1-43 白
白身魚の握りをもぐもぐしていたトーチライトさんが、ええ、と頷いた。
「海以外にも、ドラゴンさんたちはいるんですか?」
海竜以外にも、なんとか竜がいそう。
「第三支部の正面に、高い山が幾つも見えたでしょう?」
あー、入口から出た真正面の。はい。
「あの辺りは、地竜の皆さんが管理してるわね」
ほーほー。
「あとは、空ね」
「空ですか」
「そう。管理してらっしゃるのは、天竜の皆さんね」
海竜、地竜、天竜。
そしてこれは穴子。のように見えるもの。
いただきます。あ、おいしい。
「海と、地上と空にドラゴンさんがいるんですね」
トーチライトさんが頷きながらお茶を飲んだ。
「ドラゴン……そうね」
む?
「あり? ドラゴンはもしかして使っては駄目な言葉ですか?」
「いいえ、そんなことないわよ。ただね」
ただ?
「先住者にとっては、ドラゴン、という言葉は古語なのよ」
こご?
「古い言葉」
おぅ、なるほど。古い言語の古語ですか。
ん?
ということは。
「私の名字……いや、皆さんの名字は、古語なんですか?」
ブロッサム。花。
スプリングフィールド。春の野原。
グリーンリーフ。緑の葉。
トーチライト。なんだろう。松明の光?
コールズ……分からん。
「そうね。古い言葉がそのまま、名字として使われているわね」
ほへー。
「あ、ということは、その、ドラゴンは、私からすると外国の言葉なんですけど、こちらの世界の方々にとっては、聞き慣れない言葉になっていたりも?」
「言葉によるけれど。でも、竜をドラゴンという人は少ないかな」
ほむ。
「エルフさんとか、ドワーフさんとか、そういう、種族を表す言葉もですか?」
「古語だけれど、普通にみんな、使う言葉ね」
外来語が定着した、みたいな感じか。
「気にし始めたら頭の中がぐるぐるになってしまいそうです」
「コールズくんが言うように、気にしない方がいいわよ」
はい。そうします。




