2-74 それが
「それが分かってるんなら、まぁいい」
ぬ?
「先生の言いたいことは分かった」
「そう?」
「ああ」
「じゃあ、話を進めていい?」
「先生のしたいようにしてくれ」
「分かった」
じゃ、これね、と、レインツリーさんが、どこからかは分からないけれど、紙を一枚、取り出して、カウンターの上に置いた。
「ヨリちゃん、就業訓練、途中じゃない? それで、エレノアとも相談したんだけど、もし、ヨリちゃんがいいならね。リカルドのところでしばらく、見習いをやってみない?」
ほへ?
「あのー、ものすごい、お話が急展開なんですけども」
「俺はどっちでもいい。お前が決めろ」
ぬぅ。
「私は、リカルドに、ヨリちゃんの就業訓練のことを強制したりはしてないからね。今のヨリちゃんとのやり取りで、訓練場所として、ここを使うことを了解してくれた……のよね?」
おっさんは、何も言わない。黙ってる時は、イエス、の意味なのかな、この人。
「だから、あとはヨリちゃん次第。あ、もちろん、バイト代的なものが組合から出るよ」
おぅ、そういえば、そんな話もあったような。
うーむ。
「あのー、ルーペさん」
目だけを動かして、おっさんが私を見てきた。だから、それが怖いんだって。世の中ではそういうのを、睨む、と言うんだよ?
「えーとですね」
おっさん、黙ったままだけど。……しゃべって、いいのかな。
「そのー、私、何もできないです。さっきも言いましたけど」
返事がない。
駄目だ。私、この人、苦手だ。
「細工もんに興味があるのかって、さっき聞いたよな」
やっとしゃべった。
「はい」
「お前は、分からない、と言った」
「はい」
「だったら、それでいい。俺の方は問題ない」
えーと?
今度は私が黙る番だった。しばらく、考え込んでいると、おっさんが急に立ち上がって、カウンターの左端を開けた。
「中に入ってこい。始めるぞ」
「今からですか?」
「することないんだろ。このまま帰るぐらいなら、何か覚えようとしてから帰れ」
……まぁ、言いたいことは分からなくはないですけど。
「リカルド、これ、契約書。ここにサイン頂戴」
「分かった。――ジェンナ!」
カーテンを開けて、多分、さっきのおばさんだろうな。あの人を大きな、良く通る声でおっさんが呼んだ。




