1-13 湖畔の高台に
湖畔の高台に、この建物は在るようだった。
見下ろす湖面が、陽射しを吸って風に揺らぎ輝く様子は、思いのほか近い。目の前を湖に沿う石畳の道が横切り、荷馬車の車輪が小石を弾く音に誘われ、目で追うと、物静かな姿で咲く桜が、続く道の先に点々と植えられているのが見えた。
「おほー」
水の匂いの香る風が、さざ波の音を運んでくる。淡い色の桜が、その音に合わせて湖の放つ、光の中に溶けながら沈んでいくように感じるのは、なぜだろう。
「きれいですねぇ」
風景をきれいだと言った自分に驚きながら、私は光の中に霞んで見える桜を見つめ続けた。薄紅の色が、とても春らしい。
「……桜の花か」
窓から急ぎ足で離れた私に、どうした、とコールズさんが声をかけてきた。
「気になることが」
名字一覧に、確かあったはず。
「おぅ、ありましたありました」
名字一覧の最初のページに、ブロッサム、という名字はあった。
桜はチェリーブロッサムで、ブロッサムは花、という意味だった気がする。
「んむ」
ともかく。名字は、決まった。
「今日から私は、ヨリコ・ブロッサムであります!」
なんとなく、敬礼をば。
「納得いくのが見つかったか」
「はい」
「良かったわね」
「はい」
人の良さそうな笑顔をこちらに向けるお二人に、私はそれぞれ、頷き返した。
で、名字問題はこれでいいとして、一つ、気になることが。
「この世界にも、桜があるんですね」
そめいなんとか、に似てる気がします。
「転生者の尽力によるもの、らしい」
「あー、なるほど」
「詳しいことは良く分からんが、全く同じではなくて、元になったものより、この世界の桜の方が長く花を咲かせるそうだ」
「へー」
コールズさんが教えてくれた。
転生者の尽力、ということは、前世の世界のものを再現するような、固有技能の使い手が現れた、ということなんだろうか。
元々は、この世界にはなかった、ということなのだろうし。
例えば、このジャブラジャーラのように。
「……肩紐を引っ張り出すの、やめなさい」
トーチライトさんに、強めに怒られた。




