2-58 だから、桜の
「だから、桜の花びらには思い入れがありまして。ルーペさんがお作りになった髪留めは、桜の花びらがモチーフになっていますでしょう?」
そう、と言って、ターナーさんが頷いた。
「それで、あの髪留めが気になったのね」
そういうことでありますです。
「きっと、ブロッサムさんの心の中に、あの髪留めの形がぴったりと収まったのかも知れないわね」
はへ? 形ですか?
「リカルド・ルーペの作るものは、見る人の心の中の空白に、吸い込まれるように収まってしまうって言われていてね」
心の中の空白ですか。
「懐かしさとか、寂しさとか、楽しさとか、色々な感情が混ざり合ってしまって、上手く言葉にできないまま、ゆったりと記憶から薄れてしまうような、そういう、遠のいていく、風景、と言えばいいかしら。そんな、心の中の消えかけている風景を、リカルド・ルーペの作品は呼び起こしてしまうんじゃないかなって、私は思っているの」
遠のいていく、風景。
「ごめんなさい、変なお話をしてしまったわね」
「いえ……なんというか、私の内側にはない言葉だったので……きれいな表現ですね。遠のいていく風景って」
「でも、寂しいでしょう?」
寂しい……そうですね。
「見た目からは全く想像できないけれど、繊細なものを作るのよね、あの人は。本当に」
同じようなことを、レインツリーさんも言っていたような気がする。
どんな人なんだろう。リカルド・ルーペさんって。
「あら。休憩時間、あと十分しかないわ。急いでご飯、食べちゃいましょう。お食事が終わったら、私と一緒に一階でお手伝いをしてちょうだいね」
「一階ですね」
手のひらサイズの時計を見ていたターナーさんに、私は、了解です、と言葉を続けた。
ふーむ。
遠のいていく風景、か。
……おにぎり、食べようかな。
おぅ、梅干し酸っぱい。




