1-53 今は鍵
「今、鍵を開けるから待っててね」
「了解でありますです」
トーチライトさんが入口の鍵を開ける間、私は歩いてきた道を振り返った。
組合の建物周辺の道の上には、馬車が通った跡はない。歩きながら、脇道の方には馬車の痕跡があったのを確認したけれど、それは、もしかしたら元からあったものなのかも知れず。
「はい、お先にどうぞ」
考えるのは、ここまでにしておこう。
「では、失礼致しますです」
入口のドアを開いて待ってくれているトーチライトさんに頭を下げつつ、私は建物の中に入った。
暗い。
と思っていたら、足元の方が明るくなった。
おー、あなたはトーチライトさんの魔導により生み出されし、光の球どのではないですか。
「撫でていいですか?」
「また、変なことを」
呆れ笑いを浮かべながら、トーチライトさんが入口のドアの鍵を閉めたあと、何か、確認作業のようなことをし始めた。
戸締り大事。
私の目の前には、もう一つのドア。外に出る時にも使った、受付の前に通じているやつ。
「そっちは鍵がかかっていないから、開けてもらってもいいかしら?」
「イエス、マム」
む? およ?
外出する時は、このドア、普通にトーチライトさんが開けてたような。
「あ、重かった? ごめんなさいね、ここのドア、なんかちょっと、開けにくいのよね」
ぐむむ、重い。私、どれだけ腕力ないんだ。
「わりと、厳しい感じです……ねっ」
おりょあっ!
「えー、少し動きました」
「よいしょ」
ずいっと、トーチライトさんがこともなくドアを押し開いた。
あっるぇっ?
「トーチライトさん、力持ちさんですか?」
「人並みだと思うけど」
むーん。女になったから、非力になってしまった、とかなんでしょうか。




