2-105 ここは、居
ここは、居住まいを正そう。
「あの、お尋ねしたいことが」
「なんだ」
「どうして、そのー、親切にしてくださるんでしょうか。お二人とも」
不可解、という顔をして、ルーペさんが奥さんに視線を送った。
「お前、何かしたか?」
「いいえ。特別なことは何も。あなたは?」
「知らん」
いえ、ですからね。
「私をご近所の方に紹介してくださったり、お隣の部屋に私用のスペースを作ってくれたりしたじゃないですか」
ルーペさんが、短い溜息をついた。
「それは、当たり前のことだ」
「銅の板の見習いたちには、同じことをしてきたから」
その、むーん、上手く説明できないのですが。
「私は、転生者です。でも、皆さんのお役に立てるような固有技能を持っていません。そんな私より、もっと、その、価値のある人にこそ、お二人にとっての当たり前は、相応しいのではないかと」
静かな声で、そうか、とルーペさんが言った。
「お前は、自分に価値がないと思っているのか」
「……相対的に見ると、そうなんではないか、と」
ルーペさんが、腕を組んだ。
「お前の価値を決めるのは、お前じゃない。周りの人間だ。お前がこれからすることを見て、周りが時間をかけて決めていく」
ヨリコちゃんは、と奥さんが言った。
「先生が言った通り、真面目すぎるのかも知れないね」
真面目すぎる。
「余計なことを考える暇があったら、手を動かせ。少なくとも、今のお前に職人としての価値はない」
……ですよね。
「頭ではそう、分かってはいるんですけど、でも、自分の中で色々とぐるぐるが」
面倒くせぇな、とルーペさんが言った。
「お前の机は今日からこっちだ。その机から中身を出して、こっちに移せ」
ルーペさんが、カウンターに近い方の作業台を指さした。
「で、さっさと、この間の続きをやれ。手先が動くようになったら、話の続きを聞いてやる」
そして、バケツの中に雑巾を投げ込む。
「考えて、手先を使え。違いを感じろ。考えるより早く、指先を使えるようになれ。指先で考えろ。以上だ」
……なんか、もう。
「無茶苦茶ですよ、それ」
「そうだ」
そう言って、ルーペさんが初めて笑った。




