジイである。


「来たか」


 人が近づいてくる気配がした。

 先頭は受付のお姉さんだな。

 対戦相手だけでなく食堂に居た連中も引き連れているようだ。


 じきに訓練場へと続くドアが開け放たれた。

 お姉さんに続いて現れたのはフードを目深に被ったローブ姿の6人組。

 迷いのない歩みでこちらに向かってくるが、この気配には覚えがある。


「おやおや、誰かと思えば」


 俺の目の前まで来た6人がフードを下ろすと見知った顔があらわになった。

 まさか、ここでリーシャたち月狼の友の面々と再会することになろうとはね。


「お、おいっ、ラミーナだぞ」


「犬に狐に猫にウサギ」


「この辺じゃ珍しいよな」


「しかも全員、女じゃねえか」


「美人パーティだ」


 後ろから野次馬たちの声が聞こえてくる。

 差別している雰囲気はないから、どうでもいいけど。


「どうしてここに?」


「そっちこそ、賢者ヒガ」


 俺の真正面で返事したのは灰髪で狼耳のリーシャだった。

 彼女の双子の妹メリーとリリーが後ろで頷いている。


「こっちが聞きたいわね」


 リーシャの隣に並ぶ猫耳のレイナは呆れたような表情をしているし。


「せやせや、こんな所で再会とかできすぎやで」


 狐耳のアニスは興奮気味にツッコミを入れてくる。


「あらら~?」


 ウサギ耳のダニエラは首を傾げながらも他の面子より落ち着いている。

 反応がワンテンポ遅れているだけかもしれないが。


「知り合いみたいだぞ」


「アイツらも強いのかな」


 野次馬たちは興味津々で月狼の友のことを話している。

 リーシャたちの耳には届いているはずなんだが、ガン無視だ。

 そんなことより俺が何故ここにいるのかの方が気になるみたいだな。


「ドワーフの知己を得たんで紹介してもらって商人ギルドと冒険者ギルドへ登録しにきた」


「前に会ったときは商人じゃないって言ってなかった?」


 何かを危惧するようにレイナが聞いてきた。

 俺が商売を始めると取引所や市場界隈が無茶苦茶になるとでも言うのか。

 ……まあ、派手にやらかせば荒れるかもな。

 色々見せた上にマルチブレスレットまで渡しているから心配するのも無理はない。


「副業みたいなもんだ」


「アンタの場合、副業でもシャレにならないんだけど?」


「せやで。商人のお兄さんたちも預かった毛皮が上物すぎて売れんで難儀しとったんや」


 それはスマンとしか言い様がない。


「で、そのボーン兄弟は?」


「商人ギルドで毛皮のこととか含めて色々とやるそうやで」


 ここで毛皮を売るのか。

 出所が俺と知られると面倒くさいことになりかねないかもな。

 最悪、シャーリーたちに口止めを頼むしかないか。


 などと考えていると不意に上着の裾を掴まれた。

 視線を下に向ければ桃髪ツインテールさんですよ。


「よっ、久しぶりだな」


 コクリと頷いたノエルは──


「賢者さん、久しぶり」


 知らない人間がいるからかボソボソと抑揚のない声で返してきた。

 俺を見上げる表情は相も変わらず喜怒哀楽が読み取りにくい。

 ポンポンと軽く頭を撫でるとわずかに目を細めるので機嫌は悪くなさそうだ。


 それを微笑ましげに見ている月狼の友の一同。

 対してゴードンは意外なものを見たと言いたげな顔をしている。

 ノエルの何を知っているのかと抗議したいね、まったく。


「ここのギルド長の依頼を受けたんだって?」


 リーシャに視線を戻して尋ねてみると頷かれた。


「全員で1人と模擬戦をしてほしいと依頼された時は舐められていると思ったがな」


 そう言うとリーシャは苦笑した。


「賢者殿とやり合うんじゃ当然どころか我々では力不足だ」


「相手をするのは俺の連れだぞ」


「そうなのか?」


「ツバキとドルフィンだ」


 ついでと言っては何だが他の面子も紹介していく。

 半ばうちのメンバー扱いしているルーリアも含めてね。

 淡々とした感じで特に何事もなく終わるかと思ったのだがボルトだけ妙に緊張していた。

 意外とウブなところがあるものだ。


「そろそろ始めたいんだが構わんか?」


 積もる話は後でもできるとばかりにゴードンが声を掛けてきた。


「ああ、やろう」


 リーシャたちは話に興じていても浮ついたところはなく即座に応じる。

 特に気負うこともなく木剣を選んで訓練場の中央に向かった。


 ツバキやドルフィンも木剣を選択し対峙する。

 それを見てボルトが意外そうな顔をしていた。


「ボルトよ、あの2人が剣を選択したのが意外か」


 ハマーが目敏く気付いて問いかける。


「槍とか長柄の得物を使うと思ったものですから」


 ソードホッグの時のことが脳裏に焼き付いているらしい。


「真の強者は得物を選ばんのだ」


「はい」


 ボルトはハマーの言葉を神妙な表情で聞き入っていた。


「いよいよか」


 緊張感が高まっていくのが分かるのかノエルは俺にピッタリくっついたままだ。

 表面上は平気そうに見えるものの内心は不安でいっぱいなのだろう。


「模擬戦だから大丈夫」


「ん」


 こくんと頷くが、それでも不安は拭いきれない様子だ。

 試合が始まったらハラハラしっぱなしになるかもな。


 ゴードンが昼前とは打って変わって神経質なくらいに注意点を説明している。

 ピリピリして慎重になっているのは明らかだが試合をする本人たちにそういった雰囲気はない。

 リーシャたちは警戒を強めているが場数を踏んでいるだけあって浮き足立ってはいない。


「では始めるぞ」


 ゴードンの声掛けに対戦者同士ではなく周囲が過敏に反応する。


「賢者の仲間の勝ちで決まりだろ」


「あっちの姉さんは魔法剣士らしいしな」


「けど、模擬戦で魔法は使えないだろ」


「だったらラミーナのお姉ちゃんたちの方が有利なんじゃないか?」


「ラミーナはスピードがあって連携が上手いらしいからな」


「そりゃ面白くなりそうだ」


「賭けるか?」


「やめとく。さっき大損した」


 それは御愁傷様。

 昼前より目の肥えた冒険者たちが集まっているせいか周囲に浮ついた雰囲気はない。


「始めっ!」


 見学者たちに気を取られている間に試合は始まり月狼の友は即座に散開した。

 かく乱するようにフットワークを使っている。

 ミズホ組を分断し各個撃破に持ち込むつもりのようだ。


 対してミズホ組は大きな動きを見せない。

 リーシャたちが簡単には間合いに踏み込んでこないからというのもあるだろう。

 一瞬だけ間合いに入っては攻撃するように見せかけて離脱を繰り返している。

 焦らして隙を作ろうってことか。

 誰かが言っていたようにスピードと連携でミズホ組に対抗するつもりらしい。


「うおっ」


「今のは冷やっとしたな」


「打ち込んでたら当たってたろ」


「2人組の方も反応していたぞ」


「反応してたか?」


「分からん」


「してたと言えばしてたかもな」


 見学している冒険者たちの方が翻弄されている有様だ。

 まだまだ序の口なんですがね。


 状況が動いたのはリーシャたちのフェイントに冒険者たちが慣れてきた頃合いであった。

 それまで何度か見せていた双子たちの入れ替わり。

 今回も2人が接近するまでは同じ動きであったのだが……


「「「「「消えたっ!?」」」」」


 いや、滑り込むようにしゃがんだだけだ。

 ズザザッとスライディングさせた互いの足がぶつかった。

 正確に言うならば薄い緑髪の姉の方メリーが足裏で受けて互いに蹴り出した格好だ。

 バックダッシュしていた水色の髪の妹の方リリーが反転と同時に急加速する。

 まるでピンボールだ。


「うおぉっ!」


「速えっ」


「人間業かよ!?」


 2人分の蹴り足による加速は見学者たちを更に驚愕させる。

 だが、リリーはドルフィンの視線を引きつけるように脇を抜けていった。


 今まで以上のスピードを囮のために使うか。

 ドルフィンだけでなくツバキの目線までもが動いた。

 双子の目論見は狙い以上に上手くいった訳だ。


 それを見逃す月狼の友ではない。

 短い焦げ茶髪のダニエラがツバキに向かって飛び込んでいく。

 黄色短髪のレイナがそれに続いていた。


「しっ!」


 低い姿勢でツバキの足元に突きを入れるダニエラ。

 その背後から現れたレイナがダニエラの肩を踏み台にして跳躍。

 伸身の捻りを加えた宙返りでツバキの頭上を飛び越える。


「せいっ!」


 木剣を突き出して攻撃することも忘れない。

 実剣ならば抉るようなダメージを与えていただろう。

 ただし、その攻撃が当たればの話だ。


 ツバキは手にした木剣を振るうこともせず、ゆらりと体を動かし半身になった。

 レイナの攻撃は空振りに終わる。

 残るはダニエラの突きだ。

 対処しなければ足に相応のダメージを負うことになるはずだった。

 が、しかし……


「くっ」


 ダニエラは慌てた様子で横っ飛びしながら斜め方向へと逃げた。

 普段のおっとりした雰囲気が微塵も感じられないほど余裕のない回避行動だ。

 ツバキは大きく動いてはいなかったが威圧だけで攻撃を放っていた。

 ダニエラが見えない攻撃に気付かなかったら本当に攻撃が繰り出されていただろう。


 同時に背後に回ったレイナに対しても威圧の連撃が襲いかかる。

 着地したレイナは転がるように飛び退いて距離を取った。


 簡単に終わってくれるなという警告が通じたようで何より。


「なんだよ、あれ……」


「ほとんど曲芸じゃんか」


「けど、アレをされたらヤバいぞ」


 これが月狼の友の本当の実力だ。

 熊男に襲われていた時はボーン兄弟やノエルを守るため防戦一方だったからな。

 今回はそういう縛りがないから縦横無尽に動けるという訳だ。

 素早い上に立体的な機動は初見でなくても対応が難しい。


「だな。魔法剣士の姉さんがさばいたのが信じられん」


「どうやったんだ?」


「分かんねえよ」


「分かるのは、どっちも化け物だってことだけだ」


 お陰で冒険者たちは今の攻防に冷や水を浴びせられたようになっている。

 しかし、そこで一息つけるような状態に落ち着いたりはしなかった。


「甘いっ!」


 ツバキが背後を振り返っている隙をついて灰髪のリーシャが攻撃を仕掛けてきたのだ。

 難なく躱してツバキは威圧の一撃をリーシャに見舞う。


「くっ」


 ギリギリで見えない攻撃を躱すリーシャが離脱していく。

 どちらが甘かったのかな。

 しかしながら冒険者たちの月狼の友に対する評価は高いままだ。


「次から次へと油断も隙もねえな」


「しかも死角を利用してやがる」


「あんなの俺らじゃ真似できねえぞ」


 ヒット&アウェイを巧みに使いこなし次々と入れ替わりで攻撃してくる。

 様子見から本腰を入れ始めた証拠である。


 ふと、黒いオッサン3人組が連続攻撃を仕掛けるアニメのワンシーンを思い出した。

 月狼の友は美少女パーティだから似ていると評するのは抵抗があるけど。


 とにかく攻撃パターンが多彩で読みにくく臨機応変に対応している。

 強引に反撃しようとすれば逆にやられかねない。


 さて、ツバキたちはどうする?


読んでくれてありがとう。

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