2-61 お気
「お気遣いをありがとうございます。でも、ブロッサムさんに、この世界に慣れて頂くことも大切なことですから。お気兼ねなく、おっしゃってください」
「まぁ……はい」
気づけば鐘楼広場を既に抜け、湖沿いの馬車道に入っていた。こちらの世界にやって来て、一週間。心なしか、桜も花を落とし始めているような気がする。
確か、前世の世界よりもこちらの世界の桜は、寿命が長いんだったっけ。コールズさんがそんなことを言っていたような。
話を変えよう。
「この辺りの桜って、いつ頃まで咲いてるんですかね?」
「そうですね……例年通りですと、四月の半ば過ぎぐらいまででしょうか」
今日は、四月十三日。
「あー、じゃあ、もうすぐ見納めですね」
長いといっても、半年、とかそういうわけではないんだ。花見の期間を少し、長めに取れる、ぐらいか。ふむ。
例年通り、というからには、ブライトンさんはフェザーフォールが地元の人なのかな。
「ブライトンさんは、フェザーフォールが地元なんです?」
「いえ、こちらには四年ほど前に越してきました」
おぅ。
「故郷はポートラインという国です。フェザーフォールの、北西にあります」
「海に近いところにあるんですよね?」
「そうです。ご存知でしたか」
まだ、不完全ではありますが、地理的なことは勉強中でありますよ。
「海岸沿いに作られた城壁の内部が街になっています。王城も、その城壁と一体化しているんです。初めて御覧になられた方は、とても驚かれますね」
へー。城壁が街。なんかファンタジー。
「そこにあるご実家から、十五歳の時に離れて一人暮らしをされてるんですね」
今が十九歳で、四年前だから十五歳。
ちょっと違うんです、と言って、ブライトンさんは上品に微笑んだ。
「父の仕事に私がついてきたんです。こちらに、住居を持つことになりましたので」
「お父様とご一緒なんですか」
「はい。よろしければ、私の住まいにご招待致しましょうか? もちろん、支部長の許可を頂かなくてはなりませんけれど、転生者の方々はフェザーフォールから離れることもできませんし……気晴らしになるかも知れません」
なんか、それはものすごく、申し訳ないので。
はい。
「そうですか……」
あ、なんか悲しそう。えーと、むーん、ぬーん。
「住んでいらっしゃるところは、近いんですか? あのー、フェザーフォールも、それなりに広いですよね」
徒歩で第三支部まで通うのは、湖の向こうの方とかだと大変そうです。
「あ、いえ、すぐそこなんです」
第三支部のある脇道にちょうど差し掛かったところで、ブライトンさんが指をさしたのは、各国の騎士階級の人たちのお屋敷がある方角だった。




