1-60 ぬむむむむ
ぬむむむむ。
やー、まぁ、そうですけど。
「でも、せっかく、お時間をお二人に割いて頂いてますので」
「そういう気は遣わなくてもいいんだよ」
ですが。
「もう、ここまでにしておきましょう。朝はゆっくり、寝ていていいですからね」
ふぁい。
「食堂は八時前には開いてる。十時までに食ってなかったら、食ってから手続きに入ればいい」
ほぅあい。
「あとは明日だ、明日。風呂入って寝ろ」
了解です。
「よし」
「私たちは、そろそろ戻るわね。大丈夫? 何か、今のうちに聞いておきたいこととかない?」
大丈夫っす。
「では、戻りましょう、支部長」
「ええ」
お見送り、お見送り。
「えーと、それでは、あのー」
玄関口に向かうトーチライトさんとコールズさんの後ろから、私は深々と頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました」
靴を履き終えたコールズさんが、なんだよ、と言って笑った。
「明日も、よろしくお願いします。しばらく、お世話になります」
トーチライトさんが、こちらこそ、と言って笑った。
「戸締りはしっかりな。俺は下にいる。なんかあったら、夜中でもかまわん、いつでも来い。部屋番号は101だ」
「明日の朝八時には受付に職員がいるから、日が替わったらそっちでもいいわよ。あなたのことはもう、みんな、知っていますからね」
お気遣い、ありがとうございます。
「お前さ」
「はい?」
「わりと、ちゃんとしてるよな」
「そうね。私もそう思ってた」
えーと。
「良く分からんが、一人で抱え込むのはやめろよ。俺も、こっちに来て十四年になる。転生者ってやつが、何をどう考え込んじまうかは、分かってるつもりだ」
「私も、転生者の友人はたくさんいるし、みんなと色々なことを話してきたから。相談になら、いつでも乗ります。転生者組合の支部長という肩書きは、気にしなくてもいいから。遠慮なく。いい?」
はい。
「え、えへーと、あのぅ、今日は、本当にありがとうございました」
なんか泣きそうだ。これしか言葉が出てこない。
「じゃあな」
「じゃあね。また明日」
コールズさんとトーチライトさんが、部屋から出て、ドアをゆっくりと閉めた。立ち去る足音が名残惜しくて、私はしばらくの間、玄関口に佇んでいた。




