1-68 細かく
細かく見てないものは……なんだろ。〈異世界消却〉の技能要素の中身か。完全非表示を解除して、と。
「……あー、やっぱりか。これも……これもか。あ、これもだ」
〈異世界消却〉の技能要素を詳しく見ていくと、特定の何かを消却するものは、技能点の消費が必要になる、ということが分かってきた。
まだ全部、確認はできていないけど、多分、そういうことなんだと思う。
「……お稲荷さん食べよう」
最後の一個。
「ごちそうさまでした」
おいしかった。トーチライトさんに、改めてお礼を言わないといけないな。
さて、と。
「お皿、洗おうかな。あ、今、何時だろ……おぅ、もう、十一時過ぎてるのか」
夕ご飯食べに出たのが午後五時で、帰って来て、お風呂入って、お稲荷さん食べつつ、あれこれ確認して……うーむ。
「うん。今日はここまでにしておこう」
今すぐにでも、私は自分の消したいものをこの世界から消すことができる、ということが分かった。
じゃあ、その力を使いたいのか、というと。
「絶対、嫌だ」
〈異世界消却〉を完全非表示にして、再びパスワードを設定した。
「装備鑑定はどうだろう」
身に着けられるものであれば、私は何でも鑑定できる。銀のペンダントの中に入る大きさのものであれば、装備するものでなくても鑑定できる。
「じゃあ、この力を使って、私はどうしたいのか」
鑑定をするお店を開くとか、そういう夢みたいなことは思い浮かぶけれど、それが現実的なことなのかどうか、判断するだけの情報を、今の私は持っていない。
うん、保留。
「あと、考えておくべきことは……」
〈ステータス画面〉の、未確認のプラグインがたくさん残ってるんだった。
「スクリプトプラグイン、というのもあったな」
〈ステータス画面〉関連の、作業の自動化をするための、プログラムがどうのこうの、みたいなやつだったっけ。
あー、技能要素の方の確認もまだだ。
「明日。明日にする」
自分の力に対して無責任なのは駄目だけど、一日にできることには限界がある。無理しても、いいことは絶対、ない。
「はい、お皿洗いおしまい」
陶器製のタンクが二つ、台所には並んでいて、片方からは冷水が、もう片方からは温水が出てくる。すごく便利だと思うし、なんだろう、現代日本から剣と魔法の世界にやってきた転生者にとって、とても都合が良い仕組みだとも思う。
でも、こうやって便利なものを作るまでには、それなりの時間がかかったのだろうとも思うし、それは、私がこちらの世界に来るよりも前の転生者の先輩たちが、この世界の先住者の人たちからの信頼を得て、一緒になって頑張ってきた、その成果なのだとも思う。
「……なんか、思ってばっかりだけど」
とにかく、私の力で、その成果を、無為にすることだけは避けたい。
消したいものを自由に消せる転生者がいる、ということが世界に知れ渡ったら、転生者に対する先住者の人たちの信頼が、崩れてしまうかも知れない。
「うん。決めた」
私は、〈異世界消却〉を使わない。使わないまま、この世界とのお別れの時が来るまで、普通に生きる。
「寿命で死ぬのが理想なんだろうけど、魔物とか、命に関わる危険も色々とありそうだし」
その危険を回避する手段として、〈異世界消却〉を使うこともできるとは思うけど。
でも、使わない。
それが、私の、戦いだ。




