2-86 今日の晩
「今日の晩飯は、うちで食え。先生も来る」
玄関の方から現れたおっさんが、私にそんなことを言った。
「はい。分かりましたです」
「そろそろ、片付けろ」
そして玄関から消えるおっさん。なんかもう、この感じに慣れてきた。一方通行なんだけど、まぁ、それもありなのかなと思い始めている私がいる。
さて、片付け片付け。この作業台の引き出しとか、使ってもいいのかな。
いいよな。明日もまた、ここに来る……あれ。
明日、日曜日だ。日曜日は、確か、就業訓練はないはず。
あれー、どうするんだろう。
まぁ……、レインツリーさんも来るらしいから、その時に聞こう。何か知ってるかも知れないし。
「完成したやつだけ台の上に置いて、残りはもう、まとめて引き出しの中に入れてしまおう。改めて、組み合わせを見直した方が、いい結果が出るかも知れないし」
今日一日の作業でできなかったのであれば、一度、リセットしてみるのもいいような気がする。
「今日は今日。明日は明日。明日はお休みだけど」
多分。
「ヨリコちゃん?」
「ふぁいっ!?」
……びっくりしたー。ひとりごとモードの時に話しかけられると、なぜ人はこうも、びくっとなるのか。
「もう、片付け始めてるのね。それが終わったら、裏の井戸で手を洗って、二階に来てね」
裏の井戸。行ってみれば分かるかな。
「分かりましたです」
二階に戻る奥さんをお見送りしつつ、お店の玄関から外に出た。今、何時だろう……時計はエプロンのポケットの中。あった。
十七時三十分。まだ空は明るい。風は涼しい。




