1-21 では
では、ひとまずは。
「ご飯、行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
「それでは、支部長、あとはよろしくお願いします」
「ええ」
私とコールズさんに交互に頷いたトーチライトさんの笑顔に見送られ、私たちは支部長室の外に出た。こちらに来た時よりも、幾分、廊下の明るさが増しているような気がする。
もう、お昼を過ぎた頃かな。今、何時ぐらいだろう。
あ。
「あのー、コールズさん」
「なんだ」
「時間って、この世界、どんな感じですか?」
「前世の世界と、だいたい同じだ」
……またですか。
「時計があったりとか?」
「あるぞ」
「えー、精密機械ですよね? 時計って」
あんなものまで再現した人がいたのか。
「いや、機械仕掛けじゃなくて、魔法で動く。まぁ、魔導か。魔法関連は俺は詳しくないから、上手い説明はできないが、そうだな」
なんでしょう?
「ステータス情報を表示する技術と、理屈は同じはずだ」
むーん。
「懐中時計っていうのか。ああいう、持ち運べるようなタイプのものは、それなりに高価だ。でかいやつが、だいたい、主要な建物の外の高い位置とかにあるな」
身近なもの、というわけでもない、と。
「朝の七時と、夕方の五時に鐘を鳴らすことになっているから、それがこの世界の連中の時間の基準だ」
なるほど。
……時計かー、と思っていたら、コールズさんが立ち止まったので、私も遅れて立ち止まった。
今度はなんすか。
「食堂は食券制だからな。ほら」
コールズさんがズボンのポケットから、束になっている食券を束ごとくれた。
「セットメニューはそれ一枚でいい。単品を追加したりしたい時は、小銭で払う」
今度は、銅色の硬貨を五枚くれた。
「貨幣価値が良く分からないんですけれども」
「銅貨がだいたい、俺たちの世界の感覚で百円ぐらいか。単品の小鉢が、銅貨二枚ぐらいだな」
単品の小鉢?
「ひじきっぽいのを煮たのとか?」
和食じゃないですか。完全に。
「俺も、最初に食堂に連れて行かれた時は、驚いた。まぁ、慣れろ。あと、それはやる。正式な配給もあるが、とりあえずな」
あ、どうも。エプロンのポケットにしまっとこう。
それにしても、なんか、気になる言い方ですね。和食、というだけで驚くかと言われると、なんというか。
「人間以外の連中も職員にはいるからな」
あ、剣と魔法の世界的な意味で。
「自分が、物語の登場人物になったみたいな気がしたもんだよ」
「エルフさんとか、ドワーフさんとか」
「あぁ。それに、ゴブリン、トロール、オーク、オーガ、コボルドあたりか」
えーと。
「戦う相手ではなく?」
「みんな、気のいい連中だよ」
はへー。余計な先入観は捨てないと駄目ですね。
「そうだな」
じゃあ、さっきから漂ってきている、この、カレーの匂いも、もしかしたらカレーではない何か。
「カレーだよ」
やっぱりか!




