2-90 奥さん
奥さんからもゴーサインが出たところで。
まずは、丸いパンを手でちぎって……わりと固めのしっかりしたパンなんだな。
で、これにシチューをつけまして。
「……おいしい」
奥さんは隣にいるので、どんな表情なのかよく分からないけれども、なんとなく、私の言葉を聞いて笑ったような気がした。
おっさんは、焼きハムを一枚、フォークで突き刺して、そのまま無造作にシチューの中に入れた。で、また、パンをつけて食べている。
そんな技が。
「技って何さ?」
もぐもぐしていた焼きハムをちゃんと飲み込んでから、レインツリーさんが言った。
「いえ、ハム入れるのありなんだなー、と思って」
「好きに食え」
「あ、はい」
私が見てたの、気づいてたのか、おっさん。
「好きに食べなさいね」
奥さんからも、同じ言葉が。
「そうさせて頂きますです」
なんか、緊張していたのが抜けてきたような気がする。マイペースにもぐもぐし続けるレインツリーさんが、真正面にいるのが多分、効果としては大きいんだろうな。
ハム食べよ。これは、ナイフで切らないと駄目っぽい。
一枚頂いて、切って、切って、切って……パンに挟んでシチューつけて食べよう。
んむ、うまい。
シチューの中のお野菜もおいしい。じゃがいも、たまねぎ、にんじん。の、ようなもの。
味付けは素朴で、どこか、ほっとする感じだ。懐かしい、というのとも違うけど。
なんだろうな。この感じ。
あ、そうだ。質問することがあるんだった。
「あのー、明日のことなのですが」
特定の誰かではなく、三人に同時に話しかけてます、という雰囲気を出せるだけ出して、私は尋ねた。
「明日? あ、日曜日だね」
「そうですそうです」
リターンはレインツリーさんから。
「日曜日は、就業訓練だとお休みにしないといけないって、エレノアが言ってた」
なるほど。
「だから、ヨリちゃんは、明日はお休み。でさ、どうするの、二人とも」
レインツリーさんが、おっさんと奥さんに話を向けた。
「就業訓練は最長で四日間までなんだけど、ヨリちゃんに、水曜日以降も来てもらうつもり?」
「ああ。俺はそれでいい」
……おぅ。
「そういえば、看板出てたけど。お店、またやるの?」
「そうだ。先生には、また、世話になる」
「そりゃ、全然いいよ。でも、」
レインツリーさんが、少しだけ、間を置いた。
「いいんだね?」
ぬ? 何がいいんだろう?
「ああ」
お隣をちら見したら、とても静かな目で、奥さんがおっさんを見ていた。




