1-19 トーチライトさん
トーチライトさんの目線が、私の手の動きを追う。それでも、このペンダントについて、何かを指摘しようとする様子は見えない。
「ほへ?」
視線の動きに合わせて首を傾け、トーチライトさんを見つめてみたら、戸惑った様子で微笑み返されただけだった。
ま、これのことはしばらく、私の中だけに留めておくことにするか。
「ブロッサムさん」
名前で呼ばれた。
「はい?」
「簡単には答えられないと思うんだけど、あなたは、この世界で、何をしたい?」
トーチライトさんが、ゆっくりと丁寧な言い方で私に問いかけてきた。
「……そうですねー」
〈ステータス画面〉について、色々と聞かれるのかなと思っていたので、この問いかけには不意を突かれたところがあった。上手く説明はできないけれど、トーチライトさんはとても、真摯な人、のような気がする。
であるならば、私も同じように、真摯に答えなければならない。
「その、可能か不可能かは分からないですけど。この世界のことも、まだ良く知りませんし」
ようこそ、剣と魔法の世界へ、とトーチライトさんは言った。平和な世界なら、剣、という言葉はいらない。転生者向けに、分かりやすさを重視した説明の仕方であるにしても、だ。
この世界は、きっと、剣が必要な世界なのだろう。
「もしかしたら、簡単なことではないのかも知れないですけど」
剣が必要なこの世界で、簡単ではないこと、というのは、なんだろう。
「私は、ただ、平凡に、静かに生きて、天寿を全うして、この世界とお別れしたいです」
自分の心の奥を探るうちに、自然と、そんな言葉が出てきていた。




