2-66 湖の向
湖の向こうを横切る稜線が、藍色に滲んでいる。夕陽で焼けていたであろう空を冷やす、静かな色だった。時を待つまでもなく星が灯り始め、空を埋め尽くした光が、湖を夜空を映す鏡に変えた。
「ヨリちゃーん、ご飯にしよっか?」
は、すいません。思わず見入ってしまいました。
「きれいでしょ。ここから見える風景」
「ですねー」
背の低い石の壁で囲まれているだけで、屋上には何もない。
見渡せば、夜に沈んでいる街はどこか遠く、夜空が注ぐ星明かりの下で、息を潜めているようにも思えた。
「ヨリちゃん、そっち、持ってくれる?」
「はい」
バスケットの中からレインツリーさんが取り出した、しっかりした布製のレジャーシート的なものを、二人で広げた。
「上がって上がってー」
「お邪魔しますです」
「どーぞどーぞ」
靴を脱いで、レジャーシート的なものの上にお邪魔する。レインツリーさんが足を崩して座ったので、私も座った。
正座で。
「いや、正座とかしなくていいから」
「そうですか? それでは、失礼しますです」
ほいではよっこいせ。
「ヨリちゃん、わりと体育会系?」
「ではない、と思いますけど」
「そうかなー」
話しながら手早くバスケットの中から、タッパー的なものや、紙の袋に包まれたパンを取り出して、きれいにレインツリーさんが並べていく。
「このパンは香草が色々と入ってるパンでね。エルフの郷土料理みたいなもの。子供の頃はこればっかり食べさせられてさー」
「子供の頃ですか」
「転生したての頃ね。もう、二百年ぐらい前?」
……おぅ。
「まずは、手を洗って」
え。どうやってですか?
「ん? ちょっと待って。えい」
そしていきなり浮かび上がる、水の球体。
「え、えぇ……」
何でもありかこの人。
「とう」
チョップで水の球体を二つに今度は割った。
「これ使ってね。ヨリちゃんも。手を入れるだけでいいから」




