1-39 この道を
「この道を真っ直ぐね、下っていくの」
嬉しそうな微笑みをそのままに、トーチライトさんが言葉を続けた。
「ここは、街の中心部から見て、南側になっていてね」
ふむ。
「窓から見えた、馬車道があったでしょう?」
湖沿いのやつですよね。桜が植えてあった。
「ええ。この道はあの道に合流しているの」
ほーほー。
む?
「右手に入る道が幾つか、あるようですが、あちらの方には、何があるんでしょうか」
緩やかな坂道の、二人で横並びになって歩いていく先に、右側に入る道があった。一つ、二つ、三つ。
「色々な国の、騎士階級の方々のお屋敷がある方に続いている道ね」
むーん。色々な国。
「この街は、特定の国には属していないの」
むん?
「転生者組合の支部は、全部で三つ。第一支部はグランスローン王国という国の王都にあるんだけど、第二支部と第三支部は、自治区扱いになっています」
トーチライトさんがさっき言った、複雑な組織、というのが、なんとなく、分かってきたような。
「色々な国の、騎士さんたちのお屋敷というのは、えーと、つまり、この街の監視目的というか、そういうことですか?」
自治区であるこの街が、余計なことをしないように、みんなで見張る、というか。
「そうね……私が、転生者組合第三支部の支部長である、ということは、差し引いて聞いて欲しいんだけど」
うぃ。
「どこかの国に肩入れしているわけではない、という意味で、あってますでしょうか」
「そういう理解の仕方をしてくれると、助かります」
ふむ。
「転生者の方々がこの世界に現れるようになってから、この世界に元々、生きている私たち先住者の生活の質は、大きく向上しました」
このジャブラジャー……やめとこう。そういう空気じゃない。
「衛生面の向上、戦闘技術の発展、数え上げていくと、きりがないほどの知識がもたらされて、その結果、この世界に生きる者たち共通の、立ち向かわなければならない脅威に対して、力を蓄えることができるようになりました」
立ち向かわなければならない、脅威?
「本当は、明日にでもこの話はするつもりだったんだけど」
トーチライトさんが、少し、考え込むようにして、間を置いた。
「この世界に現れる脅威というのは、魔物のこと」
きめら?
「命のある生き物としての、形を持っていない、空から落ちる赤い光と共に現れる、魔物としか呼べないような存在、かしらね」
空から落ちる、赤い光、ですか。
……それって。
「私たち、転生者と同じということですか? この街の名前がフェザーフォールで、転生者が現れる時に、光が羽のように落ちてくるのがその由来だって、コールズさんに教えて頂いたんですけど」
トーチライトさんが、ゆっくりと足を止めた。
「正確なことは何も分かっていないし、これからも分かることはきっとないんだと思います。ただ、事実としてあるのは、転生者と呼ばれる人たちの出現に時を同じくして、魔物が現れ始めた、ということだけ」
ふむ。
「転生者が現れると、近いうちに魔物が現れる、と?」
「それはないわね。転生者が現れてから数年後に魔物が現れた事例もあるし」
あ、そうなんですか。
「だから、これから魔物が現れたとしても、それをあなたのせいにする人は、この世界にはいないから、安心して」
ぬぅ、見透かされた。
「せっかくの外食なのに、変な話をしてしまったわね」
「いえいえ。この世界で生きていく以上は、知っておかなければならないことですから」
んむ。聞いて良かった。
「以上を踏まえて、さっきの話に戻すとね」
「色々な国の騎士さんたちが、というお話ですね」
と言ったら、トーチライトさんが頷いた。
「転生者の方々が持つ固有技能は、直接的であれ、間接的であれ、魔物と戦うための、切り札になる。様々な国の騎士階級の方々がこの街に集まっているのは、転生者の尽力を、互いが独占することのないように監視するため、なの」
……おぅ。
この街の監視ではなくて、国同士の監視、ですか。




