1-49 しばらく
しばらく黙り込んでから、トーチライトさんは、分かりました、と言った。
「転生者組合が、転生者の方々に対して何かを強制することはありません」
はい。
「だから、ブロッサムさんはブロッサムさんのしたいようにしていいし、それを、転生者組合側も望んでいます」
ゆっくりと歩き始めたトーチライトさんに、私も並んだ。
「そしてこれは、私個人の意見なんだけれど」
「はい」
「私も、あなたには、あなたの思うようにして欲しいの」
なんとなくなんだけどね、とトーチライトさんが付け加えた。
ふーむ。
「それじゃあ、この話は、ここまでにしておきましょうか」
「そうですね」
馬車道に人の気配はない。私たち二人の声と、風の作り出す湖の波の音だけが、聴こえている。腰にまで届いている髪が風に吹かれて、私の指に絡んだ。
「あ、向こう側にも、明かりが見えますよ」
対岸に沿って並ぶ建物からは、明かりが幾つも漏れていた。星の光が湖面を鏡のように輝かせ、遠い街明かりをその中に映し取っている。
「夏場は、この辺りは避暑地になるのよ。だから、宿泊施設やお店が向こうにもたくさんあってね」
ほーほー。
「春先になれば桜も咲くし、お休みをとってフェザーフォールに羽休めに来る人たちも多いのよ」
観光地なんですね。ここ。
「そうね」
トーチライトさんが笑った。なんか、ほっとした。
「そういえば、こしあん派とつぶあん派の話なんだけど」
おぅ、聞いてたんですね。
「もちろんよ。私はねー」
つぶあん派であれば、私と戦うことになりますが。
「両方かなー」
それは一番、ずるいパターンですよ、トーチライトさん。




