1-30 ほーーーー
「ほーーーー」
ここまで、身体形状の差異が、手続きに違いをもたらすとは思わなかった。トイレに入る前に、グリーンリーフさんに事前説明をしてもらったのは、正解だった。
ともかく、慣れなければ。
「はー」
女特有の各種対応その他もろもろのあと、私は手を洗うべく個室の外に出た。
手を洗うための水は、給水タンク的なものから手桶に溜めて使う仕組みで、使った水を流す排水口があることを考えると、下水道に類するものが、恐らくは、あるのだろう。
この、衛生面の過度とも言える発達の背景には、転生者の尽力、というやつがあるのであろうことは、想像に難くない。
だから私は、トイレットペーパーがあったことにも、断じて、驚いてなどいない。トイレそのものは、便座に座る水洗式ではなく、しゃがみ込むタイプの落下式だった。しゃがんでいる時に視界の端に見えた黒いごみ箱らしきものについては、考えないことにする。
手を洗い、その手をひらひら控えめに振り回してから、エプロンの裏側でふきふきし、廊下に出ると、グリーンリーフさんが素人目にも隙の無い姿勢で立っていた。
「お待たせ致しましたです」
「いえいえ」
会議室に戻り始めたグリーンリーフさんのあとに続いて、私も歩き出す。転生者組合第三支部の構造は複雑で、自力で会議室に戻る自信が全くない。
「この建物の中って、なんだか、迷路みたいですよね」
そう言ってみたら、グリーンリーフさんが苦笑いした。
「増改築を長い間、繰り返しているので、職員でも慣れないうちは迷いますよ」
「そうなんですか」
廊下を右へ左へ。私たちは、五分ほどかけて、会議室に戻ってきた。




