1-20 コールズさん
コールズさんが、よし、と言ってソファーから立ち上がった。
「飯食いに行くぞ」
さすがに、この唐突な感じにも慣れてきた。
「支部長はどうしますか?」
「私は、報告書を書かないといけないから、二人で行ってきて」
えー、あのー。
「私、お金ないっす」
「気にするな」
いやいやいやいや。
「気にしますよぅ」
「こっちで持つ。当面の生活費その他は、組合から支給される。安心しろ」
あ、そういうことになってるんですか。
「ずっと無職というわけにはいかないけどな」
でしょうね。むーん、仕事かー。
「まずは、この世界に慣れることから始めろ。そのために、組合の方で用意していることも色々ある」
「それはとても、助かりますです」
まだ良く知らないですしね。この世界のこと。
「ともかく、まずは飯だ。細かいことは、そのあとだ」
ご飯食べながら、コールズさんにあれこれ聞いてみるのも、ありか。
「心配しなくても大丈夫だから。あなたの、この世界でしたいこと、とても素敵なことだと私は思います」
ほ?
「いや、でも、まー、あのー」
えー。
「いいんですか? 私の〈ステータス画面〉のこと。自分で言うのもあれですけど、私、この世界の仕組みから、こう、外れてますよね。確実に」
「それは、そうね」
はっきり頷かれた。
「でも、そうね……ブロッサムさんがもう少し、こちらの世界に慣れてから、その辺りのことはお話しましょうか」
そう言ったトーチライトさんは、何かを考え込んでいるように見えた。
うーむ。
「ほら、立て。行くぞ」
「あ、はい」
あ。
「窓、開けたままでした。すいません」
立ち上がって窓を閉めに行こうとしたら、そのままでいいわよ、とトーチライトさんに言われた。
「私も、久しぶりに外を眺めてみたくなったから」
「そうですか」
吹いてきた風が、一つにまとめて胸元に落としているトーチライトさんの栗色の髪を揺らす。
絵になる人だなーと思って見ていたら、少し強めの風が吹き、今度は私の額に直撃した。
やっぱり、前髪、切り過ぎたか。
「ああ、額で風を感じます」
そう言ったら、トーチライトさんがちょっとだけ笑ってくれたので、なんだかほっとした。




