2-88 去り
去りゆく背中に、失礼しますですー、と声をかけたら、手を振ってくれた。頭を下げ、私も来た道を戻ってお店の前にちょうど、出たところで、レインツリーさんとばったり出会った。
「ばったり」
「どしたの、急に」
「いえ、こういうのをばったり出会うと言うんだな、と思いまして」
「ジェンナに五時半に来てって言われたから」
そういうことでしたか。計画的なばったりだったとは。
「で、ヨリちゃんは? 何か用事だったの?」
「裏手の井戸で手を洗ってました……レインツリーさん、手は洗いましたですか?」
目の前に渦を巻く水の球体がおもむろに現れた。
「これでいいよね」
自動手洗いの呪文ですか。
「うん」
力の無駄遣いな気がすごくします。
「無駄遣いじゃないよー。ちゃんと、大気中の魔力を収束、拡散して、使いやすいように整えてるんだから」
……えーと。
「すいません、意味が良く分かりませんです」
「そうか。魔導の詳しい話は聞いてないのか」
「ですね。そもそも、理解できるとも思えませんです」
『転生者のための世界知識』に少し、書いてありましたけど、無理だ、と思いました。
「あー。あれ、書いたの、私なんだよね。……無理だったか」
「そうなんですか?」
「うん。頼まれてね。ほら、転生者の中には、魔導に適性が高い人とかもいるからさ。そういう人たちの入口になればと思って、書いたんだけど」
うーん、と考え込み始めたレインツリーさんの肩を、私はちょいちょい、とした。
「中に入りませんですか。奥さんがお待ちだと思います」
「そだね。入ろう。お邪魔しまーす、シルヴァラおばちゃんが来たよー」




