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銀のペンダント  作者: 上村文処
エピソード2 授業~師匠~笑う
173/1024

2-105 ここは、居

 ここは、居住まいを正そう。


「あの、お尋ねしたいことが」

「なんだ」

「どうして、そのー、親切にしてくださるんでしょうか。お二人とも」


 不可解、という顔をして、ルーペさんが奥さんに視線を送った。


「お前、何かしたか?」

「いいえ。特別なことは何も。あなたは?」

「知らん」


 いえ、ですからね。


「私をご近所の方に紹介してくださったり、お隣の部屋に私用のスペースを作ってくれたりしたじゃないですか」


 ルーペさんが、短い溜息をついた。


「それは、当たり前のことだ」

「銅の板の見習いたちには、同じことをしてきたから」


 その、むーん、上手く説明できないのですが。


「私は、転生者(リレイター)です。でも、皆さんのお役に立てるような固有技能(ギフト・スキル)を持っていません。そんな私より、もっと、その、価値のある人にこそ、お二人にとっての当たり前は、相応しいのではないかと」


 静かな声で、そうか、とルーペさんが言った。


「お前は、自分に価値がないと思っているのか」

「……相対的に見ると、そうなんではないか、と」


 ルーペさんが、腕を組んだ。


「お前の価値を決めるのは、お前じゃない。周りの人間だ。お前がこれからすることを見て、周りが時間をかけて決めていく」


 ヨリコちゃんは、と奥さんが言った。


「先生が言った通り、真面目すぎるのかも知れないね」


 真面目すぎる。


「余計なことを考える暇があったら、手を動かせ。少なくとも、今のお前に職人としての価値はない」


 ……ですよね。


「頭ではそう、分かってはいるんですけど、でも、自分の中で色々とぐるぐるが」


 面倒くせぇな、とルーペさんが言った。


「お前の机は今日からこっちだ。その机から中身を出して、こっちに移せ」


 ルーペさんが、カウンターに近い方の作業台を指さした。


「で、さっさと、この間の続きをやれ。手先が動くようになったら、話の続きを聞いてやる」


 そして、バケツの中に雑巾を投げ込む。


「考えて、手先を使え。違いを感じろ。考えるより早く、指先を使えるようになれ。指先で考えろ。以上だ」


 ……なんか、もう。


「無茶苦茶ですよ、それ」

「そうだ」


 そう言って、ルーペさんが初めて笑った。


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