1-11 これはさすがに
これはさすがに想定外だったので、今度は私が言葉に詰まる番だった。
「ま、なんだ。このようにだな、特別な道具が必要ではあるが、お前の固有技能に近いことを実現する手段が、この世界にはある」
ソノヨウデスネ。
「しかし、だ。お前は自分の好きな時に、自分の力だけで、このステータス情報を見ることができるわけだ」
コールズさんは、端末宝珠の上に浮かんでいる半透明の板状のものを見ていた。
「ステータス情報の表示は、専用の施設と、その施設内に設置されている端末宝珠、そしてそれを扱う権限を与えられた者の、三つの要素が揃って初めて、可能になる」
へー。
「だから、お前の固有技能は、たいしたもんなんだよ。な?」
あー、これは。
「もしかして、励ましてくれてます?」
「まぁ、そうだ」
淡い光が渦巻く端末宝珠にコールズさんがもう一度触れると、ステータスの表示が消えた。
「あと、さっき、お前いきなり、固有技能使ったよな?」
「……ですね」
「いちおう、相手に確認を取ってから使うようにな。先方からすれば、何が起きるか、分からんわけだしさ。まぁ、礼儀みたいなもんだ」
……そこまで頭が回ってなかった。
「誠に失礼致しました」
「いや、そんな深刻な話じゃないから。こんなこと言った俺が言うのもあれだが、気にするな」
ぬーん。
「この話はここまでにしておくか。よし、お前」
「何でしょう?」
「名字を決めろ」
「唐突ですね?!」
いや、名字を決めるという話は、さっきから出てはいましたけど!
トーチライトさんが、端末宝珠にしていた何かをやめたのだろう、宿っていた光がゆっくりと消えた。
「これからあなたには、この端末宝珠を使って、身分証を作ってもらうことになります」
据え付けの書類棚的なところから、コールズさんが紙の束を持ってきて、私に手渡してきた。左上には穴が開けてあって、そこに通した紐で綴じられている。
紙は三枚。転生者用名字一覧と書かれた見出しの下に、名字らしきものが書き並べられていた。
「おぅ、読めますね」
トーチライトさんの机の、支部長というプレートも読めてましたし。
「そういうもんらしい。あれこれ考え込むと抜け出せなくなるから、今は馬鹿になって受け入れろ」
馬鹿になってと言われても……まぁ、そうした方が良さそうですけど、そもそも、この紙とか、ファンタジー定番の羊皮紙じゃなくて、質の悪い模造紙みたいな紙だし、どこでどうやって作っているのか、とか、気になることだらけですけれども。
それに、身分証?
「ステータス情報を簡易表示した、カードのことです」
トーチライトさんが手のひらに乗るぐらいの大きさのカードを見せてくれた。特に何も書いてない。材質は……紙? しっかりした厚紙。ふむ。
「名字は、その資料の中から選んでください。時間はありますから、納得のいくものを、ね」
「あとで変えたりとかは」
「できません。私は転生者ではないから良く分からないけれど、名前と同じで、これ、というのが見つかるそうよ」
トーチライトさんが少し、砕けた口調でそう言った。
ふむ。これ、というの、か。




