1-38 迎えに
迎えに来てくれたのは、トーチライトさんだった。
「こんばんは」
あ、こんばんはです。
「職員の方がいらっしゃる、とは伺っていたのですが」
まさか、トーチライトさんがいらっしゃるとは。
「このまま、外出しようと思っているから、だったら、私が直接、来た方が早いでしょう?」
外出?
「食堂じゃないんですか?」
「最初はそのつもりだったけど、この時間は混むし、街の方でお食事するのもいいかしら、と思って。二人ぐらいなら、融通が利くお店を知ってるの」
という会話があったのが、ついさっき。トーチライトさんのあとをついて行った先は、受付のある場所だった。受付カウンターに人はもういない。入口の扉も閉められている。
「鍵は、どなたに預ければいいんでしょうか」
「そうね……私が預かりましょう」
では。どぞ。
と、渡した鍵は、トーチライトさんの腰らへんにあるバッグの中へ。ベルトバッグ、というのかな。ちょっと、ファンタジーっぽいアイテム。ポーションとか入ってそうな。
トーチライトさんが、バッグをじっと見てしまっていたいた私の視線に、気づいたようだった。
「外出用にバッグとか、あった方がいいわよね。今日はもう、店じまいだから、明日、誰かに付き添ってもらって、買い物に行くといいわ。今月分のお金は、明日、渡しますから」
「了解であります」
入口近くの壁にあるドアを、トーチライトさんが開けて入ったのに続く。またドアがあった。
「ここは、職員用の出入口」
説明してくれた。
「さ、出ましょう。せっかくだから、ブロッサムさんがドアを開けてみて」
微笑みながらそう言ったトーチライトさんが、ドアの前を譲ってくれた。
窓から、外の風景は見たけれど。
なんか、緊張してきた。
「えーと、では」
木製のドアノブを回し、ゆっくりと押して、私はドアを開いた。
「はへー……」
流れ込んできた空気には、土の匂いが立っている。すぐ外は踏み固められた土の道の、終点だった。道は左手に続き、右手は刈り込まれた草地になっている。空はまだ明るく、真向かいに遠く続く丘陵の先には、切り立った山々が見える。その頂きには、雲がかかっていた。
「行きましょうか」
トーチライトさんがそっと私の肩に触れて、促した。
「あ、そうですね。すいません」
なんか、見入ってしまった。
「今日の、お金の心配はいいですからね」
あ、お金。
「いえいえいえ、そこまでして頂かなくても、立て替えてもらえれば、後日、お返ししますから」
「若いんだから、そういう遠慮はしないの」
いやー、でも。
「いいからいいから。別に、あなたに恩を売ろうということでもないから、安心して?」
「トーチライトさんは、そういうことをする人ではないと思いますです」
「そう? 転生者組合という組織は、わりと複雑なのよ?」
むーん。
「でも、そういうことはしない人だと思います」
トーチライトさんが、そう、と言って嬉しそうに笑った。




