1-47 そんな
「そんなにですか?」
鐘楼広場の入口に差し掛かったところで、思わず立ち止まってしまった。
「はー、そんなに昔から転生者がいるんですね……」
二百十九年は、転生者の尽力が世界に浸透するのに、十分過ぎる時間だ。
「だから、私にとっても、転生者の方々がこちらの世界で実現したことやものは、当たり前のものなのよ」
そういうことですよね。二百十九年ですもんね。
ほへー。む?
「どうかしましたか?」
トーチライトさんが広場の向こう側を見ていたので、思わず、尋ねてしまった。
「うぅん、何かしら、と思っただけ。ただの馬車だったわ」
鐘楼をちょうど挟んで向かい側に、馬車が二台、止まってる。広場に沿って建っている建物は、みんな、二階建てになっていて、一階部分は駐車スペースのようになっている。その中に一台、そこからはみ出すような形で、もう一台。星明かりでも、十分にその姿が見える。
「おぅ、あれですか」
馬車が止まっている先の、建物の二階の窓には明かりが見えるが、他の建物は、みな、一様に暗い。馬車が止まっている建物は他にもなくはないけど、はみ出すような置き方をしているのは、その一か所だけだった。
「良くあることなんですか?」
馬車をなんとなく、無理矢理、置いているようにも見えますが。
「……そうね」
馬車の姿形までは分からないが、それなりに大きいように思える。立派、と言い換えてもいいかも知れない。
まぁ、私が気にしても、仕方がないことだ。
「あ、抹茶ティラミス、おいしかったですよね」
お上品な甘さでした。
「焼き大福も、ちょうどいい甘さのこしあんで」
おぅ、そういえば。
「こちらの世界の人たちも、こしあん派とつぶあん派に分かれてたりします?」
ちなみに私は、こしあん派なようです。
「香ばしく焼いた大福には、こしあんが合うと思うんですよねー」
……あのー。
「トーチライトさん?」
転生者組合の方へと続く馬車道は、すぐそこに見えている。湖が近いからなのか、夜風が少し、冷えてきた。




