1-28 中はあまり
中はあまり、広くない。窓は一つ、部屋の真ん中に少し大きめの机があって、それを囲むように椅子が四つ。
とりあえず、ドアに一番、近いところへ座っておこう。
「ぬーん」
身体をなんとなく右へ。
「むーん」
そして左へ。
「ぬーん」
右へ。
「むーん」
左へ。
「ザ・手持無沙汰」
と言った瞬間、ドアがノックされた。立ち上がらねば。
「ふぁい?」
素で変になった。お、ドアが開く音。
「お待たせしました。ヨリコ・ブロッサムさんですね?」
振り返ったら、凛々しい感じの女の人が立っていた。
スプリングフィールドさんはゆるいおさげで、トーチライトさんは一つにまとめて胸の前に落とすという髪型だったけど、この人は首筋が見えるラインで切り揃えてる。わりと、髪型のバリエーションがこの世界は多いのかな。
美容院とか、ありそう。
「そうです。あ、ご担当者様の方様ですか?」
敬称つけすぎた。
「はい。アレサ・グリーンリーフと申します」
お辞儀された。これはご丁寧に。
お辞儀返し。
グリーンリーフさんは、なんとなくスーツっぽい服装のスカート。トーチライトさんもこんな感じだった気がする。
担当するお仕事によって、職員の服装を変えたりとかしてるんだろうか。
なんかまだ、目で見える範囲の情報に対応できていない。コールズさんはどんな服装だっただろう。ガロウさんは。
うーん。
「どうかなさいましたか?」
「いえ。なんか、まだ、こう、頭がはっきりしていないというか。ついさっき、見たはずのことを思い出せませんのです」
「記憶の混濁は、こちらの世界にいらっしゃったばかりの頃の転生者の方々が、良く、口にされる事例ですから、あまり、気になさらない方がいいですよ」
そうなんですか。
「どうぞ、おかけください」
元の椅子に座ろうとしたら、奥の方のお席にどうぞ、と言われたので、言われた通りに奥の方へ。グリーンリーフさんが、私が座っていた席に座ろうとしているのを見て、
「そこ、生温かいですよ? 私が座ってたので」
と言ってみたら、にっこり笑ってそのまま座った。
この女、多分、手ごわい気がする。




