1-36 グリーンリーフさん
グリーンリーフさんは、私に、部屋の中にあるものの使い方や迎えに来る時間その他を一通り、丁寧に説明してから戻って行った。
部屋の構造は1K、というやつで、ベッドのある場所と台所の間には仕切りがある。
二階部屋なのにトイレもお風呂場もあるのは、下水道に直接、排水を落とせるように、一階の部屋から外側にずれた位置に作られているから、とか、靴を脱いで部屋に入るのは、転生者の文化が定着したから、とか、その場の思いつきの私の興味にも丁寧に答えてくれた。
さて、何をすべきか。
「お風呂場に確か、鏡があったはず」
というわけで、お風呂場へ。
お風呂場の壁に掛けてある鏡は私の上半身が映る程度の大きさで、自分の姿を初めて見たけど、あー、これは、前髪切り過ぎだ、と思った。
顔は、まー、自分の顔だ、としか思わない。それも不思議ではあるけど。
「そういえば、女子トイレには鏡はなかったような」
この世界の女の人たちは、化粧をする習慣があるのかどうか。スプリングフィールドさん、トーチライトさん、グリーンリーフさんは、お化粧はしていなかったような気がする。
そして。
「これは、鏡には映るのか」
相変わらず、銀のペンダントは私の胸元にある。グリーンリーフさんも、他の人たちに同様、これに気づいた様子はなかった。
「で、こっちは見えてない」
トイレに入った時に〈ステータス画面〉で出した、私の目には見えているステータス情報は、鏡には映っていない。改めてステータス情報を眺めてみたら、右下にあるデジタル表示の時計が、十六時三十五分を示していた。
「夕方の鐘が鳴る頃に迎えに来るって、グリーンリーフさん、言ってたっけ」
夕方の鐘が鳴るのは午後五時のはずだから、あと、二十五分。
「ほい」
掛け声に意味はないけど、ステータス情報から切り離された状態で表示させたプラグイン管理のページの、不可視プラグインをオフにする。あ、鏡にもステータス情報が映った。
……うーむ。
「これ、私に使いこなせるんだろうか」
私の固有技能である〈ステータス画面〉の技能階梯は100。この数字が意味するものは、プラグイン、というものの数だ。
時計も、プラグインの一つ。他にもたくさんある。ほとんど、把握できてない。
「面倒そうなことは先送りにして、当面は、この世界のことを学ばねば」
ベッドのある部屋に置いたままの手提げ袋から、『転生者のための世界知識』を取り出した。ぱらぱら見てみたが、図版もカラーだしきれいな本だけど、文字は手書きのような気がする。
「本って、もしかして、貴重品か?」
丁寧に扱わないと。
気になったことは紙にメモして、普段はそれを見るようにすればいいかな。
「紙。書くもの。ない」
むーん。〈ステータス画面〉のプラグインに、メモ用のものとか……あるんかーい。




