2-103 ほひ?
ほひ?
「あ、井戸の使い方を教えてくださった――」
お名前が分からない。お隣に住んでいる方ということは分かるけど。
「ゴーズだ。よろしくな」
わざわざ、玄関から出てきてくださって、にかっとゴーズさんが笑った。
「ヨリコ・ブロッサムと申します。こちらこそ、よろしくお願いしますです」
「ジェンナから聞いてるよ。頑張んな」
ジェンナ……あ、奥さんか。
「はい。ありがとうございます」
何はなくとも、まずはお礼。気にかけてくださるのは、ありがたいことだ。
で、それはそれとして。
「あのー、ゴーズさん、とお呼びしてもいいんでしょうか」
「ああ。ゴーズでいいぞ」
『転生者のための世界知識』に書いてあったのは。
・正式なゴブリンの名前はゴブリン語によるものだが、公用語を常用する人族にとっては、音による判別がほぼ不可能
・そのため、ゴブリンは公用語での名前を持つ
・名字については故郷の地名を名乗るため、近親者でなくとも同姓の者が多い
・従って、慣習として、ゴブリンたちは、公用語による名前で呼ばれることを望む
この通りみたいだ。
「リカルドは、嘘のない人間だ。あいつを信じて、しっかりついていけ」
「はい」
ルーペさんのことを、そういう風に言う人が、こんな身近なところにいるのか。レインツリーさんも、同じようなこと言ってたな……。
「じゃあな。ヨリコちゃんと一緒に仕事ができる日を、楽しみにしてるよ」
「はい」
また、名前で呼ばれた。けど、嫌な気はしない。
「一緒に仕事ができる日、か」
ゴーズさんも、宝飾細工に関わるお仕事の職人さんなんだろうけど。
ご自宅の中に入るまでお見送りをしてから、お掃除を早々に済ませて、お店の裏手へ。
「ただいま、戻りましたー」
声をかけてから、中へ入ってみたけれど、物置には人の姿はなし。でも、作業部屋には人の気配がある。というか、物音がしてる。




