1-25 いただき
「いただきマンモス」
「繰り返すな」
くそぅ、ぶふっ、とかなるかと思って仕掛けたのに。
「ラーメンおいしいですか?」
「うまいぞ。頼むと何も言わなくても、チャーハン大盛りにしてくれる程度には、こればかり食ってる」
常連さんですね。
「そうだな」
食べよう。とにかく。
カレーおいしそう。
「飯の間は、お前の言動が記録に残ることはない」
「ふぁい?」
カレーを一口食べたところで、コールズさんがそんなことを言った。
「知りたいことがあるんだろ? 色々さ」
むーん。
「非公式なお話、ということですか?」
「そんなところだ。報告書に、ここでのやり取りを書いたりはしない」
「それは、そういう決まりがあるということですか」
「そう思ってもらって、かまわない」
むー、知りたいことか。
このカレー、おいしい。家庭の味。
「転生者の衣、コールズさん、どうしました?」
「雑巾にした」
ぶふっ。
「うぇへっ、えっ、へっ、うぇへっ」
「……なんか、すまん」
はー。はー。
むせただけで、食べ物その他周辺への被害は無し。良かった。
「何してんすか」
「あれ、二度と着ないだろ?」
うん。それは、私もそう思いますけど。
「スプリングフィールドさんが、前世の世界から一緒にやってきたものじゃないですかって、言ってましたよ」
「ただの布だぞ」
それも、そう思いますけど!
「雑巾以外にも、何か、こう、使い道が」
「生来装備というわけでもないしな。誰でも、転生者なら持っているものだ」
あなたの場合は過去形ですよね?
「まぁな」
雑巾にして使い古して捨ててるよ、この人。
ん?
「生来装備? なんですか、それ」
「こっちに来た時に最初から持っている、特殊な持ち物のことだ。身に着けられるものが大半だから、装備扱いになっているが」
……ほぅ。
「珍しいものなんですか?」
「数は多くない。第三支部について言えば、いないはずだ」
……ふむ。
「固有技能に関係のある場合もあるし、ない場合もある。ただ、持ってる奴は、それがどういうものかをある程度は理解している、という報告はあるな」
ある程度、か。
「そんなこと、簡単にしゃべっちゃっていいんですか」
「転生者関連のことで、隠し事は多くはないさ。俺の固有技能の中身だって、たいていの奴が知ってる」
ふーむ。
「どういうことですか?」
そうだな、と言って、コールズさんが水を飲んだ。
「俺たちが持つ固有技能は、この世界の住人には、簡単にはできないことを容易く実現する」
そうみたいですね。
「例えば、俺の固有技能は、〈魔印解放〉というんだが」
まいんかいほう。
「呪われた武具を、その呪いの影響を受けることなく自由に扱うことができるという力を持っている」
なんか……主人公っぽい。
「強そうです」
「呪われた武具があれば、な」
……おぅ。
「ないと、そのー、なんというか」
「役立たずだよ。でもまぁ、手に入れば、この世界の住人の戦闘能力を簡単に圧倒しちまえる」
無双、ですか。
「無論、使いこなすには、鍛錬がいるぞ。ただ、そうだな、上限が違う、とでも言えばいいか」
……私たちって。
「この世界の人たちにとって、脅威でもあるんですね」
「そういうことだ。だから、隠し事は、あまりない」
あまり。
「ということは、なくはない?」
「世の中、知らない方が幸せなことだってあるだろ?」
……そうかも知れませんね。




