1-29 あ、資料
あ、資料らしきものを机の上に並べ始めた。
名字を選んだ時のものと同じような紙に、手書きで説明が書いてあるものと、本。タイトルは、『転生者のための世界知識』とある。
「改めまして、ブロッサムさんの生活支援を担当致します、アレサ・グリーンリーフと申します。よろしくお願いします」
あ、こちらこそ。ヨリコ・ブロッサムであります。
「はい。それでは、ブロッサムさんから見て、左側の、こちらの資料から、ご説明させて頂きますね。少し、長くなるかと思いますが、大丈夫ですか?」
うぃ?
「何がでしょう?」
「おトイレとか」
おぅ。
「今のところは、大丈夫だと思いますです」
「そうですか。ご遠慮なさらないでくださいね?」
それはもちろん。
「はい。では、説明致します。まずは、ブロッサムさんが当面の間、住む場所についてなのですが」
と、始まった説明は、本当に長い説明だった。再び、自ら要約。頭の中を整理せねば。
・住居は転生者組合第三支部に併設されている宿舎の、女性用区画内にある個室
・宿舎は第三支部と渡り廊下でつながっており、宿舎から直接、外出するための出入口はない
家具を入れたりするような、搬入口、みたいなところはあるらしいけど、そこは通常は施錠されている、とのこと。
女性用区画は二階で、一階が男性用区画。部屋数はそれぞれ四部屋で、そのうちの二部屋ずつが、転生者支援のために特別に準備されている部屋。
・渡り廊下から入る宿舎入口の鍵と、個室の鍵が貸与される
・外出時は全ての鍵を、組合に一時的に返却しなければならない
うーむ。これは。
私を、というか、転生者を監視するための態勢のような気がしないでもないけど。
出入りするためのドアが、二重になっているのに等しいし。いや、組合の入口から出入りしなければならない以上は、三重か。
鍵の管理も、出入りそのものの管理、ということなんだろう。付き添いの人が、というコールズさんの話は、ここにもつながるのか。
……ぬーん。
「質問、良いですか」
「どうぞ」
「トイレはどこですか」
……むーん。
「宿舎の女子トイレは二階にありますが、転生者の方々向けのお部屋については、室内にトイレと浴室があります」
いえ、そうではなく。
「はい?」
「トイレ、行きたいです」




