2-64 今すぐ
「今すぐ、準備してきますので」
鍵、ハンカチ、身分証。
全部、エプロンのポケットに入るから、バッグはいらない。
よし。
「準備できましたです」
戸締り戸締り。
「はい、オッケーです」
「うん。あ、明かり出しとくね」
少しだけ目を閉じて、何かに頷くような仕草をレインツリーさんがした瞬間、蛍ように緩やかに飛ぶ小さな光が、幾つも現れた。レインツリーさんが差し出した両手の手のひらの中に、渦を巻きながら集まっていく。とても、きれいな光景だった。
集まった光を、優しく宙に向かって押し出すようにして放つ。
暗くなり始めた宿舎の廊下にわだかまる薄闇を溶かしながら、光は静かに輝く球体となって、私とレインツリーさんの足元に収まった。
「……おぅ」
うーぬ。トーチライトさんは、呪文を唱えていたような気がするけど、レインツリーさんはいわゆる、無詠唱、というやつか。
「どしたの?」
「いえ、呪文とか、唱えないんだなぁ、と思いまして」
「んー、慣れればできるよ。あとほら、あたし、叡智の魔女だし?」
得意げな顔してる。
ははは。
「それじゃー、行こうか。ちょっと、階段上ったり下りたりだから、時間かかるけど」
「複雑ですよね、この建物」
宿舎と転生者組合第三支部をつなぐ渡り廊下を並んで歩いていくと、光の球が少しだけ遅れてついてくる。
「入り組んでるからねー、ここ。外に出て飛行の呪文か何かで飛んでった方が早いかな」
「やめましょう。我々はスカートです。丸見えます」
「そうか。そだね」
納得してくれたようで、良かったです。




