2-104 この音
この音の感じだと……お掃除かな。
「お手伝いせねば」
作業部屋に続くドアに手をかけたところで、気になったことがあった。
・奥さんは、ご近所の方々に、多分、私のことを紹介してくれている
・ルーペさんは、この部屋に、私のためのスペースを作ってくれた
何もできない。細工師として、自分の足で立てるようになるかどうかも分からない。
転生者ではあるけれど、人の役に立つような使い方が、今のところ全く分からない固有技能しか持っていない私に、どうして、ここまでしてくれるんだろう。
・レインツリーさんに色々言われた
・だから、私に親切にしてくれている
レインツリーさんも奥さんも、ルーペさんも、そんな人たちじゃない。
と思う。
レインツリーさんは、自主性を重んじる人のように思えるし、仮にレインツリーさんに言われたからと言って、はいわかりましたと、その通りにするような人にも、ルーペさんは見えない。
「そもそも」
ルーペさんは、宝飾細工の世界ではすごい人らしい。
宝飾細工の技術は、魔道具を作る上で、とても大切な工程を担っている。だから、この世界にとって、とても大事なもの。
レインツリーさんが言ってたけど、魔力の無駄を省くことに関しては、天才とかなんとか。
どうしてそんな人が、私なんかを雇う気になったんだろう。
考えないようにしていたことが、頭の中をぐるぐるし始めた。そうなってくると、このドアの向こうにいる人たちに、自分なんかは相応しくなくて、呑気にお掃除をお手伝いせねば、なんて言うこと自体が無礼千万に思えてくる。
私が手伝わない方が、手早くなんでも片付けてしまうかも知れないし。
というか、絶対そうだろうし。
「お前、何やってんだ」
「ほいっっ!?」
ドアが、向こうから開いた。開け放たれている玄関から、陽射しが差している。奥さんが、カウンターを拭く手を止めて、笑った。




