1-48 考えごと
「考えごとですか?」
私たちは、どちらからともなく、立ち止まった。
「ブロッサムさん」
トーチライトさんが、とても改まった声で、私を呼んだ。
「何でしょう?」
「お店に向かう途中でね、腰を落ち着けられる場所で話をしましょうって言ったの、覚えてる?」
覚えてますです。
「そのことなんだけど」
この街で行なわれている、国同士の相互監視の理由が、転生者の尽力による利益を、互いに独占しないよう、予防するため、というお話でした。
「あなたは、どうしてそんなことをするのか、その理由を知りたいって、言ったのよね」
この世界の人たちにとって、共通の敵である魔物と戦うための切り札になる、転生者の作り出したもの、あるいは転生者自体を、独占するという発想が、私には分からない。
独占するよりも協力した方が、魔物の除去という成果を、生みやすいはずだ。
「言いました」
私がそう言うと、トーチライトさんが頷いた。
「でも、今はいいです」
トーチライトさんは驚いたようだった。
「どうして?」
「今日一日は、何も知らないまま過ごしたいです。もしかしたら、甘い考え方なのかも知れません。この世界の方々が直面している現実から、目を背ける行為なのかも知れない」
でも、ですね。
「この世界は、きれいです。私の前世の記憶に近いところがたくさんあって、とても懐かしい。その懐かしさに、今日、一日だけは、自分を浸していたいんです」
息を吸い込めば、肺に清い空気が流れ込んでくる。その清さを身体の中にできるだけ、とどめようとしながら、ふと、これが、いとおしい、という感情なのかも知れない、と思った。
「駄目ですかね?」




