1-61 湯船
湯船に入ったら胸が浮いた、という出来事に若干の衝撃を受けたまま、私はお風呂から部屋に戻った。
着ているのは、キャミなんとかの丈が足元近くまで届いている、長いやつ。手触りがタオルというか、パジャマっぽいと思ったので、これを着てはみたけれど。
「さて。どうしよう」
ジャブラジャーラを寝る時はするのかどうか。
「うーむ」
外した時の解放感が、なんかすごかった。それはつまり、それだけ、装備中は胸に負担がかかってもいるということだろう。
「眼鏡」
目に当ててみた。
「……現実逃避はこれぐらいにしておくか」
ジャブラジャーラをそれらしく畳んでベッドの上に置いた。
フローリングの床の上には、とりあえず箱から出した支給品が、扇状に並べて置いてある。部屋の隅に積んであった座布団を一枚、お借りしてその上に座り、支給品を、服関連、下着関連、日用品関連といった具合に、品目一覧を見ながら大雑把に分類していく。
「だいたい、何があるのかは分かった」
歯磨きセットはあとで使うから、ベッドの上に確保して。転生者の衣を入れてくれたのは、スプリングフィールドさんかな。
「あ、稲荷寿司」
靴箱の上に置いたままだった。
「今日中に食べた方がいいのかなー」
お皿の類は、台所の下のところにある引き出しの中にあった。テーブル的なものとかはさすがにない。
「この箱をテーブルに見立てますかね」
引っくり返して三つ並べて、テーブルクロス替わりに転生者の衣を敷けば、んむ、それらしくなった。
「うわ……高級感あふれる感じだなー、これ」
竹っぽい葉っぱに見える、包み紙的なものを開いていく。上品な酢飯の香りが漂ってきた。一つひとつは小ぶりで、それが五つ。
「一口サイズ?」
これ、おいくらするんだろう。ものの値段の基準が、いまだに掴めていない。
ともあれ。
「いただきます」
ちゃんとお箸で。歯を磨く前に気づいて良かった。
「……おいしいな、これ」
酢飯は、ぎっしりではなく余裕が持たせてあって、ぱらぱらとした感じ。油揚げの味付けは上品で、甘辛いけど、濃くはない。
白ごまの風味と、むー、あ、椎茸を甘く煮たやつが刻んで入れてあるのか。鼻から抜けていくほんのりとした醤油の香りもいい。
「ちょうど、小腹が空いてきたところだったし」
日本茶欲しくなるな、これ。




